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年が明けても人はそんなに変わらない≪前編≫

 やぁ、みんな。僕だよ。

 愛すべき変態こと、滝沢辰だ。

 変態という言葉を褒め言葉か貶しているのかと聞かれれば、正直反応に困る。開き直るほど僕は変態を極めていないと思いたいし、以前にも言ったかもしれないが、僕だってはじめから変態をこじらせていた訳ではない。

 彼女は僕が変態過ぎて困っている何てことを宣うが、とんでもない。僕から言わせれば、彼女が可愛すぎて困っているのだ。


 彼女について語り出したら、多分日が暮れてしまうのでここでは割愛する。

 さて、今日は最近の出来事について話そうか。

 自分で言うのも何だが、これ以上ない激甘なクリスマスを経て。その余韻に浸る間もなく、直ぐ様迫るのはお正月。

 僕はというと、行く年繰る年には彼女と並んで格闘技番組を見るという、平凡な大晦日を過ごしていた。

 ……色気がないと思うかもしれないが、そんなことはない。横で目を輝かせながら「私にも出来るかしら?」なんて無邪気に笑う彼女に悶える僕は、格闘技なんかぶち当てられなくてもノックアウト寸前。

 普段クールな娘がはしゃぐと物凄く可愛く見えるのは神秘だと思う。

 よかった。ガキの使いが本当は見たいなんて言わなくてよかった……。量産される笑いより、自然に出る幸せな笑いの方がいいに決まってる。

 あ、でも今年のビンタやらタイキックは見たかった……。

 何て思ってたら、彼女がいつの間にかダビングしてくれていたらしい。僕の彼女がマジ出来る女過ぎて泣いた瞬間だった。

 因みにその後に「辰が見たい番組も……一緒に見たかったから」何て照れ顔で言われたら、もう僕はダメだった。

 メガ進化やゲンシカイキしそうな勢いで彼女にダイブした僕が、鮮やかな巴投げで壁に叩きつけられたのはお約束だ。


 ……いかん、話が逸れた。

 とにかくだ。お正月である。

 年明けてすぐに実家へそろって帰った僕達は、それぞれの家族への挨拶もそこそこに、親戚やら従兄やら昔の仲間達との再会に奔走していた。

 お正月特有の慌ただしさ。その合間で、ようやく空き時間が出来た。と、いっても既に夕食を食べた後だから日はとっくに暮れていて、出来ることなんて限られているのだが。ともかくそれを満喫するように妹と炬燵を囲み、実家の居間にて寛いでいた僕は、ふと気がついた。


「……いかん、綾分が足りない」


 説明しよう! 綾分とは! 僕の生きる原動力であり、彼女とのスキンシップやらコミュニケーションで精製されるエネルギーである。

 そんな事を今年小学四年生に上がる妹に言ったら、「お兄ちゃん気持ち悪いよ」何て返答が帰ってきた。……少しだけ傷付いたのは内緒だ。


「足りないって、二日会ってないだけじゃん」

「その二日が予想以上に濃くて疲れたんだよ。僕に今必要なのはそう……癒しだ!」

 ああ、綾のスレンダーなのに出るとこも出た奇跡にも等しい身体。凛とした声。艶やかな髪……。綾の膝枕が恋しい……。おっぱい枕でもいい。前にやってもらった時は昇天するかと思った位だ。いっそ蹴られるのすら……。

「ララちゃん日記。上京したお兄ちゃんが、変態な上にドMになって帰ってきました……まる」

 居間の炬燵を挟んだ向こう側で、妹がゴミを見るような目で見てくる。くそ……反抗期か?


「綾だってあれで寂しんぼなんだよ。いつぞやの旅行の時みたいに、泣きながらふて寝してるにちがいないっ!」

「ララちゃん日記。お兄ちゃんが自意識過剰で痛々しいです……まる」

「お前さ、それ止めろよ。何かわかんないけど腹立つ」

「……ララちゃん日記。お兄ちゃんが脅してきます。こわ~い!」


 どうしよう。最近妹の言動がうざったいんだが?

 滝沢(たきさわ)来蘭(らら)。マイリトルシスター。鳶色のサラサラ髪。サイドテールが特徴。ウザい。説明終了だ。


「あ、でもさ、今日の朝に綾お姉ちゃんに会ったけど、普通だったよ?」

「……おいまて。何でお前が僕より先に会っている?」

 一日の午前に帰ってきてから、僕は彼女と会話は愚か、触れてもいないんだぞ?

「朝のマラソンしてた。あたしはラジオ体操の帰りに会ったの。ナデナデして抱っこしてくれた」

「なん……だと?」

 挑発するように鼻を鳴らす妹。僕はただただ歯噛みする他なく……。


「いい匂いしたなぁ……」


 そりゃそうだ。女の子特有のそれだが、彼氏彼女の贔屓目抜きにしても、僕は綾以上にいい香りがする女の子を知らない。シャンプーとかは同じのを使っているにもかかわらずだ。こいつめ……あれを堪能するとは何てやつ……!


「髪も触らせてくれたけど、やっぱり凄く綺麗だよね~。どんな手入れしてるんだろ?」


 髪はもはや説明不要だ。綾曰く、絶対敵わないと思った女の子がいたらしいけど、それは僕にはどうでもいい。大学近くにある、お嬢様学院の生徒だったらしい。お嬢様って響きはなかなかいいね。とだけコメントしておこう。

 てかお前……何触ってくれてんだ僕だって触りたいのに。


「おっぱいにね、顔がむぎゅ~って……」


 ところで妹よ。一つ確認してもいいかな?

 別にお前を倒してしまっても構わんのだろう?

 因みに綾のサイズは僕だけの秘密だ。小さくなく、大きすぎもしない、絶妙なもの……とだけ述べておく。


「ララちゃん日記。お兄ちゃんの心が狭くていやらしいです。いっつ・あ・すもーるわーるど……まる」


 よーし、戦争だ。


 手頃なミカンを投げつけると、妹は片手で器用にキャッチして、そのままムキムキ。ミカンの白い髭だけをこっちに投げ返してきた。

 こ、こいつ……。齢九つにして地味ながら精神に来る攻撃をいったい何処で……。


「この前ママがパパにやってた」

「父さんェ……」


 強く生きて。としか言えなかった。

 終わらぬ妹の攻撃に降参のジェスチャーをすると、妹は「苦しゅうない。褒美をとらそう」なんていいながら、ミカンを一欠片。酸味が程よく乾いた身体に嬉しかった。

「どうせお兄ちゃん、お正月終わって暫くしたら帰るんでしょ? 綾お姉ちゃんと一緒に」

「うん、まぁそうなんだけどさ」

 せっかく帰ってきたし、久しぶりに二人で何か……。

 そこで、僕の脳裏に電撃が走る。



「そうだ。夜這いに行こう」


 沈黙が流れ、そして……。


「ララちゃん日記。お兄ちゃんがナチュラルに犯罪犯そうとしてます。キモい……まる」


 冷たい突っ込みが入る。てか妹よ。お前夜這いの意味知ってるとはどういうことだ? お兄ちゃんちょっと心配に……。


「それが……あたしがお兄ちゃんと交わした最期の言葉でした……まる」

「露骨なフラグ止めてぇ!」


 そうとも。ちょっと綾の部屋に侵入してペロるだけだとも。


「お兄ちゃん、そんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない」


 ……いや、やっぱり一番いいのを頼んだ方がよかっただろうか?

 ともかく、決断した僕の行動は早かった。レッツゴーお隣さん!

 フリフリと片手を振る妹を残し、僕は意気揚々と外へ躍り出た。


 ※


「……ララちゃん日記。せっかく暇になったんだから、もう少し遊んでくれてもいいと思います……まる」


 ちょっとだけ寂しそうな声が、誰もいない居間にこだましていた。

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