満月鬼の正体
次の日 夜 一識の屋敷
一識、高次、正頼を前にして望は涼しそうに凛とした態度で向き合っていた。四人の間の空気はとても張り詰めていた。その均衡を破ったのは一識だった。
「望・・・。」
「どうした。そんな改まって・・。満月鬼の正体でもわかったのか。」
望は冗談のようにくすりと笑って言った。望の表情はいつもより豊かで安心と温かみに溢れていた。気まずく暗くなっている三人とは正反対だった。
一識は身が引きちぎられる思いと共に焦っていた。
「その通りだ。」
「そうか・・・。ん!」
その時だった。暗闇の中から弓矢が四人めがけ飛んできた。そしてそれは一識をかすめて壁に突き刺さった。
「何者!」
望は持ってきていた剣を抜き言い放った。
すると、闇の中から独りの男が姿を現した。男は顔を仮面で覆っていた。そして、右手には光り輝く刀を持っていた。
高次も剣を抜き、望の隣で構えた。
「満月鬼だ・・・。」
望が小声で言った。
「やっぱりな・・。」
高次は安心したように言った。
「高次、頼みがある。」
望が小声で言う、それを高次も小声で答える。
「何だ。」
「一識と正頼をつれて右大臣様の屋敷へ行ってくれ・・・。そして、満月鬼が現われた。と、そして捕まえたと言いに行ってくれ。」
「待て、お前はどうするのだ。」
「私が何とかとかまえる。お前は二人を連れて行ってくれ。」
「そんなこと危険すぎる。させられない。」
「頼む、行ってくれ。ここは私に任せてくれ。」
「嫌だ。」
「行くんだ。」
「嫌だ。」
「行け!」
望は怒鳴りつけた。それを聞いて高次は渋々剣を納めて二人を屋敷の外へいざなった。
「望、決して無理をしないで。」
正頼は望にそう言って屋敷を後にした。
三人が屋敷を後にすると、望は剣を納めた。そして、男も刀を納めた。
男は望の前まで足を進めた。そして、男は仮面を取った。
「何しにきた。瑠璃香。自分が何をしているのかわかってるのか。」
仮面をしている男の正体は女だった。そう、望の妹瑠璃香だった。
瑠璃香姫は鋭い目つきで望を見た。そして、結えていた髪をほどいて言った。
「姉上こそ。馬鹿なことをなさろうとしていた。一体何を考えていたのです。」
「瑠璃香。もう、満月鬼は終りだ。こんどこそ、私は止める。瑠璃香お前の身体も元に戻す。」
「そんなことは許しません。姉上。帝を殺すなら今です。いや、今しかないのですよ!どんなことをしても使命をまっとうしてもらいますよ。」
「嫌だ。」
「望・・・。」
望は声を聞いて驚いた。
「正頼、どうして、ここに。」
それは、正頼だった。正頼は二人の部屋の入り口で会話を聞いていたのだった。
正頼はあの後一人で望を助けるべく、引き返したのであった。
「おのれ、またお前か。もう許せぬ!殺してやる!」
そう言って瑠璃香姫は阿修羅のような凄まじい表情で正頼を睨み呪文を唱えた。
「やめろ!瑠璃香!!」
望はすぐさま反対呪文を唱えたが時すでに遅し、正頼は瑠璃香の呪文によって倒れてしまった。
望はすぐさま正頼を抱きかかえた。そして、何度も正頼の名を呼び、肩を揺さぶった。
「なんて事をしたんだ。瑠璃香!」
「助けたければ、使命を果たすのです。帝を殺すのです。」
望はぐったりと倒れる正頼の顔を見て望はしばらく考えた。そして、決断した。
「帝を殺せばいいんだな。わかった。その代り絶対に一識と高次と正頼には一切手出しするな。」
「文句ございませんわ。天球さえ取り戻してくださるなら。」
その瑠璃香姫の表情は悪意の塊でしかなかった。望は瑠璃香姫は自分の望みを聞き入れる気など、さらさら無いと感じた。