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満月鬼  作者: 安倍椿
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望の妹、瑠璃香姫

正頼は小さく呟くように言った。

「ですが一識様、望はたった一人の末裔ではありません。望には一人、妹がいます。瑠璃香姫という妹です。」

「あったことがあるのですか。」

一識が尋ねた。

「いいえ、ただ一度、望と瑠璃香姫が話をしているところを見たことがあります。」

「一体何を話していたのですか。」

「そっ、それは・・・。いえません。」

正頼の顔がはげしく歪んだ。それは、なにかに耐えているようだった。

一識は正頼の肩をつかんだ。正頼をじっと見つめていった。

「言って下さい。もしここで望が満月鬼だとわかって、ここで望の身柄を確保できたら、望を助けられるかもしれない。しかし、もし、ここで確保できなかったら、きっと帝を殺すぞ。そうすればもう助けられない。俺達は助けたいんだ。望は俺達の大事な友だから・・・。頼む正頼殿はなしてくれ。」

「ちょっと待てよ。」

高次は床を思いっきり叩いて言った。

「さっきからきてれば、はなから望が犯人のように言ってるじゃないか。一識、おまえいつから友を疑うような人間になったんだよ。望がやったという確証は何一つないのに、過去の一族の者達のしわさから、犯人だと疑うなんて・・・。見損なったよ。正頼殿・・・。今でも想いを寄せている女性なのになんであなたまで・・・。俺は信じないぞ。望が満月鬼だなんて・・・。絶対信じるもんか!望は俺に約束してくれた。絶対に共に満月鬼を捕まえると。おれは友を疑ったりしない・・。」

「高次様・・・。聞いて下さい。私が聞いた会話はこうです・・・。」

正頼は語り始めた・・・。

五年前・・・。

真夜中、この日正頼は仕事が遅くなり帰宅が深夜になってしまった。この時正頼は望の屋敷に住んでいた。もう望も妹の瑠璃香姫も寝てしまっただろうと思い、静かに廊下を歩いていた時だった。ちょうど瑠璃香姫の部屋を通りかかろうとしたところだった。

「うろたえているのですか。姉上。」

瑠璃香姫の声だった。声色はひどく怒っているようだった。

正頼は立ち止まった。そして柱の陰にいき、身を低くして話を聞くことにした。

「何千年もたった今、我が一族もお前を入れたとしてもたった二人。なのにもう、執着する理由もないだろう。」

望の声だった。

「何を言っているのです姉上!姉上は何故ここにいるのかわかっているのですか。今、やっと吾らののぞみが叶おうとしている時なのですよ。姉上は一族ののぞみをかなえる最期の切り札なのですよ。何のために父上が命をかけて赤子の内親王を攫い、そして、姉上にその内親王の身体をお与えになったのか、わかっているのですか。」

「それは父上が勝手にやったことだ。元々私にはちゃんと身体があった。それを勝手に父上がすりかえてしまっただけだ。」

「そのお陰で玉座の結界を受けることなく、その気になればいつでもあの男を殺し、天球を取り戻すことが出来るのですよ。一族の努力を無にしてはなりません。」

「ここで、帝を殺しても何にもならんではないか。もう、時間がたちすぎている。もはや、こんな争い無意味だ。」

「ははははは。姉上、気が狂われたか。もう無意味?戯けたことを・・・。やっぱり姉上はおかしくなられた。あの男のせいですか。姉上、そもそも何故、あの男と結婚などしたのです。」

「私はもうこんなことしたくない。正頼と共に人間らしく穏やかに暮らしたいんだ。」

「そんなことは許しません。やはり、あの男のせいですね。姉上はすっかり弱腰になられた。あの、美しく冷酷な鬼のような姉上はどこへ行ったのですか。それもこれもあの男の存在のせいならば。私はあの男を殺します。」

「何をいっているんだ。そんなこと許さない。」

「では、やるべきことをなさって下さい。いいですか、姉上。姉上の身体はわれら一族の物。姉上の物ではないのですよ。われらの言う通りになさらなければ、いつでも姉上の御魂をその身体から離し、私がその身体にはいり正頼を殺し、帝を殺しに行っても良いのですよ。もし、正頼を生かしたいのであれば、私たちの、のぞみを叶えるのです。」

「・・・・。」

「姉上!」

「わかった。」

「天球は我が一族の物なのです。絶対に取り戻すのです。」


「この会話はずっと誰にも言わず、隠し通すつもりでした。でも、一識様が望を助けるためだとおっしゃったのでお話しました。高次様、望はこんなことしたくないって思っているんです。でも、望だけの力ではもうどう仕様も無いのだとおもいます。望を助けるためにも、私たちの手で内密に捕まえましょう。」

「わかった・・・。でも、俺は信じないぞ。望が犯人だなんて・・・。きっと間違いに決まってる。」

高次は言った。

「それじゃあ、明日の夜、望をここに連れてきてくれ高次。」

一識が言った。

「わかった。」

高次は祈るようなきもちだった。


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