義姉の死
そして、その時は静かにやってきた。兼昌の胴と首は真赤な血飛沫をあげて離れた。
高次はしっかりとその時を見届け、二人を促しそそくさとその場を後にした。
「すまないが、飛鳥姫様のところへ寄っていいかな。」
高次が聞いた。
「ああ。」
「構いませんよ。」
三人は牛車に乗り飛鳥姫の元へ向かった。
飛鳥姫のいる兼昌の屋敷の門は大きく開け放たれていた。そして、様子がおかしかった。
高次は牛車から飛び降り、屋敷に駆け込み大声で飛鳥の名前を叫んだ。
「飛鳥姫様!飛鳥姫様!」
高次は屋敷に入った瞬間から、何かが燃えている音と煙の臭いを感じずにはいられなかった。それは、高次の不安を増幅させた。
屋敷は何もなく閑散としていた。ただ何も無い空間に美しい御簾が風に靡くだけだった。
「高次!」
高次は背後からの女性の掛け声に足を止めた。そして後ろを振り返った。聞き覚えのある声だった。とても親しい友の声。
「望・・。姉上を知らないか。心配で仕方ないんだ。」
望は高次に悲しい眼を向けた。
「案内しよう。」
望は高次を飛鳥姫のところへ案内した。
「姉上・・・。そんな・・・。」
その光景はあまりにもつらい光景だった。庭ではこの屋敷のあったと思われるものすべてが燃えている最中だった。そして、部屋には血を吐いてすでに息を引き取った飛鳥姫がうつ伏せに倒れていた。右手には一枚の美しい桜色の紙が握られていた。
「姉上・・。」
高次は飛鳥姫の元に座り、やさしく開いていた飛鳥姫の目を閉じた。そして、右手に握られた紙を取った。そして、高次の眼からはらはらと涙がこぼれた。
「姉上はこんなにも兄上を想っていらっしゃったのか・・・。」
そう言って、高次は紙を飛鳥姫の元に返した。高次は涙を拭いて、立ち上がった。そして、 望の方を一瞬見て部屋を後にした。それと入れ替わりに一識と正頼が駆け込んできた。二人は部屋の光景を見るなり息を呑んだ。
「なんということだ・・・。」
一識は呟いた。そして、望をみた。
「来ていたのか。いったいどうしてここにいるんだ望。」
「兼昌様は無実だ。それを、飛鳥姫様に伝えにきたんだ。しかし、時すでに遅しだった。」
「まさか、兼昌様の愛人のぞんざいを・・・。」
「愛人など私は知らない。でも、私は無実であることを知っていた。」
「どうして、無実だと知っていた。」
望は二人に背を向けて言った。
「伝えなければならない本人が死んだ今。もう、誰にも話す必要はない。」
そう言って、望は二人の前から姿を消した。
そして、二人も屋敷を後にした。
こうして、京都の都を震撼させた満月鬼の事件は四人を除いて解決された。