どこにもいかないから
正頼の放った弓は望の左胸に刺さった。
しかし、何も起こらなかった。望はまだ生きている。
望は大声で笑った。
「くだらない。気が済んだか??こんな矢いたくもかゆくもない。」
そういって望が矢に触れた瞬間だった。
突然、矢が光だし、奥へ奥へと入り始めた。
「何??」
矢は突き抜けることなく望の中に吸い込まれるように消えてしまった。
「まっ!!まさかこれは・・・。」
望は胸を押さえ苦しみ始めた。
「わっ、私の魂が・・・・。天球が・・・・。こっ、こわれ・・・る。あ”ぁ”・・・・。」
すると望の体が青い光に包まれ、そして、その光がひび割れて砕け散った。
そして、そこには胸を射され横たわる望の姿があった。
赤く染まっていたつきも元の月に戻った。
三人は望のもとに駆け寄り、正頼は望を抱きかかえた。
夜の闇からは望敗れた一族たちのうめき声や、のろいの言葉がこだましてた。
望は意識を取り戻し、口を開いた。
「お前たちはやくここから去るんだ・・・。でなきゃあ。殺されてしまう。あいつらは神に滅ぼされる前に私を八つ裂きにする気だ。」
「もう、どこにも行かないから。」
そういったのは正頼だった。正頼は微笑んでいた。いつもの穏やかな表情で。
望はその表情をみて涙があふれてきた。
正頼は一識、高次に言った。
「二人は早くお逃げください。」
高次は言った。
「それはできない。みんなで逃げるんだ。」
「お願いです。逃げてください。私たちはもうここでいいのです。」
「一識、高次、正頼・・・逃げてくれ。」
望がいき絶え絶えに口を開き始めた。時だった。黒い影が現れ四人に近づいてきた。
「早く逃げるんだ!!」
望はそう言って、起き上がり正頼を突き飛ばした。
望は影に向かって言った。
「私を八つ裂きにするならやればいい。だが、あの三人には手を出すな!!」
影は何も言わず近づいてくる。そして、望が影に呑みこまれ始めた。
「正頼!!もう、私もどこにもいかないから。」
そういって微笑んだ瞬間、望は影の中に消えてしまった。
そして、影が大きく膨らんだり、しぼんだりを繰り返しそして、影の中から大量の光が飛び散った。
それは望の魂だった。
光は火の粉のように淡くはかなく散っていった。
そして、影が三人に忍び寄ったときだった。
影を光が貫いた。そして、その光は朝日だった。
そう、夜が明けはじめたのだ。影は次々と光に射され、そして消え去った。