放たれた矢
「望!!どこにいる!?」
高次と一識は紫宸殿までたどり着いた。
二人は辺りを見ました。満月が二人の視界を助ける。
「よくきたな二人とも・・・。」
その声を聞いて二人は玉座のほうへ向き直った。そこには帝がいた。
しかし、その声は違った。その声は二人の聞きなれた声、望の声だった。
「遅かったじゃないか。待ちくたびれたぞ。」
そういって何かがゴトンといって転がってきた。
「うっ・・・うわぁ!!」
「帝!!」
それは帝の首だった。
望は帝の遺体を玉座からどけ、自分が玉座に着いた。その瞬間、望の眼が青々と光り始めてあたり一面が青の炎で覆われ始めた。
「もう、お前たちは手遅れだ。天球はわが一族の元へ還った。お前たちはこれから私たちにひれ伏し、この世界はわが一族のもり、暗黒と恐怖に包まれる。」
「そんなことはさせない!!」
一識は剣を抜いて望にむかって歩き始めた。そして、望の首を切り落とした。
首は地面に落ち、真っ赤な血しぶきをその体の中からあふれ出させた。
一識は肩で息をしながら、血しぶきを浴び望を見続けた。
「これで私が死ぬと思うか?」
望は眼を見開き、体は一識の襟首をつかみ一識を投げ飛ばした。
望の体は望の首を拾うとそれをもとに戻した。
そして、飛び上がり、一識の首に剣をつきたてた。
「ここで、私への非礼をあやまればお前の命許してやろう。さぁ!!どうする!!」
「やめろ!!望!!」
そういって高次は一識から望を突き放した。望は剣を高次に突きつけた。
「望、こんなことしても何にもならない・・・。もう、お前の一族の時代はとっくに終わってるんだ!!」
「だまれ!!わが一族はこれから復活するのだ!!そのためにながきに渡り、一族の者たちは魑魅魍魎に姿を窶しても待ち望んできたのだ。お前たちには言い知れぬ恐怖を与えてやる!!この世界の支配者は私たちなのだ!!」
「そんなことはさせない!!」
一識が背後から望に切りかかった。
「小賢しい!!」
望は全身から青い光を放ち、二人を吹き飛ばした。
そして、二人の首をつかみ、持ち上げ首を絞め始めた。
「死ね。」
「のっ・・望、やめてくれ・・・・。」
「望・・・・。」
「やめるんだ!!望」
そこに現れたのは正頼だった。
正頼は望に向けて弓を構えた。
望は修羅の表情から一変して少し、涙を浮かべながら正頼のもとへ歩み寄った。
正頼は弓を下ろしてしまった。そして望はその正頼の震える手を握って胸に寄せた。
「どうしてわかってくれないの・・・。やっと二人が結ばれる時がきたのに。やっと、なんの邪魔もなく一緒にいられるのよ。」
正頼は黙って聞いていた。決して目をあわさなかった。
「正頼。私はずっとあなたしか見ていなかった。どんなときもあなたを想って胸が張り裂けそうだった・・。でも、この世界のままだったら二人は永遠に離れ離れ・・・。だから私はこの世界を手に入れようとがんばったのよ・・・・。なのにどうして私に弓を引くの・・・。あぁ・・・。」
望は正頼の胸に取り縋って大声で泣き始めた。
正頼は抱きしめなかった。そして、大きく深呼吸をして、望を突き放し、弓を構えた。
「ひどい・・・・。どうしてわかってくれないの・・・。」
正頼は何も言わなかった。すると望の表情は一変した。
「わかってくれぬならもうよい・・・。お前も殺すまでだ。射貫くならするがいい。お前が気の済むように。そんな小細工じゃあ相手にならんからな。」
そういって立ち上がった。不気味な笑みを浮かべた。
正頼は思いっきり弓を引いた。そして、目をつぶった。
そして、小さくつぶやいた。
望、愛してるから・・・。
弓は正頼の手を放れた。