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満月鬼  作者: 安倍椿
11/15

青鬼

清涼殿


夜も更け皆そろそろ寝静まろうとしているところだった。


時の帝は琵琶を抱えつきを眺めていた。美しい満月が真っ黒な夜空という湖に煌々とひかり浮かんでいる。


「いつ見ても美しい月だ。」


その月に聞かせるようにゆっくりと琵琶を鳴らす。


風は冷たかったが、それが余計に月の美しさを際立たせるようだった。


ふと、少し強い風が帝の頬を通り過ぎたときだった。


帝は琵琶を止め正面を見た。


「珍しいな、お前から来るとは・・・。」


「あまりにも月が美しすぎて、あなたを思い出したので耐えかねて・・・。」


その声の主は女だった。帝の横にそっと控えていた。


細い体に、漆黒の川のような黒髪、そしてその容姿はとてもはかないものを感じさせるい顔だった。


帝は女と目を合わせることもなく琵琶を抱えて月を見る。


「お前が私の元を去ってもう何年たつだろうか・・・。お互い、見目形も、心も変わってしまった・・・。お前の言うとおりだな。人の心に普遍などありはしない。」


「そうですね。いまやあなたは現人神に、あの親王からずいぶんと変わられた。人の心は移り変わるからこそ、奇跡があるのですよ。こうして私があなたの元へ戻ってきたように・・・。」


「変わる心もあればそうでない心もある・・・。月を見たときの心は今も昔も変わらんさ。」


そういって帝は琵琶をべんと一度鳴らして口を開いた。


「時が来たのだな・・・。」


「本来の場所へ戻すだけでございます。」


「やりたければやるがいい。」


女は一瞬にして青い炎に包まれ、そして、鬼となった。口からは青い炎がひゅるひゅると吐かれ、つめは鋭く、瞳は真っ青で目が釣りあがっていた。


そして鬼は帝に襲い掛かった。しかし、帝に触れようとした瞬間、帝の周りを何かか包み込み鬼は大きく吹き飛ばされてしまった。


帝は琵琶をまざまざと見る。琵琶は赤く光を放ち帝をその光で包み込む。


鬼は倒れてすぐに立ち上がった、しかし、鬼の姿は立ち上がったが、鬼と分離した望の体が横たわったままだった。


鬼は倒れている望の姿をみて驚いた。


「なっ!!何事!!おまえその琵琶に何をした!!」


鬼は青い炎を吐きながら帝に言った。


帝は何も言わず琵琶をはじいた。すると音の波が鬼に襲い掛かった。鬼は耳をふさぎ吹き飛ばされた。


帝は琵琶をとめずなんども鳴らす。次第に鬼は苦しみをまし、その身を小さくさせてゆく。


そして鬼は消え去ってしまった。


帝は琵琶をはじくのを止め、懐から古ぼけた札を貼り、琵琶を置いて望のもとへ行った。


帝は望を抱きかかえた。


「望、もう終わったぞ。」


するとゆっくりと望が目をあける。


「私の言葉を覚えていてくださったのですね・・・。あの琵琶と、札をいつも持っていてくださったのですね。」


「あぁ、いっただろう。月を見るときの心はいまも変わらないって。」


望は立ち上がり庭におり、帝にひれ伏した。


「謀反人に処罰を・・・。」


帝はそっと微笑んで言った。


「西へ行け・・・。遠い遠い西へ、正頼と二人で。」


望が帝の顔を見た瞬間だった。


稲妻が二人の間に落ちた。そして、雲が現れ、嵐のように雨が暴れだした。


「望、何事だ・・・。」


しかし望の返事はない。


そして、どこからともなく声が聞こえてくる。


「天球はわれら一族のもの、いまここにて返してもらおう。」


そう声は言い終わると稲妻が走り、それが琵琶に落ちた。その瞬間、琵琶から青い炎が現れ望を包んだ。望は炎に包まれた瞬間目を覚ました。


「帝!!逃げてください!!」


「望!!!」


炎が望のなかに消え去りそして、そこには望ではなく瑠璃香がいた。


瑠璃香は一歩一歩ゆっくり帝に近寄った。そして、次の瞬間、瑠璃香の手には刀が握られ、瑠璃香は思いっきり振りかぶった。


「死ね!!」


帝は間一髪で刀をよけた。そして走り出した。


瑠璃香はその後ろ姿をみて大声をだして笑った。


「逃げるがいい。しかし、お前に逃げ場はない。必ず私が殺す!!」


そういって瑠璃香は刀を突き立てた。






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