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満月鬼  作者: 安倍椿
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本心

二時間前、望の屋敷。

正頼は虚ろながら意識を取り戻した。そして、目の前には望がいた。ひどくやつれている様子だった。

「のっ、望?」

起き上がろうとする正頼を望は制した。

「駄目だ。まだ、術が効いている。動いたらまた気を失う。」

正頼は力を抜いて横たわった。そして、静かに望を見つめた。

「どうして、戻ってきたりしたんだ。」

望は正頼の頬を一撫でして尋ねた。その眼からは涙がこぼれていた。

その手を握り、正頼は答えた。

「君を守りたかった。」

「そんなことしなくていいのに・・・。仮にも私はお前を冷酷にも捨てた女だぞ。そんな女に・・・。お前は本当馬鹿だな。」

正頼はその声を聞いて、温かく微笑んだ。すべてを包み込むような温かい微笑だった。

「今から、お前を逃がす。いいか正頼。よく聞くんだ。術が解けたら急いで裏口からでて、一識たちの元へ向え。そして、清涼殿に行くよう言え。そして、この矢で私を射殺せ。この矢には強い呪がかかってる。これで、私を殺してくれ。」

「できない・・・。」

「これが、最良の方法だ。私もお前達の手によって死ねるならこの上ない喜びだ。」

そう言って、望は正頼に矢を握らせた。

正頼はその矢を放した。それをまた望が握らせて言った。

「これが、私の望みなんだ。お前の手で私を殺してくれ。頼む。もう、私は生きていることは許されない身の上なのだから。」

そういって、望は正頼に矢を握らせ手を離した。

「わかった。」

正頼は呟くようにいった。

「今から、術を解く。」

望は正頼の額に指を当て呪文を唱えた。すると。正頼の身体から邪悪なヘビが現われた。望はそれを持っていた剣で切り殺した。そして、正頼を起こした。

「行け。」

「その前に、一つだけ聞きたい。」

「何故、離縁してほしいといったか。ということか。」

「あぁ。」

「あの時、瑠璃香はお前を殺そうとしていた。だが、瑠璃香を殺すこともできないし、突き放すこともできなかった。でも、お前を守りたかった。それに、満月鬼である以上、お前を悲しませるのは避けられない。そんなのはいやだった。だから・・・。」

望は涙が止まらなくなり、言葉が出なくなった。そして、床に膝をついてしまった。

そんな望を正頼は寄り添い、やさしく抱きしめた。そして、やさしく言った。

「そうだったのか・・・。話してくれて嬉しいよ。ありがとう。」

望は正頼の胸に縋って言った。

「私は決して、お前を嫌いでいる時など今まで一瞬たりとも無かった。いつも、お前への罪の気持と押さえようのない愛おしさで一杯だった。許してくれ!正頼・・・。」

「私だって一緒だ。君を想わない日なんて一日だってなかった。こうして、お互い再びわかり合えてよかった。望、愛している。」

「私もだ。さぁ、いってくれ。」

そう言って、二人は互いをしばらく見詰め合い、望は屋敷の内部へ、正頼は裏口へ向った。

望が瑠璃香の部屋へ向う途中だった。庭先から、瑠璃香が現われた。瑠璃香は般若のように目を吊り上げ望を睨みつけていった。

「姉上には失望したわ!」

望は無表情に瑠璃香を見た。

「帝は必ず殺す。それなら良いだろう。」

「誠か?」

「あぁ、それが、我が一族の長年の願いだろ。」

「そうです。ですが、もう、姉上でなくても良いのですよ。姉上はまた裏切るやも知れぬ。だから、私が変わりにやります。」

「もう、私には用はないと・・・。言うことか。」

「ええ、そうでございます。」

「それは、丁度いい。私もそなたを元に戻そうと思っていた所だ。丁度良かった。」

そう言って、望は身構えた。

「なにをやっても無駄でございますよ。姉上。私には一族の偉大なる方々がいるのですから。」

そう言うと瑠璃香の背後にある月に次々と人影が浮かび上がりそれが一つになり瑠璃香の背後にたった。そして、瑠璃香と一つになった。

「いつの間に・・・。」

望は呟いた。そして、望は呪文を唱えた。すると、竜巻が起こり、その中に一人の女性が現われた。そして、その女性は持っている羽衣で瑠璃香を縛った。

しかし、瑠璃香の表情は一つも変わらない。それどころか笑っている。

「こんなもの、くすぐったいだけじゃ!」

そう言うと、羽衣の女は吹き飛ばされ、望も吹き飛ばされた。そして、壁にぶつかった。

「さすが、一族の力を受けてるだけある。ものすごいな。」

望はくすりと笑い懐から呪符をとりだし、呪文を唱えて呪符を投げた。

すると、呪符は瑠璃香の額に張り付き瑠璃香を吸い込み始めた。

「なに!吾を封印する気か?」

「そうだ!お前を封印する。」

「そのようなことさせぬわ!」

瑠璃香から発せられた声は、男の声だった。そして、瑠璃香は呪符を取り上げそれを望に投げ返した。すると、望の額に呪符が張り付き、望は身動き取れなくなってしまった。すると、瑠璃香は黒い靄となり望に迫った。そして、望に入り込んでしまった。

「天球は・・・。今、我が一族の手に。」


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