「あ」の物語
シリーズ三話目
*注意:前作(二作目)の短編小説「『あ』から始まる物語」の続きです。
会話の文頭が「あ」から「ん」の五十音順としています。地の文だけは除外しています。なお、濁点と半濁点がついた文字は省略しています。また、「を」の文字を「お」としています。
それでは、「あ」の物語をお楽しみください。
「あれくらいで鼻血を出すとはね」
「いわないで下さいよぉ」
「うだうだ言わない。それで、もう一度するかい?」
「えっと、次は何とか耐えられると思います」
「おもいますではなく耐えてくれ」
先輩がため息をつきながらスカートをただす。僕は先輩の横に置いた端の椅子に座り、ティッシュで鼻を抑えている。それにしても、本当に鼻血が出るとは思わなかった。次は出ないよな?
「かなり難しい気がしますが耐えます」
「きすすると一体どうなるんだろうね」
「く、くちづけ、チュウ、接吻、マウストゥマウス(人工呼吸)……」
「けっこう(結構)な動揺だね。顔が赤いよ、後輩くん」
「こればっかりは仕方ないですよ!」
先輩とキス? あっ、僕死んだな。死因は羞恥死んかぁ。血の付いたティッシュを捨てながら、そんなバカな事を考えていると、先輩が話しかけてきた。
「さて、ほらもう一度だ」
「しない方が賢明な気がします」
「すこしくらい良いじゃないか」
「せんぱい。その少しで鼻血が出たわけですが……」
「それくらい耐えてくれるんだろう?」
うっ、確かに言いましたけど。絶対じゃないんですよ! 鼻血出ますよ!?
「たえられなくて、先輩のスカートに血が付いたらどうするんですか」
「ち(血)が付いても私は気にしないよ」
「ついたら落ちにくいんですよ」
「て洗いすれば意外に落ちるものだよ」
「とりあえず、先輩の意志が固いのがわかりました」
ここまで言ってもダメですかー。膝枕決定、鼻血決定……いやダメだろ。耐える気はあるけどさ。
「なぁ後輩くん。ぼうっとしてないで、こっちに来てくれるとありがたいんだが」
「にげてもいいですか?」
「ぬるいな。先輩からは逃げられないのだよ」
「ねるのはやっぱり無理です!」
「のぞみ(望み)薄な願いだね。ほら、こうすれば逃げられない」
席を立とうとしたが、先輩に制服の袖を握られ、阻止された。
「は、離してください!」
「ひとまず落ち着いたらどうだい」
「ふつうにしてくれれば落ち着きますよ!」
「へぇ~。じゃあこうすればどうなるのかな?」
「ほわっ!?」
そう言うや否や、先輩は僕に抱きついてきた。先輩の頬と僕の頬が軽く触れる。
「まだ抵抗する気かい?」
「み、耳元で囁かないで下さい! くすぐったいです!!」
「むりな相談だな」
「めちゃくちゃ積極的ですね!?」
「もう告白した後だからね」
顔は見えないが、先輩が笑っているのがわかる。だって……だって耳に先輩の吐息がーーーー!! あっ、先輩の温もりがなくなった。
「やっと解放してくれるんですか?」
「ゆるすと思うかい?」
「よそう(予想)はしていましたが、ダメなんですね」
今は肩をガッシリと捕まれている。先輩が真っすぐこちらを見つめ、不敵に笑う。先輩が何か企んでる! また抱きつかれるのか!? 嬉しいけど、恥ずかしい気持ちの方が上なんだ、今は。
「らっかんてき(楽観的)な考えをしているようだね。私が今やろうとしている事、解かっているかい?」
「りかいできたら、こうなってないと思います」
「るいすい(類推)すれば解かるんじゃないかな?」
「れいせい(冷静)になったら解かるかもしれません。ということで手を離してください!」
「ろんがいだ」
一言で切り捨てられた。先輩からの脱出失敗。どうするべきかと考えていると、僕の肩をつかむ先輩の手に、少し力が入るのがわかった。すると、先輩は僕の方へと顔を近づけて行き……って、近すぎないか!?
「わっ!? せ、先輩!?」
「をとこ(男)なら積極的になって欲しいと前にも言ったろう? 今度からは、そっちからしてくれないか?」
「ん!?」
あまりにも突然の出来事で、僕は言葉を発することもなく、ただただ僕の唇と先輩の唇の距離が0になったのを感じるだけだった。
やっと、ここまで持って来る事が出来ました。一作目の「あいうえお作文」の時点で、先輩と後輩がキスすることは決定していたのですが、話の展開する上での都合により、一話で終わるつもりが、三話もかかってしまいました。長かったですねー。三話というのは短いですけど、実に長い。私が「あ~ん」縛りで物語を作ったせいもありますが(笑)。当初の目標、会話の冒頭で五十音順と、ラブコメ? が達成できたのでよかったです。
話を進めるにあたり、なかなか後輩が動いてくれないので、先輩に積極的になってもらいました。この後輩、ほんと消極的ですね。いまどき流行りの草食系男子でしょうか。
「あいうえお」を見せる上で、基本「地の文は少なく」と考えていたのですが、どうしても描写が欲しくなったので、地の文の量が多くなってしまいました。このせいで会話が読みにくかったらごめんなさい。誤字脱字がありましたらご報告お願いします。
ひとまず、「先輩(♀)と後輩(♂)」シリーズの物語はこれで終わりです。もし、次回作を書くとしたら「先輩(♀)と後輩(♂)Ⅱ」、「先輩(♀)と後輩(♂)―改―」、「先輩(♀)と後輩(♂)―増量中―」などなど、他のシリーズとして書きたいと思います(このときは五十音順の縛りは無しです)。感想お待ちしております。
最後になりましたが、ここまでお読みして下さった読者様に感謝を。
この作品を読んで、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、また会えることを祈って。