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ライブハウスへようこそ  作者: 菅原暖簾屋
ライブハウスへようこそ

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6/14

世界はこれを愛と呼ぶんだぜ

 ライブは順調に進み、問題無く終演した。

 ゲストもぞろぞろとライブの感想を口にしながら帰路につき、俺たちスタッフは片づけに入る。まぁ、その前に俺には重要な仕事があるのだが。


「あ、オーナー。今日はありがとうございました」

「お疲れ様です。これ、ドゥイットのギャラです」

「どうもー。俺たち飲みに行くんすけど、オーナーもどうです?」

「俺、未成年だからね」


 そうだったわギャハハとドゥイットのメンバーが笑う。またお願いしますとドゥイットが撤収し、他のライブ出演者たちにも同じようにギャラを手渡す。

 出演者たちと異口同音の会話を終え、スタッフ以外がいなくなったホールを見渡す。すると、スタッフに何かを頼みこんでいる背広の男がいた。

 面倒事かと思って近づこうとすると、真面目な表情の山口に手を取られた。その隙に近藤さんが俺の横を抜けて男に近寄って行く。

 ただごとじゃないと理解し、山口に耳打ちをして状況を訊く。


「何事だ?」

「レーベル関係者。バードと話したがってるからオーナーは引っ込んでて」

「なるほどな。わかった、後を頼む」


 俺と山口は頷き、するりとバーホールのほうへ引っ込む。木内君と仲良くバーカウンターの片づけをしていた清水も引き連れ、俺たちはスタッフルームへ逃げ込んだ。


「急にどったの?」

「レーベルの男がバードについて嗅ぎまわってる。俺はズラをかぶっていたから直接話さなければバレないが、清水は面をつけただけで出演したせいで万が一がある。

 近藤さんがあの男を追い出すまではここにいろ。いいな?」

「りょーかい!」


 ニパッと笑う清水。釣られて俺も微笑み、スタッフルームに置いているラップトップをテーブルの上で起動する。清水はそんな俺の横のパイプ椅子に座り、画面を見つめる。


「今はなにやってるの?」

「売上をデータ入力している。その日のうちにやっておかないと忘れるからな」

「毎日やってるの?」

「いや、ネストには店長がいるから俺がやるのは週の二日程度だ。さらに対外的な場や深夜帯は店長が責任者になる」

「へぇ~」


 本日、店長は休みだ。店長がいる日は深夜のバー営業もある。そんなことを清水に教えていると、スタッフルームに山口が来た。


「奴さん帰ったよぉ」

「御苦労さん。どこのレーベルだった?」


 俺の質問に対して山口は名刺を差し出した。


「富士レコらしいよ。たぶんドゥイットが義理でバードが出るって教えてあげたんでしょうね」

「確かに、出演決定は直前も直前だったから漏れるなら演者しかないか」


 このように義理が噛むので音楽活動というのは難しい。


「で、どうすんの? このまま逃げ続けるのは難しいよ」

「とりあえず、スポピファイ(音楽配信サービス)で今までの楽曲は配信する。牽制にはなるだろ」

「なるかなぁ~」

「……あまりに鬱陶しいなら自主レーベルを立ち上げる。ボーカルは都度フィーチャリングすれば身バレはしないだろ」


 胸の前で腕を組んだ山口がうーんと呻る。結局のところ、こればっかりは行き当たりばったりで対処するしかない。俺はネストの営業が妨害されなければバードのことなどどうでもいい。


「ま、いいか。それより打ち上げどうする~? 近藤ちゃんはベロバァの打ち上げに参加するつもりみたいだよ~」

「俺はネストの締め作業がある」


 そもそも明日のイベントの準備があるので参加は不可能である。


「清水はどうする。興味があるなら近藤さんに連れて行ってもらうように頼むが」

「伊織君はずっとネストにいるんだよね? だったらまだ居させてもらおうかな」

「そうか、好きにしろ。どうせ大学生バイトの奴らが余りものを食って帰るから俺は二三時近くまでネストにいるしな」


 俺がそう告げると、清水は何故か一歩分だけ椅子を俺のほうに寄せ、笑った。


「なんだ?」

「えへへ、なんでもない」


 眉をしかめ、どういうことだと山口のほうへ視線を向けると、コイツはコイツで手で口を押さえて天井を見上げていた。鼻血か?


「大丈夫か山口」

「大丈夫。ラブ波動で嘔吐しかけただけ」

「どういうことだ……?」


 最近の若者の言葉は以下略。


「わけがわからん」

「オーナー」


 山口が真剣な眼差しで俺の両肩に手を置いた。

 そして――


「世界はこれを愛と呼ぶんだぜぇえええええええええええ!!」

「うるっせぇ!」


 情緒どうなっとんだお前は!





 結局、山口は打ち上げに参加せず、清水と木内君、さらに大学生バイト三人の俺を含めて計七名で余りもののフードを食べることになった。

 俺は作業を一時的にやめ、フード担当のバイトの山田と一緒に料理をサーブしていく。清水も気を遣って手伝ってくれた。


「今日はかなり油ものが出てるな」

「ですね。唐揚げとポテトが品切れで……ナゲットも残りは二皿分だけです」

「そんなに仕込んでないとはいえよくけたもんだ」


 山田と今日のフードの売れ行きを話しながら、バーホールにあるバーステージへ設置されている二人掛けテーブルで寛ぐ欠食児童どもの目の前へ適当に余りのフードを置いていく。

 本日はバー営業がない日であり、大量に仕込んだわけではないが、いつも以上にロスが出ていないのが不思議だった。


「今日は平日ですが、今日は入学式があったので休みだった上級生たちが、遊びがてらライブを見に来ているパターンの子が結構いるようでしたよ」


 木内君の言葉に納得する。なるほど、ネストがあるのは新宿だしな。始まるまで遊んで、入店したら小腹を満たしてライブ参加したのか。効率的だな。


「……伊織君、このナゲット美味しいんだけど!」

「俺が作ったのに不味いわけあるか」


 料理と音楽においては数十年プレイヤーだぞこっちは。

 ふふんと当然だと威張りつつ、大皿に盛った海老ピラフやオム焼きそばを並べる。瞬間、待機していたモンキーたちが皿に群がる。


「あー、おいし」

「本当、ライブハウスにあるまじき食事の美味さですよね」

「僕はこの賄いがないと死んじゃいます」


 受付係の上山、ドリンク係の中田、そして木内君が飲み干すように自らの皿に盛ったピラフを胃の中に放り込んでいく。貧乏学生の中に成人男性が混じってるのが哀愁を誘うな……


「ねーねー、オーナー!」

「なんだ」


 テンションの高い山口がバーステージを指さす。


「一曲よろしく!」

「人をBGM代わりに使うな……たく、一曲だけだぞ」


 ステージの壁にかけてあるアコースティックギターを手に取って、チューニングを確認する。大丈夫、狂ってない。俺はノリノリでマイクのセットをする山口にどんな曲がいいのかを尋ねる。


「いい感じの!」

「おおよそ音楽関係者の注文じゃねぇ。まったく……適当に弾くぞ」


 こうして、急遽始まった俺の弾き語りライブは、日付が変わるまで行われたのであった。




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