一ヶ月、それぞれの戦い方
変な男たちに絡まれてから1ヶ月が経った。
新学期の学校にも慣れて、グレアは家に馴染んでいる。
土日のダンジョン探索は続けている。
メインは実践による身体強化の上達だ。
始めた時よりはだいぶマシになった。
それでもまだ、うまく自分の魔力を使えている感覚はない。
身体強化を学んでいる恩恵は他にもあった。
明らかに魔法の使い方に変化がある。
発動は早くなり、できることの幅も広がった。
透の場合は、怪我したところを意識して魔力を流すだけで、回復させられるようになった。
慧は水の質の変化、一度に出せる量や魔力消費量の減少など、効能は多岐にわたる。
それに加えて、少しだが武術も学び始めた。
グレアのメインは徒手空拳。
透と慧は武器を使うが、体の動かし方など、共通するところは多い。
重心の動かし方、足運び、攻撃の型など。透と慧は地面を転がされながら覚える。
変わったのは透と慧だけではない。
グレアは日本語での簡単な意思疎通を覚え、だいぶ家に馴染んだ。
拙い日本語で澪と会話をしている様子も度々みられる。
あれから、今のところは変な輩に絡まれてはいない。
それでも、梶という名前が透の頭の中から消えてくれない。
近いうちに必ず何かある。そう予感が告げている。
土曜日、いつも通り透、慧、グレアは十三層に潜る。
石兵の部隊に対して一人づつ戦う。
その結果次第では十四層にも再挑戦するつもりだ。
十三層まで、他のパーティとすれ違わないように、戦闘を避けて進んできた。
十三層の道を歩く。
この階は不人気だ。
ドロップは魔石のみ。金銭目的の探索者はオークや蜘蛛を倒してる方が楽な上に稼ぎやすい。
少し離れたところに人影が見える。
人影というより、石影。
最初に口を開くのは慧だった。
<そろそろ十四を超えたい>
<そうだね、でも、とりあえず十三層、一人で倒せるようにならないと>
透の言葉にグレアが加える。
<一対六だな。多人数相手の戦いは事故が起こりやすい。気を抜くなよ>
<それじゃあ、プラン通り、私から行くぞ>
<ああ>
<頑張って>
最初はグレアから。
透と慧はいつでも動けるように準備する。
グレアが右斜めに走り出す。
そのままの勢いで右側に立っている剣士を殴り飛ばし、横を取った。
力任せに見えるが、最も効率の良い方法を取っている。
機動力のあるグレアは、わざわざ盾兵の前方で戦う必要はない。
槍兵がグレアに向き直り、突きを放つ。
それをグレアは姿勢を低くして避け、そのまま膝を蹴る。
槍兵の膝が反対方向に曲がる。
腰の入っていない攻撃に恐怖はない。
グレアは倒れている槍兵をそのままに、次の槍兵に仕掛ける。
完勝だった。
文句のつけどころがない。
透は慧に声をかける。
<さすがだね、次は慧だね?>
<ああ、俺がやる>
戦いが終わったグレアを隊列に戻し、三人は次の敵を求めて歩く。
数分歩いたところで次の石小隊を見つけた。
慧は何も言わずに駆け出す。
大きな戦鎚を構えているとは思えないほどのスピード。
慧はその速度をそのままに、右の盾兵のもつ盾に戦鎚を叩きつけた。
盾にはヒビが入り、盾兵は少し浮いて後ろに弾き飛ばされる。
それに巻き込まれた槍兵も後ろに飛ばされて崩れる。
力押し。身体強化を覚えてから選択肢が増えた。
強化なしでは、こんなことはできなかった。
慧の戦鎚はそのまま浮いている右の剣士の頭に落とされる。
たった一連の動きだけで、一対六が一対三に変わる。
慧は、魔法を使っていない。
そのまま力押しで戦鎚を振り回す。
左に残った三体の足を砕いて、頭を砕く。
倒れてもなお、霧に変わっていない石兵にとどめを刺していく。
慧が歩いて戻ってきているのに、透は声が出せない。
今回の計画、一番厳しいのは透だ。
グレアには機動力があり、慧には破壊力がある。
透の武器は片手盾とメイス。
魔法も直接破壊力につながる物じゃない。
対策は考えてきた。
今日は、それをぶつけるだけ。
盾は使わない。
邪魔にならないようにグレアに渡す。
グレアは不思議そうな顔をして受け取った。
何度も戦った相手。
全ての攻撃パターンを見てきた。
盾兵の前に陣取る。
相手の間合いに入ったところで槍が隙間から出てくる。
槍が出てくる間は盾兵は動かない。
いつもは盾で受け流す槍。
半歩右にずれることで、数ミリの差で躱わす。
今回大事なのは、この、数ミリ。
透は左手に自分の全力の魔力を流して、槍を掴む。
槍兵も必死に槍を引こうとする。
身体強化を左手、足腰に集中する。
槍兵との引き合いは長くは続かない。
透の身体から軋むような嫌な音が鳴る。
槍兵は前に向かってバランスを崩した。
盾兵は後ろからの力には弱い。
右側の盾兵に槍兵がぶつかって、そのまま前に倒れ込んだ。
強化をかけなかった箇所が強く痛む。
強化なしの体では耐えられないほどの負荷がかかった。
その痛みも、すぐに回復する。
フリーになった右側の剣兵が切りかかってくる。
何度も見た攻撃。
透は小さく躱してメイスを叩きつける。
慧ほどの威力はなく、グレアほどの素早さも、技術もない。
それでも、武器を叩きつければ敵は崩れる。
左側の敵がカバーに入ってくる前に倒れた盾兵と槍兵にとどめを刺す。
石兵は一度崩れると、立ち上がりが遅い。
体の重さは武器であると同時に、欠点でもあった。
たった数手の応酬で半分を片付けた。
残った石兵は、横に陣取れている透の敵ではない。
槍兵が後ろにいない盾兵は攻撃力が足りない。
盾兵の後ろにいない槍兵は防御力が足りない。
勝負はすぐに片付いた。
透の強みは回復。
攻撃を受けても戦闘中にすぐに回復ができる。
他の人にとっては無茶になるような手段を取ることができる。
透は隠れてこの練習をしていた。
回復魔法はどこまで治せるのか、リジェネで治すとどれぐらいの時間がかかるのか。
強化を薄くする部分の魔力をどれだけ維持すれば、継続して戦闘ができるのか。
それに加えて覚えた身体強化。
ステータスの力だけでは、槍兵との引き合いには勝てない。
基本的に、身体強化は全身にかけるもの。
部分的にかける事もできるが、強化されていない箇所に尋常じゃない負荷がかかる。
慧とグレアは戦いが終わった透に声をかける。
<お前、とんでもない戦い方するな…>
<私は好きだぞ、ああいうの>
<回復魔法の強み、だね。痛いからあんまりやりたくないけどね>
透は笑いながら答えた。
慧は感情が顔に出にくい。
それでも今日は、少し驚きと心配の表情が見えた。
表情を隠しながら慧が二人に聞く。
<とりあえず、まだ戦えるか?>
<うん、行こう。十四層のリベンジ>
<次は、負けない>




