表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う  作者: 初瀬 叶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/57

第47話

居心地が悪くなったようで、ギルバート様は「お大事にな」とレニー様に声を掛け、買ってくれたジャムの袋を手に去って行く。レベッカ様も頭をペコリと下げると、逃げるようにギルバート様の後を追った。


居た堪れない空気になるが、それでもお客様は待ってくれない。


「これは何かしら?」


「苺に砂糖を溶かした物をかけて固めた物です。外はパリパリ、中は苺の果実がみずみずしくて美味しいですよ」


私はレニー様の様子が気になりながらも、接客に追われる。ハロルドはレニー様や料理人が持って来てくれた飴やパウンドケーキを手早くラッピングして並べ始めた。


レニー様はまだ地面を見つめてその場に佇んでいるだけだ。何も喋らないし顔色は悪い。

手伝いに来たと言っていたが……動く気はあるのだろうか?


やっと客が途切れ、私は先ほどまでレニー様が銅像の様に固まっていた方向を見た。


「あれ?レニー様どこに行ったか知らない?」


レニー様の姿が見当たらない。


「さっきあちらの方にトボトボと歩いてい行きましたけど……」


バザーを手伝ってくれていたメイドが答える。


「午前中の客は終わりでしょう。午後の開始まで、まだ時間がありますよ」


ハロルドの声に私は軽く手を挙げて応えた。


「ちょっと捜してくるわ。様子がおかしかったし」


「どうぞ」


その場をハロルドに任せ、私は先ほどメイドに教えられた方向へとレニー様を捜しに行くことにした。


「レニー様、どちらです?」


バザー会場から随分と離れた場所まで来たが、まだ彼の姿は見えない。ほんの少し早足になった私に、声がかかった。


「デボラ様!」


振り返った私に笑顔のレオが妹の手を引き駆けてきた。


「レオ!」


私は立ち止まる。レオは私の前まで来て立ち止まった。


「シルビア、こちらがお前にクッキーとハンカチをくれた人だよ。それに薬も」


レオにそう言われたシルビアはもじもじと頬を染めながら言った。


「あの……ありがとう。クッキーとっても美味しかった……」


レオの後ろに隠れる様にシルビアは私に礼を言う。その姿が愛らしい。私は彼女に目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。


「クッキー、気に入ってくれた?」

私の言葉にシルビアはコクコクと頷くと、少し微笑んだ。


「ハンカチもかわいかった……」


「シルビア。病気も治して貰ったんだから、もっとちゃんとお礼を──」


レオは少し眉間に皺を寄せたが、私はそれを遮った。


「病気を治したのはお医者様だもの。それにもうお礼は言ってもらったわ。私はデボラよ。仲良くしてね」


私が手を出すと、シルビアは照れながらも私の手を取り握手した。小さな手のひらが私の手にすっぽりと納まる。


「子どもって……可愛いわ」

私は無意識にボソリと呟いた。


「デボラ様もバザーに?」

頭上からレオの声がして、私は立ち上がりながら答える。


「いいえ、私はバザーに出店してるの」


「え?デボラ様自ら店番を?」


レオは目を丸くした。


「ええ。うちの領地の果物を使ってるから、皆様に私から説明したくて」


私の言葉にシルビアは急に目を輝かせる。


「え?ならまたクッキー食べられる?」


「ええ。クッキーも、パウンドケーキも、りんご飴もいちご飴もあるわよ」


シルビアはレオの手を引っ張る。


「早く行こう!」


「待て。まだ少し時間が早いから!」


バザーは貴族と平民が混じらないよう、午前と午後の間には二時間程時間が空けられている。


すると向こうから、もう一人女の子が駆けてきた。


「シルビア!」

どうもシルビアのお友達のようだ。その声にシルビアはレオの手を離す。


「少し遊んでくる!」

シルビアはレオの返事を待たずに、既に駆け出し始めていた。レオはその背中に声を掛ける。


「おい!遠くに行くなよ!」


「分かってる!」


シルビアは振り返ると軽く手を降って、友達の元へと駆けていった。


「もう……本当に落ち着きがないんだから」


レオが諦めた様にため息をついた。


「子どもはジッとしているのが苦手だもの。仕方ないわ」

私の言葉にレオは頭を掻いた。


「中々言うことを聞いてくれなくて」


「そんなものよ」


私が笑うと、レオもつられて笑った。


「でも、ここで会えて良かったです。もうあの場所には……来ないと思ったから」


私は少し返事に困った。もうあの社交クラブには顔を出すつもりはない。だけど、レオのことが気になっていたのは確かだった。


「レオ……ねぇ、ちょっとあなたに──」


そう私が口を開いた時、私の後ろから声がした。


「デボラ……彼がレオなのか?」


声の主……振り返らなくても私には直ぐに誰か分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ