どちらを選んでも
メリスティアはさも前もって考えてありましたよ、とばかりに言葉を紡ぐ。
「そうですわね、私からは簡単な選択を。無理難題といっても生憎私、これといったものが考え付きませんでしたので」
それは本当の事なのだが、この場面でしかしそれは言葉のまま受け取られなかった。
既に三人失敗しているのだ。
だというのに、四人の中でリーダー的な立ち位置にいるであろうメリスティアの出す選択が簡単なものであるはずがない。
セルシオはそう思っていたので、思い切り警戒していた。
簡単、という言葉に騙されないぞと気を引き締めて、そうしてメリスティアの言葉を聞いている。
「それでは私から殿下へ出す選択ですが。
一つ、復縁する。
二つ、諦める。
さて、どちらを選びますか?」
「……は……?」
簡単な選択。
あまりにもシンプルすぎてセルシオは最初自分は何か、聞き逃したのではないかと思った。
なので改めてもう一度聞き返してみれば、やはり同じ言葉が返ってくる。
復縁するか諦めるか。
それを選べと言う。
確かに簡単な選択ではある。
だが――
「その質問に答えたとして、答え如何で今後が決まる……のだろう?」
「えぇそうですね。これから先待ち受ける未来を自身の手で掴み取るために、どの道を選ぶか、その選択です」
そう言われても、あまりにも出来すぎている。
だって、もしここでセルシオが復縁を選べばメリスティアはその通りにしてくれるという事になってしまうのでは……? それは、セルシオがチャンスが欲しいと言い望んでいた展開そのものだ。
すんなりといくのなら、わざわざこのような場を持つ必要だってなかったはずで。
何かある、と思っても、しかし目の前に垂らされた救いの糸を振り払うような真似はできなかった。
「よく、考えて下さいね。本当に」
念を押されるように言われて、セルシオの口から「復縁で」と言いかけた言葉は直前で飲み込まれた。
「そっ、その、諦める、を選んだ場合は」
「言葉の通り、与えられたチャンスはこれでおしまい。次は二度とありませんわ」
「では、復縁を選べばやり直せる、という事だろうか」
「何をもってしてやり直す、元通り、と言えるのか……私にはちょっと理解できかねますが……
そうですね、私の想像をお話ししましょうか」
「想像?」
上ずりかけていた声をどうにか抑えてセルシオはメリスティアの言う「想像」という部分だけを繰り返す。
復縁を選んだ場合の、これから先の未来の話。メリスティアが考えるそれ。
「まず、私と復縁をする事でセルシオ殿下はかろうじて王位継承権を下げる事もなく次の王となるでしょう」
「あ、あぁ、そう、だよな……?」
そうだ。わかっている。
自分が迂闊にも魅了魔法にかかった事で、婚約者に辛辣にあたっていた事で、自分の評判は下がりに下がった。婚約者がいながらにして他の女と友人以上の距離で親しくしていたと言われていた。けれど確か……周囲は身分差を超えて真実の愛なのだ、なんて事も言っていたような気がする。
今まで王族として恥ずかしくないようにと教育を受けてきた。だからこそ、メリスティアではなくマレナと共に居る事もきっと何かあるのだ、と周囲は勘繰っていたようではあるのだ。傍から見て浮気でしかなかったとしても、それ以外の――メリスティアに何らかの落ち度があっただとか、そういう裏を勝手に探っていたようではある。
そして王子の心変わりのような状態は魅了魔法によるものだった、と知られた事で本心で浮気をしたわけではない、と周囲もみなした。
あからさまに言われてはいないが、それでもギリギリ聞こえる範囲での噂も耳に届いている。
マレナが魅了魔法を使えると思わなかった点においては、セルシオたちだけではなくほとんどの者がその可能性を考えていなかったので、そこは仕方ないにしてもそれでも婚約者よりも付き合いの浅い者の前で軽率にアミュレットを外した行為には批判が集まっているし、今回やらかした事で次はそう軽率な行いをしないだろうとはいっても、たった一度の過ちが消えてなくなるわけでもない。
故に、彼を玉座につかせるのは問題なのではないか……? という声。
逆に失敗をしたからこそ次はもっと警戒するし慎重にもなるだろうから、王妃にメリスティアがとなるのなら任せてみてもいいのでは? という声。
現在どちらかといえば王に相応しくないのでは? という声の方が多く耳に届いているが、それでもメリスティアが王妃となりやり直せるのであればまだセルシオの未来は存在していると言える。
そう、現在セルシオの未来はメリスティアの手の内なのだ。
彼女が自分の命運を握っている。
だからこそ彼女がやり直すつもりはない、と態度に出ている時点でセルシオはとっくに王位継承権を下げられて、王家が管轄する領地の中でも寂れた場所を与えられてそこで生涯過ごす事になるか、それとも病気療養という名目で幽閉されてから後に毒殺か……生きるか死ぬかの状況にあるのだ。
流石に死にたくはない。
寂れた領地を盛り立てろ、というのもどれだけ大変な事かわかっているから、それも避けたい。
同じ大変な状況なら国王になった方がマシであるとセルシオは思っているので。
「殿下はもしかしたら、私と復縁したら失態なんてなかったように今までの通りに戻ると考えているのかもしれませんが、そうはなりません」
「まぁそうだろうな。汚点は残る。どうしたって」
「えぇ、そして王の座につけば、敵がこれでもかと増えます」
「そこまでか……?」
確かにやらかした事から不安視する者は増えるだろうけれど、敵が増える、と言われてもピンとこなかった。
「えぇ、だってそうでしょう?
貴方の側近になるはずだった彼らは失敗した。やり直せなかった。そんな出来損ないを側近に据える事はできません。むしろそんな彼らをそれでも側近とすれば周囲はこぞってそこを突きます。
ですから、彼らではない他の者が新たに側近として選ばれるでしょう」
言われてセルシオは咄嗟に打ちひしがれたままの彼らを見た。
そうだ。彼らは与えられたチャンスをモノにできなかった。失敗した。
出来損ないは言いすぎな気もするが、魅了魔法にかけられて婚約者を蔑ろにし、あまつさえやり直す事すらできず令嬢たちに見捨てられたという事実がくっついた彼らがそのまま側近になっても、周囲はそれを隙としか見ないだろう。特に野心を抱いた者であれば、そこを突いて自らがのし上がるチャンスとするに違いない。
あの手この手で彼らはその立場を追い落とされる。
今までは政敵のようなものがいたとしても、そこまでではなかっただろう。汚点らしい汚点がなければ無理に隙を作ろうにも、下手をすれば仕掛けた側が危うい事にもなりかねない。
だが、最初から目に見えてわかりやすい落ち度があるのなら、そしてそんな彼らが良い立場にあるというのなら。
引きずり落として自分がその場におさまろうと考える者は間違いなく存在する。
そんな事になったとしても、セルシオが庇うわけにもいかない。王に庇護される側近など余計に集中砲火を食らう。やらかす前までは、彼らの友人たちも彼らを支えてくれるはずだったが、しかし今の状況からその友人たちですら、もしかしたら彼らの立場を狙っているかもしれないのだ。
以前信じていた者が、今も信じる事ができるか……信じる、と言い切れないのが悲しいところだ。
最初から荒れるのがわかっているのなら、それこそ新たに側近を選出する事になる。
だが、その新たな側近は以前の彼らのような忠誠を果たしてセルシオに持ってくれるだろうか。
クラムスも、サナイアも、アンセルも。
皆セルシオにとって心から信用できる大切な友人でもあったが、新たな側近として選ばれた者たちとセルシオはそのような絆を作り上げる事が果たしてできるだろうか……?
既に汚点のある王に、絶対的な忠誠を誓ってくれるか、となるとわからない。
国に対して忠誠を誓っても、王個人への忠誠はないかもしれない。
そしてそれは、メリスティアにも言える。
もう以前のような愛がない事をセルシオはいい加減認めるしかなかった。
わかっている。それでも諦めたくはなかったからこうしてこの場にいるのだ。
けれど、やり直しを選んでもきっと以前のようなお互いを愛し尊重する関係にはきっと戻れない。
もし失脚するような事になったとしても、その時メリスティアは自分を守らない。切り捨てて国を選ぶだろうな……と薄々でも察してはいるのだ。認めたくはないが、認めるしかない。
仮に子供が生まれたら、後継として問題のない子が育つような事になれば、その時はきっとセルシオはメリスティアにとってもお払い箱になるかもしれないのだ。
その前になんとか彼女と新たな関係を構築できればいいが、できなければ……
メリスティアの言葉によって、セルシオは仮にメリスティアとやり直したところでかつて思い描いていた輝かしい未来は訪れないのだと知る。
明確に敵対する者はいなくたって、潜在的な敵は間違いなく増えるのだ。
それは、復縁する事になった場合メリスティアもそうなるのかもしれない。
「新たな側近の方々と仲良くやれるかどうかは別としましても。
もっとわかりやすい敵がいますでしょう、そこに」
「えっ?」
そこ、とメリスティアはセルシオの背後を指し示した。
言われるままに振り返れば、そこにいるのは友である三名の姿しかない。
「彼らが敵に……?」
「だって考えてもみてくださいませ。やり直すかどうかを選ぶだけで殿下の未来は決まるのです。これといった無理難題を吹っ掛けられるでもなく、精神的に追い詰められる事も肉体的に傷をつける事もなく、復縁するかどうかを選ぶ、ただそれだけで。
彼らは必死に悩んで考え抜いて、それでも駄目だった。理不尽なものであろうとも、それでもチャンスは確かにそこにあった。モノにできなかったのは、自らの力不足だと言えなくもない。
ですが殿下はどうでしょう?
選択肢の『はい』か『いいえ』を気軽に選ぶ程度で簡単に達成できるのです。彼らからすれば殿下だけ難易度がおかしいと思うでしょうね。
そして、殿下が王になったとして彼らの未来は閉ざされる。このまま彼らも側近に、とは決してならない。周囲はそれを許さない。隠しようもできない醜聞持ちの、婚約者との関係も断ち切る事になった彼らを、彼らの家が今後どうするかまでは私にはわかりませんけれど。
今までのような扱いにはならないでしょうね。
家の中で仕事を任されるとか、領地経営に携わる事をどうにか許されるとかなら可愛いものです。でも、跡取りにはなれない。新たな跡取りがいながら、かつて跡取りになるはずだった相手を置いておくのも余計な面倒が発生しかねないとなれば、家から出ていく流れになりましょう。
領地の片隅に押し込めるか、籍を抜いて平民となるか。どちらにしても以前のような、自分たちが信じていた未来はない。
でも殿下だけは、それでも私とやり直して王になっているとなれば、彼らはどう思うでしょうね?
だってもとはと言えば貴方が迂闊にも魔女とされたあの女の前でアミュレットを外して魅了にかかりさえしなければ、彼らだって唆されなかったのだもの」
そう言えば、三人の目にかすかに剣呑な光が宿った。
そうだ。元はと言えば彼が軽率にアミュレットを外して魅了にかかって、そのせいで自分たちも――
既に分かっていた事だ。けれども先程まではまだ、マレナが魅了魔法の使い手である事を想定していなかった自分たちにも落ち度があったと思っていた。
セルシオだけが悪いわけではない、と思っていたのだが改めてメリスティアから突き付けられた事で。
自分たちはもうやり直す未来もないのに、彼だけがのうのうとやり直し王になるというのなら。
自分たちに待っている未来はなんだ、と不安になるよりも先にメリスティアが突き付けてきて。
自分たちだって本来は将来王の側近として華々しく活躍していただろうはずなのに、しかしそれはその王の軽率な行いで台無しになり、自分たちは貴族としてもいられるかわからないくらい危うい立場に追いやられるのに、彼だけが――彼だけが本来の立場を得ているとなれば。
元凶だけがのうのうと過ごす、と考えるととてもじゃないが許せなかった。
もし、本当にセルシオがメリスティアと復縁する選択を選んだならば、その時点でクラムスも、サナイアも、アンセルも。
お前のせいでという思いはきっと消せるはずもなく、仕えるはずの相手であり、大切な友人であったセルシオは一転憎悪の対象になる。
「将来敵になるかもしれない三名を、今から始末いたしますか?
流石にそれはやりすぎかと思われますけれど。それ以前に、家の方が納得するでしょうか?」
魅了魔法に引っ掛かったとはいえ、クラムスもサナイアもアンセルも別に無能というわけではない。
能力的には申し分ないからこそ、彼らは将来王になるはずのセルシオの友人という立場に選ばれたし、側近として傍にいる事が許されたのだから。
そんな彼らなので、領地の片隅に追いやられたとしてその場合領地を盛り立てていくことは時間がかかりこそすれ可能だろうし、平民になったとしても成りあがる可能性は勿論ある。
いや、無気力に領地に押し込まれたり平民落ちするのならその可能性も低かったが、しかしセルシオ憎しという感情のままそうなればどうなるか。
きっと彼らは自分たちだけが割を食った事で、彼にも同じような目に遭えとばかりに――復讐を果たそうとするかもしれない。
味方でいれば頼もしい存在であるが、敵に回れば厄介な事になる。
平民になってからならまだしも、貴族のままでいるのなら、いくら落ち目となったとはいえ明確な罪を背負ったわけでもないうちから、ここで彼らを始末するわけにはいかない。それは彼らの家に対してあまりな扱いである。
そして今メリスティアが紡いだ言葉によって、復縁がダメなら後継者から外して場合によっては平民に落とそうと考えていた家も、平民落ちは避けるだろう。
平民にすればきっとセルシオは後顧の憂いを断つべしと始末するかもしれない。貴族のままでいるならば、まだ何の罪もないうちから始末してしまえば家そのものが敵に回る。
三人の令息たちも気付いてしまった。
今ここでメリスティアがそう言わなければ平民になっていた可能性を。
厄介ごとと切り捨てるには、彼らはそこまでの事をしでかしたわけでもない。
事の発端はあくまでもセルシオなのだから。
彼が。
彼こそが。
マレナの前で軽率にアミュレットを外し魅了魔法にかかる事がなければ。
側近である息子たちとて彼の言葉を信じてアミュレットを外す事などなかったのだから。
息子たちの失態は、言ってしまえばセルシオに原因がある。
それがなければ彼らは今も婚約者たちと仲睦まじいまま学園を卒業し、そうしてその後結婚し後継者となって家を、国を、盛り立て支えていったはずなのだ。
それをふいにしてくれたのは、紛れもなくセルシオである。
平民に落とせば彼らはいずれ王となったセルシオを許すまじと敵として暗躍するかもしれない。
流石に各家の親とて、それを認め赦すわけにはいかなかった。
であれば貴族のままならば、何事もやらかさなければ秘密裏に始末されるような事は回避できるかもしれない。
王に忠誠を誓わず、いっそ敵意を持っている相手を身の内に飼うというのも相当だが。
だが、それだけで始末などできるはずがないのだ。
そんな事をすれば他の貴族たちも王家に不満を持ち始める。貴族だけではなく平民にもいずれそれは伝播するだろう。その結果そういった人物をことごとく始末していけばいずれ国からは誰もいなくなるか、その前に打倒王家を掲げた誰かが国を打ち滅ぼすだろう。
故に、ここで今セルシオがメリスティアとやり直す、という選択を告げた場合間違いなく敵は増える。増えてしまう。令息たちの直接的な憎悪だけならいいが、その親たちとて上手く隠しながらも、自分の息子たちがこうなった元凶を許すはずもない。
虎視眈々と、復讐の機会を狙うかもしれない。
少なくとも今、この国は平和だ。
それ故に彼らも物事を甘く見ている節があるのは否めなかった。
だがそれにしても、セルシオの考えは甘すぎた。
彼らが敵に回る可能性を、これっぽっちも考えていなかった。
いや、セルシオが仮にメリスティアから試練をきちんと受け、これはもしかしたら彼も駄目かもしれない、と思えるような無理難題をそれでもこなし、結果勝ち取った結果なら彼らとて自分たちだけがダメだったとなっても祝福できたかもしれない。
だが実際は、何の苦労もなく難問吹っ掛けられるでもないとなれば。それで得た未来を素直に祝福できるはずがないのだ。
もしここでセルシオが自分の権利を他に譲り――例えばアンセルにもう一度先程の試練をやり直せと告げて彼に機会を与えたとしても、そうなれば今度はクラムスとサナイアの矛先はアンセルに向くかもしれないが、その場合はセルシオの未来も閉ざされる形となる。
「メリスティア、その、ちゃんとした試練を与えてはくれないだろうか」
「まぁ、ですが私、本当に何も考えてきませんでしたの。そして先程思い浮かんだのがこれなので、他に、となるとお時間をいただく形となってしまいますし……その場合は決して殿下が達成できそうにないものになるでしょうから……結果はどのみち変わらないのではありませんか?
というか、チャンスが欲しいと言ってその上で与えられたのにまだ注文いたしますの? そういう立場ではないでしょうに」
そう言われてしまえばこれ以上返す言葉などなかった。
何の苦労もせずに復縁を望めばかつての友人たちは敵対する可能性を秘め、そうして王になった後自分の周囲は信用できない者たちばかりになるかもしれない。
最愛の女性から愛される事もなく、味方のように振舞う敵に囲まれたまま王という立場であり続けるのは――
セルシオにとって、あまりにも茨の道であった。
メリスティアと復縁した後、あまりにも報われない現状に癒しを求め他の女性に目移りしようものなら、その時こそ本当におしまいである。
孤独に身を置き生き王という重圧に耐えねばならない、と考えただけで身が震えそうになった。
結局のところ、今まで平和だった事もあってセルシオの生活環境はどこまでもぬるま湯のようなものだったのだ。いっそ戦乱の世であったなら、裏切りも謀反も当たり前のような環境だったなら、ここでセルシオは堂々と彼らを切り捨て復縁を口にしただろう。
だが、そうではなかったからこそ、彼は自ら率先して敵を増やす事を躊躇った。
皆と同じように何らかの難問を与えられていたのなら良かったが、そうではない。
かつての友を敵に回す、という可能性を彼は選べなかった。
メリスティアを愛している。
けれど、彼女の愛は既にない。失った愛を再び得るためにかつての友を敵に回し、周囲の対応も以前と異なる状況でメリスティアとの関係を構築していくにしても。
それが報われるとも限らない。
そうなった時、セルシオが得られるものは果たして何であるのか。
王という立場だけではないか?
そうまでして玉座と王冠を望んだとしても、そこに価値はあるのか?
ぐるぐるとセルシオの脳内で忙しなく同じような考えと結論が回り続ける。
何度も何度もぐるぐる回るそれらは、どうしたってセルシオに都合のいい未来を見せてくれるような答えにならなかった。
「…………諦める」
「そうですか、本当に?」
「あぁ。何度考えても、やり直したところで良くはならない。それだけは理解できたから」
「そうですか。わかりました。
それでは、セルシオ殿下も彼らと同じですのね」
「そうだな」
自嘲した笑みを浮かべるセルシオは、しかしながらどこか吹っ切れたようでもあった。
「では陛下、此度の一件、これにて終了となりましたわ。私たちの婚約は解消。これ以上この話を伸ばされてもこちらの結論はもう変わりません」
「そのようだな……」
メリスティアが言えば、王は重々しく口を開いた。
王がそう言った事で、もう他が口を挟む事などできようはずもない。
かくして、彼らの関係はここで終わりを迎えたのである。
彼らのやり直したいという願いは、結局叶わなかった。