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【書籍化進行中】星と魔法の交易路 ~ボロアパートから始まる異世界間貿易~  作者: ぐったり騎士
セリーモアの使徒

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第49話:緊急依頼!

 遥斗の目の前に展開されたホログラフスクリーンには、スカッターから送られてくる映像が、まるで自分が空を飛んでいるかのように鮮明に映し出されていた。最初は村の上空からの俯瞰映像。畑を耕す人々や、土埃を上げる道、家々の屋根まで、細部が手に取るようにわかる。村人たちは息を呑み、その光景に見入っていた。


「な、なんだこれ……!?」


 バルバが思わず声を漏らした。商会の護衛たちも、その驚異的な映像技術に目を奪われている。

 木々の葉一枚一枚、小動物の動く気配まで捉えるかのような鮮明さに、冒険者たちは驚きを隠せない。特にカイゼは、その卓越した視認能力に目を見張った。彼はスカウトとしても一流の腕を持つため、この映像がどれほど常識外れの索敵能力を持つか、その脅威を瞬時に理解したのだ。


「生命反応、確認しました。地中約五メートルの深さです」


 シアの声が響く。


 ホログラフスクリーンに、緑色の光で囲まれたいくつかの点が浮かび上がった。そして土壌の透過画像が立体的に構築され、明確な人型らしき影が映し出された。複数の小さな影が、まるで寄り添うように集まっているのがわかる。さらにそれは拡大され、どういう原理なのか遥斗にもわからないが、白黒ではあるものの、それがトゥミルやルクェンといった村の子供たちであることも判別できた。


「ルクェン!」


 イリスが、その映像に涙を浮かべて叫んだ。村人たちの間からも、見つかったことに安堵の歓声が上がる。

 遥斗も胸を撫で下ろしたが、同時に疑問が湧き上がった。


「よかった……でも、なんで土の中に?」


 そのとき、一人の年配の村人が、空から地形を映している画面を指差して呟いた。


「この辺りは……確か、モルガの巣がある場所じゃなかったか?」


 モルガ。

 それは人の腕ほどの芋虫型で、通常は植物を主食とする無害な生物だ。成長すると巨大な蛾になるという。


 次の瞬間、シアが言葉を続けた。


「その周辺に多数の生命反応を確認。映像映します」


 ホログラフスクリーンの映像が切り替わり、子供たちのいる空洞部から少し離れた場所で、無数の影が蠢いているのが映し出された。それは先ほどのモルガの姿に似ているが、一回り大きく、明らかに異様な雰囲気を纏っている。さらに、スカッターが捉えた巣の上空の映像には、翼を広げた数匹の巨大な蛾の影がその周囲に映し出されていた。


「ゾル・モルガ……!?」


 ザヴァクが顔をしかめた。


「モルガの成虫が魔物化したものだ。その子供であるワームも魔物化していると考えるべきだろう。……子供たちがその巣に近づいて捕らえられたのか?」


「バカな。俺はしっかり門を見ていた。子供たちが村から出ていけば止めている」


 応えたのは口数が少なく顔もあまり変わらないヨルクだ。だがそんな彼も慌てているのか表情が硬い。

 門番が見ていないのに、どうやって子供たちは村の外へ、しかも地下の巣穴に?その疑問に答えるかのように、スカッターの映像が村の端の方をズームアップした。


 そこには、一見するとただの土が盛られたように見える、目立たない穴があった。しかし、スカッターのスキャンが地中を透過した映像に切り替わると、その穴が地中を通り、子供たちがいる巣穴まで続いていることが明らかになった。まるで、何かが意図的に掘ったかのような、不自然な通路だ。


「おそらく、魔物化したゾル・モルガがやったんだ。地中から侵入して、子供たちを落とし穴で捕らえ連れて行ったんだ」


 ザヴァクが、険しい顔で結論付けた。


 その時、ルシが子供たちの映像を凝視しながら言った。


「子供たちは、ゾル・モルガの魔力毒の鱗粉を浴びて、一時的に動けない状態ですが、生きてはいるはずです。ただ、産卵をする夜になればゾル・モルガが子供たちに卵を産み付ける可能性が高く、急ぎ救助が必要です」


 子供たちが見つかったという安堵は、一瞬にして事態の重さに飲み込まれた。


「早く助けに行こう!」


 と村の大人たちが口々に言う。だが、ザヴァクがそれを制した。


「待て。村中の大人たちが武装して戦えば、運が良ければ勝てはするだろう。だが、ゾル・モルガは、その毒の鱗粉だけでなく、見かけに反して硬い体皮と俊敏な動きを持つ上、魔法を使う。素人が戦えば、相応の犠牲者が出るだろうな。下手すれば、村の男手の大半を失うか、最悪全滅だ」


 遥斗は、その言葉に絶句した。それは、あまりにも大きな代償だ。彼は再び、ザヴァクたち護衛の方を向いた。


「では、冒険者の皆さんなら、勝てますか?」


 ザヴァクは腕を組み、空に映し出されるゾル・モルガの群れの映像を見つめた。


「危険はあるが、勝てるだろう。単体で言えば、あの魔狼よりはランクは低い。だが、数が多く、巣穴という限定的な空間での戦いになるから、相応に危険は伴う」


 遥斗は、意を決してザヴァクたち護衛の方を向いて、懇願するように言った。


「ザヴァクさん、カイゼさん、ルシさん……お願いです。どうか、子供たちを助けてくれませんか?お礼はします」


 しかし、護衛たちは首を横に振った。


「すまない、ハル殿。我々はあくまでヤーネット商会の護衛だ。ちょっとした手伝いならともかく、他人の依頼で命の危険がある戦闘をするわけにはいかない」


 ザヴァクは、その表情に葛藤を滲ませながらも、冷たく言い放った。


「なら、俺から依頼するのはどうだ?報酬は出そう」


「バルバさん!?」


 遥斗は驚きの声を上げた。


「かまわん。金など貴殿がいればいくらでも稼げる」


 しかし、ザヴァクは首を振った。


「バルバの旦那。それは筋が違いますぜ。我々がしたのは『護衛契約』だ。追加依頼そのものはギルドの制度上可能だが、問題はその内容だ。護衛として雇われた我々に、依頼人が自身の都合だけで『命の危険がある魔物退治』を急に現場で追加依頼すれば、それはギルドから貴方の商人としての信用を落とす行為になりかねない。我々は構いませんが、旦那にその覚悟があると仰せられるか?」


 バルバは「うむむ……」と唸り、苦渋の表情を浮かべた。金銭的な問題ではない。護衛に危険な追加任務を押し付けたとあっては、彼の商会、ひいては商人としての信用に関わる。それは、この商人として命よりも重いものだ。


 その様子を見ていた遥斗は、ふとあることを思いついた。先ほどまでザヴァクたちに「ギルドのシステム」について色々と聞いていた時を思い出して、抜け穴はないか考えていたのだ。


「ザヴァクさん、もしそういった問題がないなら、依頼は受けてもらえますか?」


 まずはこの前提がなければ思い付きを聞いても意味がない。

 ザヴァクは遥斗の真剣な眼差しを受け止め、眉をひそめた。


「ああ、十分な報酬があるなら受けよう」


 遥斗は安堵すると、次にバルバとザヴァクを交互に見て、大胆な提案を口にした。


「バルバさん、ザヴァクさん、こういうのはダメですか?まず、バルバさんの護衛の任務を『現時点で満了』とするのはどうでしょう? 報酬さえ全額払うのであれば、それは問題ないはずです」


 ザヴァクがわずかに目を見開く。確かに、それは問題ない。というより冒険者もギルドも歓迎するだろう。

 雇い主が契約を途中で勝手に切り上げてそこまでの報酬しか出さない、とかなら別だが、満了として全額でるなら何も文句はない。


「それで皆さんはフリーになります。そうしたら、俺が皆さんに、この魔物退治の依頼を改めて出します。俺からの依頼であれば、バルバさんの信用に傷がつくこともありませんよね?」


「あ、ああ……バルバの旦那の依頼は完了したうえで、別人からの依頼だからな。ギルドにも後から依頼手続きをして正当な手数料などを渡せば、問題はないだろう」


「よし。そして、魔物退治が終わったら、バルバさんには再度、ザヴァクさんたちを護衛として雇ってもらいます。これもギルドへ依頼が後出しになりますが、問題ないですよね」


「問題ない。ただ後出しの依頼提出はだいたい報酬の内容で揉めるので歓迎されないくらいだ。だが相場より割り増しの仲介料を払うとなればギルドの連中は手のひら返して喜ぶだろうよ」


「討伐の相場は?ついでにバルバさんの護衛料も」


「討伐は金貨3枚。護衛料は何事もなければリシャッタの街に戻るまでで金貨1枚だが、割り増しを考えれば合わせて金貨5、6枚ってとこだろう。……払うのか?」


「払います。手持ちがないので、ヤーネット商会から受け取る報酬を通してになりますが。バルバさん、構いませんか?」


「あ、ああ」


 遥斗はバルバに視線を向けると、彼はまだ状況を飲み込みきれない様子で頷いた。


「追加報酬として、あなたたちが欲しがったリュックや靴、ジャケットを全員1式ずつ用意します。その他、俺が取り扱うものについては、他との独占契約的なものがない限り、便宜を図らせてもらいます。当然、バルバさんの護衛の再雇用の依頼のお金は、全部俺が持つので、バルバさんに迷惑はかけません」


 一つ一つ確認するように、遥斗は言葉を続ける。


「それに、この依頼中は、ルシさんの魔力回復の飴やチョコはいくらでも使っていい。アルミ箔も使い放題です。今ある分が足りないなら、少し待ってもらえばいくらでも用意できますから!」


 ルシはその言葉に、彼女の目がこれ以上ないほど大きく見開かれた。

 無限のチョコと魔力回復薬、そして魔術を増幅させる触媒が使い放題。それは、魔術師にとって夢のような条件だった。


 バルバは、「子供のためにそこまで……」と驚きと感嘆の入り混じった顔で、遥斗を見つめた。

 ザヴァクは、その表情から一切の迷いを消し去り、力強く答える。


「……バルバの旦那がそれでいいなら、問題ない。ハル殿、その依頼、喜んで受けさせてもらおう!構わないか?旦那!」


「ああ、構わん! ハル殿、我々のことまで考えてくれた貴殿のその心意気、ヤーネット商会として、決して忘れはしない!」


 契約はなった。

 遥斗はリュックをひっくり返すとありったけのアルミホイルに包まれたチョコを集めて、ルシに渡す袋に詰め替え始める。


「ルト様」


「なんだ?今急いでんだけど」


 そのとき、スカッターを操作しているシアが遥斗を止められて、遥斗はチョコを取り出す手を止めないままシアに聞く。


「パルスクリーナーはお持ちですか?」


「え、かさばらないから持ってきてるけど、今掃除してる場合じゃないよ?」


「説明は後でします。ルシさんに渡すそのチョコ、袋に詰める前にパルスクリーナーを使ってください」

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