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【書籍化進行中】星と魔法の交易路 ~ボロアパートから始まる異世界間貿易~  作者: ぐったり騎士
世界を超える特産品

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23/90

第22話:“Hello, world.”

「うおお! シャーベッタァ!? チョーカーが喋った!? ナンデ!?」


 遥斗は首に巻いた黒い革のチョーカーを指さし、目を白黒させる。銀色の装飾がヴェクシス光を鈍く反射するそのデバイスから、確かに声が響いたのだ。

 ヴェラは遥斗の反応が想像以上だったのか、呆れたように眉を上げる。


「うわ、びっくりした。そんな驚くことかよ、ルト」


「いや、めっちゃ驚くわ! しゃべるアクセサリーとか、見たことねえよ!」


 遥斗は興奮で顔を赤らめ、チョーカーをまじまじと見つめた。ヴェラは「ハッ」と鼻で笑い、デバイスを操作し始める。


「つっても、お前が持ってた玩具みてぇなデバイスもしゃべるだろ?解析した限り、簡素な受け答えくらいできるみたいだし」


「え?……あー、まあ作ろうと思えば日本でも作れるか。わざわざこんな形で作らないだけで」


「だろ?そいつはアタシが作った補助デバイスだ。シアルヴェンとリンクさせてるから、これからいろいろお前をサポートしてくれるぜ」


「あれ?でも確かシアルヴェンは日本語しゃべれないはずじゃないの?さっきも映像記録で言葉わからなかったし」


「お前との会話ログをもとに、言葉を解析させたんだ。ほら、お前の…なんだっけ、ニホン語? それで喋るようにした」


 遥斗が首をかしげると、ヴェラはホログラフのスクリーンを叩きながら答えた。


「じゃあ、こいつ、会話できるのか!?」


 遥斗の声が弾む。ヴェラが「まあな」と頷くと、チョーカーが再び反応した。


「ルト、俺、話せる。Garuskri (ガルスクリ)混じる、問題ない、か?」


 ハスキーな声に、記号めいた単語が混じる。片言で、どこかぎこちない。遥斗は目を輝かせつつ、首をかしげた。


「うわ、なんかすっごい片言だな。でもめっちゃカッコいいじゃん! でも、なんで女の人の声なのに、口調が男っぽいの?」


 ヴェラは怪訝な顔をしつつ作業台に寄りかかると、乗っていたコップがカタンと揺れる。


「そうなんか? お前の言語をベースにしたから、お前の口調がそのまんま映ってるんだろ。まだ学習中だから、こっちの言葉(ガルスクリ)が混じって片言になってるんだろうよ。あと、声質はお前が好きそうなのにしたぜ」


「え、俺の口調なのか……って、ちょっと待て! 俺が好きそうってなんだよ!?」


 遥斗が顔を赤くして抗議すると、ヴェラは肩をすくめた。


「おっさんの声の方がよかったか?」


「いや、女の人の方がいいけど!?」


 即答する遥斗に、ヴェラは「じゃあいいだろ」と笑い、コップに水を注いでいる。遥斗はチョーカーを弄りながら、ぶつぶつ呟く。


「まあ、声質はいつでも変えられるから、好きにしろ。エネルギーはシアルヴェンにくればチャージできるが、光に当ててるだけでも少しは溜まる。あとは使ってりゃ使い方はわかるだろ。お前のスマホとかいうガラクタを扱えてるなら大丈夫、多分」


「たぶん!? 適当すぎだろ!」


 遥斗が叫ぶと、ヴェラは「ハハ、細けえことはいいじゃねえか」と笑い、デバイスを操作している。


「通信機にもなるけど、お前、ガルスクリわかんねえから、直接会話しないと何言ってるか掴めねえだろな。まあ、役に立つかは怪しいな」


「そういやそうだった。……なあ、クザだっけ?お前何ができるんだ?」


「ルト、持ってるスマホ、できることできる。他、Veksith (ヴェク-シス)Komunara( コ-ムナラ)、できる」


「うむ、わからん!」


 なんとなくわかるが、細かい意味は掴めない。それでも遥斗には十分だった。テンションが上がり、チョーカーを弄りながらやいのやいの騒いでいる。

 ヴェラは「うるせえな」と笑い、デバイスのスクリーンを閉じた。

 

 作業台を挟んで、二人は次回の計画を話し始めた。ヴェラはコップの中の飲料をグイッと飲み干し、口の端を拭った。


「今回の売上で、シアルヴェンの航行認証に必要な整備と修理を進める。しばらくザルティスに留まるぜ。悪いな、ルト、付き合えよ」


「うん、いいよ! ザルティス、まだいろいろ見たいところあるし。宇宙にも出たいけど、それはあとのお楽しみってね」


 遥斗がニコッと笑うと、ヴェラは「ハッ、気楽な奴」と呟き、コップを投げ捨てた。カタンと床に転がる音が、部屋に響く。そのコップは部屋の端まで転がると、吸い込まれるように壁に消えた。


「だから次回も、とりあえずザルティスで売ろう。今回と同じ菓子でもいいし、なんか新作でもいい。全部お前に任せる。どうせ、アタシにゃ天然素材(ナチュコア)の食いもんなんてわかんねーしな」


「マジ!? よっしゃ、じゃあ大福とか羊羹、あとは菓子以外もいろいろ試してみるか!」


 遥斗が拳を握ると、チョーカーが反応した。


「ダイフク、ヨウカン? 俺、記録する」


「おお、お前にもいろいろ頼むからな。じゃあ、ヴェラ、俺、そろそろ帰るよ。次回は……また10日後くらいに!」

「ああ、10寝巡(ネーメ)だな。アタシは最低でも1月巡(ツキーメ)……650シクタはここにいるから、適当にな」


 そう言って、ヴェラはどら焼きを手にとった。もう食べる気らしい。

 今日で全部食べてしまいそうである。

 

 遥斗はそのヴェラの様子に呆れながら荷物をまとめて部屋を出ようとすると、ふと思い出したように振り返った。


「あ、そういえばさ、俺、今日は最初にヴェラに連れられてきた独房に出たんだった。扉を開けるとき、独房のこと考えてたせいかな?」


 ヴェラの手が止まり、ぱさ、とどら焼きの包みが床に落ちる。


「ええ……やっぱり座標固定じゃねーのかよ。なんでもありだな、超文明」


 ヴェラは額を押さえ、盛大にため息をついた。遥斗は「え、なになに?」とキョトンとする。


「それじゃ、わざわざシアルヴェンが停止してる時に来てもらう必要もねえかもな……いや、でも、今はまだ不安が多い。とりあえず、今まで通り予定を決めて、アタシが待機してる時に来い。いいな?」


「了解! じゃあ、またな、ヴェラ!」


 遥斗は手を振って、扉のある独房へ向かった。ヴェラは「ったく、能天気な奴」と呟きながら、手にしたどら焼きにかぶりついた。

 

 

 地球、日本の小さなアパート。


 遥斗は狭い部屋のベッドに寝転がり、パソコンで動画を流していた。画面では、近未来SFアニメ『硬質機動軍』が流れ、特殊スーツの機動軍とマフィアの銃撃戦が派手なBGMとともに展開している。


 この男、今日はもう、SF漬けで過ごす気満々である。


「ふぁ~、やっぱ硬質機動軍は最高だな……」


 遥斗がそろそろ寝るかと欠伸をすると、チョーカーが反応した。


「ルト、これVeksith (ヴェク-シス)Komunaras( コ-ムナラス)か? 」


 相変わらずのハスキーな声に聴きなれない向こう(ガルノヴァ)の言葉が混じる。遥斗はスマホを手に持ち、チョーカーに話しかけた。


「え?……ああ、パソコン……スマホよりいろいろできる情報通信端末だよ」


「Aisa。ルトの星、Infara (イン-ファラ)Kollekti(コ-レクティ)。言葉、覚える。この『パソコン』、使用、通信、許可よいか?」


 チョーカーから聞こえる片言に、遥斗は少し考えた。


「…えっと、つまり、ネット使って情報集めたいってこと? ……うーん、まあ、見るだけならいいよ。けど、変なサイトもあるから、こっちの情報を漏らすようなことは絶対やめてな!」


Aisa(アイサ)


「あ、それはわかる。了解ってことだよな。で、使うってどうすればいいんだ?俺が適当にサイト廻ればいいのか?」


「解析、する。できる。ルト、クザつけたまま、休息」


Aisa(アイサ)!」


 遥斗は覚えたてのガルノヴァの言葉で答え、ニヤリと笑った。パソコンをつけたまま明かりを消し、ベッドに潜り込む。部屋には、遥斗の寝息と、チョーカーの青白いヴェクシス光に合わせてカチカチと動くパソコンの音だけが響いていた。




 翌朝、遥斗はけたたましい目覚ましではなく、驚くほど丁寧な声で起こされた。


「おはようございます、ルト様。本日の予定はいかがでしょうか?」


 チョーカーのクザの声だ。ハスキーさは残るが、まるで秘書のような流暢な日本語。遥斗は目を擦りながら飛び起きた。


「うわっ!? めっちゃ丁寧になってる! お前、もう日本語覚えたのか!? すげえな!」


「この星の情報網を解析し、言語データを学習しました。ルト様とのコミュニケーションを円滑にするため、最適な口調を選択しました」


「いや、めっちゃ流暢じゃん! これでいろいろ会話できるし、お前の使い方もバッチリわかるな! やったぜ!」


 遥斗は思わずガッツポーズ。

 気分がよくなった遥斗は、ふんふんと鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れる。

 そのまま狭いリビングのテレビをつけると、いつも見る天気予報の代わりに、緊急ニュースが流れていた。キャスターの緊迫した声が部屋に響く。


「昨夜、何者かが国内外の各種データバンクに不正アクセスを試みた形跡が報告されています。現在のところ、システム破壊やデータ破損の被害は確認されていませんが、情報漏洩の有無は不明です」


 画面には、セキュリティ専門家が「ハッカー集団の可能性が高いが、声明がないため目的は不明」と語る映像が流れる。遥斗はコーヒーをすすり、のんびり呟いた。


「はー、なんかエライことになってんなー。ハッカーってすげえよな」


 その瞬間、チョーカーが冷静に答えた。


「お褒めいただきありがとうございます」


「……は?」


 遥斗の手からコーヒーカップが滑り、テーブルにカチャンと落ちた。

 間抜けな顔で固まる遥斗。テレビのニュース音が、部屋に虚しく響く。画面では、政治家が「国家機密や軍事施設には被害がないので安心してほしい」と会見する映像が流れていた。


「いや、待て待て! お前、まさか……このハッカーって、お前!?」


「はい」


「はい、じゃないよ!なにやってんの!?」


「ご安心ください、ルト様。その簡素な通信機器ではなく、解析が終わった後は私のヴェクシス通信によるクライオン・プロトコルを使用したため、この星の技術では追跡や特定は不可能です」


「あ、そうなの……って、それならなんで騒動になってんの!?」


「解析が終わるまでは、この星の技術を利用させていただいたので」


「だめじゃん!ばれて俺逮捕されるじゃん!」


「ルト様、問題ございません。クライオン・プロトコルを使いこの端末につながる情報はすべて消しました。また、私は言語学習のため、クライオン・ヴェイルが行われていない公開情報を閲覧したのみです。漏洩や破壊は一切行っておりません。ガルノヴァ連邦法の倫理基準に基づき、行動は厳正です。連邦に逮捕されることはありません」


「クライオン・ヴェイルってなんだよ!」


「ヴェクシス通信において、クライオン・プロトコルによる強制アクセスや改ざんを防ぐ、基本セキュリティです。ネットワークに繋がりながらこの措置が行われていない粒子情報は、連邦情報法により、すべて公開情報として扱われます」


「地球でそんなセキュリティなんてないよ!あとその法基準、ガルノヴァ連邦基準でしょ!なんなの!とんだポンコツだよコイツ! 」


 


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