夢の終わり、思いの続き
生まれた時、人は二つの言葉を授かる。
一つは親からの名前。
もう一つは神からフレーズを貰う。
7日目のセミのように落ちまいとする夕日を横目に俺は学校に残って淡々と入学試験の勉強をしていた。志望先は警察学校だ。フレーズが蔓延しているこの世界で平和を実現するのが俺の夢だ。当然危険も伴うがこれ程やりがいのあることもない。
....!!
サイレンが鳴った。一瞬びくりとしたがすぐに冷静になる。これはもはや日常に組み込まれているからだ。
この世界には一人一つ紙神からフレーズ」と呼ばれる動詞、名詞、形容詞、副詞など品詞を問わず何か一つの句を与えられる。そのフレーズを口にするとその通りの事が起きる。「fire」なら火が出るし「burn」なら目の前の物が燃えると言った具合だ。
その力を悪用する輩が近くに出るとこのサイレンがなるのだ。
そして大きな被害が出る前に事態を収束させる。
いつも通りそうなるはずだった。
学校のセキュリティは半端じゃない。それにサイレンが鳴るとさらに強化される。だが今回ばかりは例外なようだ。
ガシャリと後ろで音がする。振り向きざまに長髪の男がこちらに突っ込んで来ているのが分かった。間一髪で避けたところでこちらに声をかけてきた。
「童、この世界についてどう思う」
「貴方みたいな人が居なくなれば良いと思うよ」
さっきまでの殺意が嘘みたいな穏やかさにきょんとしてしまう。
「それで平和になると?」
「少なくとも俺はそう信じてる」
そうだ、だから警察になるんだ。そう思った瞬間だった
「健気だな。だが上が悪ければ下は加担することになるんだ。」機密情報の印を押された紙を長髪の男がこちらに突き出した。目を凝らして読む。
国民選別について
我が国の発展のため、国民の選別を行う。
フレーズを五段階で評価し、一、二のものについては追放、処分、その他の処罰を下す。
そう書かれていた。
「もう一度問おう。この世界についてどう思う」
言葉が出なかった。
「俺はこの国を変えんとするチームのリーダーをしている。俺と共にこの国を変えるつもりは無いか?」
「待ってくれ。唐突すぎる、信用に足らない。」
上手く言葉を話せない。混乱している事だけが確かな事だった。
「この印が証明だろう?」
その印はこの国でたった一人下作ることの出来ない印だった。
長髪の男が手を差し出す。
にわかには信じられないが、この男が言うことは真実だと言うことを悟った。彼の淀みのない目が俺をそうさせた。
そうして俺は手を取った。
ようこそ、そういうと男はフレーズを唱えた。
「leap」
次の瞬間俺は大空に舞った。
そうして綺麗だったこの世界が、あまりに霞んで見えてしまった。