精霊達との関わり
忘れそうになっていたが、ここには調査のために来ている。きちんと仕事をしなければ。楓さんとも別れ、助けた精霊のところに向かう。仕事のためもあるが、何より体調が良くなっているか心配だった。
トントントン
玄関のドアを叩く。返事する声が聞こえた後、精霊がでてきた。
「あら、あなたは」
「こんにちは。体調大丈夫ですか?」
お辞儀をして訪ねると、精霊は微笑んだ。
「大丈夫よ。霧を晴らしてくれてくれたのよね?ありがとう。一緒にいらしてた女性にも伝えてね」
丁寧にお礼を言われ、私は頷いた。
「今日、お伺いしたのは、これに答えていただきたいんですど」
質問が記載してある書類を渡した。
「わかったわ。待っててね」
精霊は書類を受け取り、家の中に入っていった。少したつとドアが開き丁寧に書類を渡してきた。私は受け取り、確認する。
「もしかして、これここらへん全部やるつもり?」
バックに書類をいれると私は頷いた。すると、精霊は外にでてきて
「私はここの長をしてるの。よかったら一緒に行きましょうか?ここにいる精霊達は皆、人間が得意ではないですから」
と提案してくれた。確かに家を訪ねたとき、誰も快くドアを開けてくれなかった。手伝ってもらえると助かるかもしれない。
「よろしくお願いします」
私は頭を下げた。
彼女はここ第10区域の長。クプレさんというらしい。2人で家を周り、書類を渡した。クプレさんが率先して玄関の扉を開けてくれたので、精霊たちも快くでてきてくれた。2日間かけて配り終え、クプレさんの提案で期限は3日後に決めた。
「こんなにお世話になって、すみません」
ご飯を食べ終え、片付けの手伝いをしながら声をかけた。
「大丈夫ですよ。娘が帰ってきたみたいで楽しいわ」
と微笑んだ。
「そうなんですね。それならよかったです」
私も微笑んだ。娘さんは山源地域で都会といわれる街、スフィアで働きに出掛けているという。それから少しでも、恩を換えそうといろんな手伝いをして、布団に入った。
次の日、夕方ぐらいから空界に戻った。起きると、クプレさんは家にいなかった。空界は1日中明るく、精霊達は寝起きする時間がそれぞれ違う。しかし、クプレさんは私と一緒に寝起きしてくれていた。
外から物音が聞こえてきた。不思議に思って窓から外を見てみると、クプレさんは畑にいた。今日と明日は、書類を待つことしかできない。ようは暇だった。衣装の袖を紐で結び邪魔にならないようにして、畑に向かった。クプレさんの他にも精霊が畑にでているのが見えた。霧があったときよりも、明らかに外にいる精霊が多い。外にでてる精霊達を見て嬉しくなった。
クプレさんは畑で野菜を取っていた。
「おはようございます。手伝いましょうか」
そう言って、畑の中に入った。クプレさんは顔を上げ
「おはよう。じゃあ、そこの野菜達を取ってもらえる?採った物はそこのかごにお願い」
と微笑んだ。私は頷き足元を見る。足元には、キャベツが植えてあった。クプレさんを見ながら、しゃがみ、手でもぎって収穫した。汚れている葉っぱを剥いて、かごの中にいれる。それを見てたクプレさんが声をかけてきた。
「食べれない部分はあそこのケースにいれてね」
クプレさんが見つめる方向を見ると、畑の端に立方体の入れ物がおいてあった。
「わかりました」
いくつか取った後、まとめて捨てにいく。入れ物の蓋を開けると、野菜や果物が腐った臭いがした。急いで葉を捨て閉め、作業に戻った。なぜこれを集めているんだろう。不思議に思った。クプレさんの持っている畑は広かった。そこでいろんな野菜を育てているという。私達がよく知る野菜から薬草、ここでしか取れないものまで。収穫した半分は売りさばくのだとか。1日かけて、畑すべての野菜を収穫していった。
「お疲れさま」
収穫した作物をすべて倉に入れたところで、クプレさんに声をかけられた。クプレさんの手には水が握られており、私に渡してきた。
「ありがとうございます」
水を受け取り、飲んだ。冷たくて、美味しい。疲れていた体が生き返るようだった。
部屋に入って一息ついたとき、気がついた。裾が汚れている。そういえば靴も泥だらけになっていた。洗わないとと考えていると、部屋の襖を叩く音が聞こえ、クプレさんが顔をだした。
「あの、これよかったら」
そう言ってだしてきたのは、服だった。デザインは今、着ている衣装と似ている。
「あなたの着ている服を真似て、縫ってみたの。よかったら着てくれない?」
「いいんですか」
「ええ、今日の服は汚れているでしょう。ついでに洗うから、着てくださいな」
「ありがとうございます」
笑顔で受け取った。広げて見ると、下はズボンになっていた。動きやすいかもしれない。上下、緑色に統一してあり、所々濃い緑や薄い緑の布を使いデザインしてあった。早速、その服に着替え、部屋の外で待っていたクプレさんに脱いだ衣装を渡した。
次の日、昨日と同じ時間に戻ってきた。窓を開けるとクプレさんは昨日とは違う畑にいるのが見える。急いで畑に向かった。
「おはようございます」
声をかけると、クプレさんは顔を上げた。
「おはよう。今日もよろしくね」
私は頷いて、畑に入っていった。野菜の色を見て、取るか判断する。少し上手くなったような気がした。
「ここもクプレさんの畑ですか?」
作業しながら、声をかけると
「ここは、ご近所さんの畑よ。今、体調が悪いから私がやっているの」
と返ってきた。これを1人でやっていたなんて。すごい。気合いをいれるために大きく深呼吸して、作業を進めた。
2刻ぐらいすると、精霊の姿がちらほら見えだした。外にでてる精霊たちは、畑仕事をしたり、街に買い出しに出掛けたりなどしているという。クプレさんと私は通る精霊たちに挨拶していたが、返してくれる精霊やそうでない精霊もいた。
2匹の精霊がクプレさんの近くにより、もじもじしながら声をかけていた。それは、書類を配りにいたときに言葉を交わした2匹だった。2匹ともクプレさんよりは若いように感じる。
私を見てお辞儀した。私も近くによって挨拶をする。
「あの、私たちも手伝ってもよろしいでしょうか」
私はクプレさんを見る。
「人手はある方が良いですからね。お願いします」
そう言って、クプレさんは丁寧に頭を下げた。
「やめてください。私たちこそ、本当は謝るべきなんです。霧がでて、体調が悪くなりたくないからと畑に行くのをやめてしまいました。だけど、クプレさんはずっとやっていて。申し訳ありません」
慌てて謝る精霊達にクプレさんは近寄る。畑をできない精霊の分は元気な精霊が当番制でやっていたという。霧が濃くなってからは誰もやろうとはせず、クプレさんがずっとやっていたらしい。
「大丈夫ですよ。ほら、皆さんでやりましょう」
と再び微笑んだ。クプレさん、優しすぎる。少しは愚痴でも言ってもいいだろうに。私と話しているときもそのような話はでてこなかった。
それから皆で作物を取り、水をあげるとあっという間に終わった。
畑の縁に座って休んだ。水をあげた植物の葉が宝石のように輝いている。綺麗だな。のんびりとした雰囲気に浸っていると、視界におにぎりが入ってきた。顔をあげると、手伝ってくれた精霊の1人が笑顔で見ていた。
「おにぎりです。よかったらどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
受け取ると、その精霊は隣に座った。
「私はミラルと申します。昨日の書類、ポストにいれておきました。初めて助け人を見ましたが、思っていたより優しい方で安心しました。なにかお困りごとがありましたら助けになります」
胸に手を当て、微笑んだ。
「私は翡夜です。ありがとうございます」
私も微笑んだ。
「いいところですね。緑に囲まれて、心が癒されます」
地界にも田舎はあるが、そことはまた違う。自然からエネルギーをもらっている。それを強く感じることができた。
「そうですよね。私はこの場所が好きです。ずっとこのままであってほしいと思っています。ですが」
ミラルさんは顔を曇らせた。
「もうすぐ、ここの近くにショピングセンターがたつのです。畑も木々も少なくなってしまうのが、残念ですね」
えっ。私は驚いた。そんな話は1度も聞いたことなかった。主様の元で働いていると何かと話し合われている題材は耳にはいってくる。ミラルさん曰く数ヶ月前に決まったことなのだとか。私が知らなかっただけなのか。それとも。
次の日、ポストから書類をだした。部屋に戻り、確認する。
「全員分ある」
思わず声がでた。クプレさんの助けがあったとはいえ、書類を渡したときは、興味をもっているようには思えなかった。捨てられたりしていてもおかしくなかっただろう。全員、びっしり書いている。よかった。安心した。封筒にいれしっかりと封を閉じた。
駅に着くと、クプレさんにお礼を言った。
「手伝ってくださり、ありがとうございました。お陰で意見を集まることができました」
「いいのです。私の方こそ畑を手伝ってくれてありがとう」
私は頷いた。クプレさんは思い出したかのように
「ああ、そういえば。昨日きた2人が村の精霊達に声をかけて書類を集めていたよ。だから、全員分あるはず」
と言った。ミラルさん達が。驚いた。集まったのはミラルさんたちのお陰だったのか。次、来たときに直接お礼を言わないと。
「そうだったんですね。お2人にもありがとうございましたと伝えて頂けませんか」
「わかったわ。あなたの一生懸命さが、心を動かしたのね。あの子達が誰かのために動くなんて始めてみたわ」
ふふっとクプレさんは微笑んだ。
「また、ここにいらしてね」
「はい。さようなら」
お辞儀して、電車に乗った。
王城に着き、執務室の前にたった。途中の駅で合流した結とは王城の前で別れ、それぞれ報告しにいくことになった。ノックをすると主様の声が聞こえてきた。1週間。たった1週間王城から離れていただけだったが、帰ってきて安心していた。ドアを開け、中に入った。
「調査ご苦労様。楓から、連絡があって今回の詳細を聞いた。大変だっただろう。わしが山源地域まで完全に目を配れていなかったことが元凶だったな」
ため息をつく。
「それで、意見を聞いてきたか」
「はい」
バックから封筒をだした。
「こちらです」
そう言って、渡す。主様は受け取り、封を開けると、簡単に内容を確認していた。
「うむ。大丈夫そうだ。今日はもう休みなさい」
書類をしまい、安心した顔をした。私はお辞儀をして、執務室からでた。
王城をでて、部屋に向かう裏庭にでると、結が見えた。人型の精霊となにかを話している。気づかれないように少しずつ近づいていくと、声が聞こえてきた。
「久しぶりにこれからご飯でもいかないか」
精霊は長髪で高貴な服やアクセサリーをつけている。声で男性だと認識ができた。ナンパにあってる。王城の敷地内で。走っていって助けようかななどと思っていると
「久しぶりって、昔のことですよね。それに今は派閥も違うのです。こうやって会うこと自体危険なのですよ。あなたが今の王様派閥につくなら話は別ですけど」
親しそうにする精霊に対し、結は辛辣に断っていた。そろそろ声をかけるかと声をだそうとしたとき、肩に手をおかれ、片方の腕を背中に回された。振りほどこうにも力が強い。その力で無理やり地面に膝がついた。
「ゔっ。いたい」
声がでた。それに気がつき2人は私の方を見た。
「翡夜!!」
結は一目散に私のところにかけてくる。そして私の肩と腕をもってる人に向かって
「私の友人です。離してください」
と言った。
「わかりました」
その人は一瞬うろたえたが、私を離してくれた。一気に解放され力が抜ける。
「ごめん。早く気づけばよかった」
座ってる私に結は手を伸ばした。
「大丈夫。ありがとう」
結の手を取り立った。
「部下が手荒いことをしてしまったね。私から詫びよう。すまなかった」
結の後ろから現れた精霊は、胸に手をあててお辞儀した。
「私こそ。すみませんでした」
私も慌てて頭を下げる。服装からして高い身分の精霊だろう。その精霊が助け人に頭を下げるというのをあまり見たことなかったので驚いた。
「それで、紀夜。こちらは同じ助け人なのか」
結は頷く。すると、その精霊は私の方を向き
「俺は将来この国の主となる第1王子。ヒジャンだ。よろしく」
と軽く微笑み、名乗った。この精霊が。ヒジャン。その名前は記憶にある。この人が私のお兄さんなんだ。小さい頃とは容姿が全く違っており、別人かのように思えた。唐突なことに動揺する。
「失礼しました。私は翡夜と申します」
片膝をつき、敬意を表した。話に聞いているよりは、しっかりしていて王子らしいと感じた。横暴で突っ走る。いろんな人から聞いたヒジャン様の性格。その言葉が当てはまるところはどこにもなかった。
「ヒジャン様。私はこれから翡夜と用事があるので。それでは」
結はそう言うと、私の腕をつかんだ。引っ張るように部屋に向かっていく。
「お、おい」
ヒジャン様の声かけを無視して歩いていた。
「いいの?」
「大丈夫。いつものことだから」
私の心配をよそに結は先に進んでいた。
「ヒジャン様はね、幼なじみなの」
歩きながら、結は教えてくれた。結は小さい頃からすでに精霊が見えていたため、主様の許可を得て助け人になる前から空界にきていたという。お父さんが重臣のため、ヒジャン様と会うことが多く一緒に遊ぶこともあったのだとか。
「小さい頃のことはよく覚えていないんだけどね」
と苦笑いした。右翼にヒジャン様がついてからは関わることも少なくなっていったらしいが、さっきのように向こうから話しかけてきているらしい。
「まったく。自分の立場を考えて欲しいよね」
軽く息を吐いていた。




