見舞い
飛びながら、周りを見渡した。機械を壊す前と比べ明らかに周りが見やすくなっていた。霧が晴れた。これが原因で体調が悪くなる人はいなくなるだろう。
「そういえば。あの機械からでてた、白い球体。正体はなんですか?」
私を結界の外にだして、戦っていた。そんなに危険なものだったのだろうか。
「あれは、魂です」
「魂?」
「ええ。人間の。亡くなった人の魂です」
え。思わず、楓さんの顔を見た。真剣な顔で頷いている。冗談を言ってるようには思えない。
「これは、私たち人間にとっては許しがたい真実かもしれません。人によっては精霊のことを嫌いになるかもしれない。翡夜さんは聞く覚悟はありますか?」
覚悟。考えた。私に覚悟はあるのだろうか。私は精霊が好きだ。それはこれからも変わらないだろう。だけど、人も同じぐらい好きだった。精霊のことに力をいれていても、お父さん、お母さん、友達、結。大切な人達だ。しかし、なぜだろう。私は知っておく必要があると感じた。
「はい。お願いします」
そう言うと、楓さんは話してくれた。精霊の犯した大罪の1つについて。
ある工場が霊力を使わなくても、使える機器というものを作った。昔は、機械というものを使うには霊力を入れる必要があったらしい。それをすることにより、スイッチが入る。テレビをつけたり、携帯の電源をいれたりするときにも必要だったという。霊力は1日に使う量が決まっているため、使わなくても使用できるこの機器は画期的だった。
それから少したつと、その工場の社長が逮捕させた。原因は脱税。それによって、工場全体が調査対象になった。そこで明らかになったのは、機器の燃料が人間の魂だったこと。その工場の精霊たちは、亡くなった人間達が住む国に忍び込み、人を誘拐していたという。人にも霊力が備わっている。どんなに霊力が多くても大抵の人はそれに気づかない。それに目を付けた社長は人を霊力のカタマリにする装置を作り、機器にいれたのだった。なんとも酷い話である。
「昔は、今みたいに法が整備されていませんでしたからなんでもやっていたんです。あの機械もその工場で作られていたのでしょう。遠い昔の事なのに、まだ、機械残っていたなんて」
楓さんは悔しそうだった。
「その、精霊を恨んでいましたか?」
「恨んでた。かもしれませんが。その精霊の言い分が最もだったので、助け人としては恨むことができませんでした」
社長は精霊が少しでも生活しやすくなるために作っていたという。助け人は精霊の利になることを望む。それがたとえ人にとって害になることでも。長く助け人を務めてる人ほど、許さざるを得なかったのかもしれない。
私たちの間に沈黙が流れた。
「ごめんなさい。暗い話を」
楓さんがしんみりした空気を断ち切るように慌てた。
「大丈夫です。聞けてよかったです」
楓さんを見て、微笑んだ。そう。聞けてよかった。今見ていることだけではなく、昔のことも知りたい。その事がこの話を聞いてはっきりした。
「あそこです」
あれから飛び続けると、病院らしき建物が見えてきた。ここは第4区域。山源地域で一番、栄えている街だという。それにしても、山源地域はとても広い。第1区域から20区域に分かれている。純民の人数が多いことが地域の広さを見てわかった。
結の病室のドアを開けると、白衣をきた人が来ていた。先生だろう。助け人は人間の先生が見るのが規則らしい。先生は私たちに頭を下げると近づいてきた。
「私は内科の白夜と申します。あなたと同じ助け人です」
「翡夜です。紀夜はどうですか?」
私の質問に白夜さんは、見た方が早いだろうと私たちを病室にいれた。病室にはベッドが1つあり、その上に結が横になっていた。私たちがきても目を開けることはなく、眠っている。
「紀夜さんは道で倒れていたそうです。検査した結果、原因は霧でした。先ほど霧が晴れて様子を見にきたのですが、変わらず意識不明です。普通なら良くなるのですが、なぜこうなっているのか」
「いつ覚めるかもわからないのですか?」
私の質問に、白夜さんはわからないと首を横にふった。
「早ければ数分ですが、最悪の状態もあります。明後日までに目覚めなければ、その可能性も考えた方がいいかもしれません」
魂と肉体が離れている今、長くこの状態でいると、元に戻れなくなってしまうという。期限は明後日。これをすぎると、幽霊に。つまりは亡くなるということになる。こんな感じの説明をされた。たぶん。目の前の結の現状に頭が追いついていなかった。だって、昨日まであんなに元気だったのに。信じられなかった。だけど、結のこの状態が現実だと告げていた。
私は結のベッドの近くに座った。白夜さんは用事があるからと病室からでていった。楓さんは壁にもたれて立っている。
「結。早く起きて」
結の手を握り、結に届くように言ったが、返事は返ってこなかった。こぼれてきそうな涙を我慢する。意識が戻ると信じているから。しかし、信じて待つことしかできないのがなんとも歯がゆかった。
楓さんに息抜きしてきた方がよいと提案され、一旦地界に戻ってきた。半時、ずっと結のそばにいたからだろう。起き上がり、とりあえず着替えた。
リビングに行くと、イリスさんがソファーに座っていた。
「おはよう」
私が声をかけると、イリスさんは立ち上がり
「おはようございます」
と返してくれた。イリスさんは私の顔を見る。そして、顔を背けた。イリスさんは心を読むことができる精霊だ。私の感情を読みとってしまったのだろう。私は大丈夫だと、力なく微笑んだ。だけど、それは見抜かれていた。そんな私を見て、イリスさんは近づき、そっと抱きしめた。
「すみません。見るつもりはなかったのですが、怜華さんから感情を感じてしまいました。向こうで何があったのかわかりませんが、私にできるのはこれくらいしかないので」
イリスさんの腕は暖かかった。寒い冬、雲の隙間から差し込む太陽のように。暖かかった。精霊の力だろうか。じんわりと身体の中に入り、私の心を穏やかにしていった。
「ありがとう。もう大丈夫」
体を離し、お礼を言った。イリスさんはにこっと微笑えんだ。
それから、結のことを話した。イリスさんも楓さんもこういう事に関しては落ち着いて聞いてるように感じた。
「そうだったのですね。何か力になれたらよかったのですが、医療のことは詳しくないのです。すみません。なにもできないのが、一番もどかしいですよね」
心配しているのが言葉に表れていた。
「大丈夫だよ。じゃあ、学校行ってくるね」
そう言って、急いで家をでた。大丈夫。これは私自身に言ったのかもしれない。あのままいたら、イリスさんの言葉で涙がでてきてそうだった。まだ、悲しんではいけない。そう、自分を奮い立たせた。
授業が終わり、結の家によった。チャイムをならすが、誰もでない。もう1日が終わろうとしている。本当に待つしかできないのだろうか。ドアが開かないのを確認して、手を固く握りしめた。
家に帰り、イリスさんに声をかけた。
「イリスさん。1日向こうにいて、身体は大丈夫なのかな」
「そうですね。大丈夫だとは思いますが、体の変化は少しあるとは思います。あの、よかったら、私が見に行きましょうか?ピッキングで侵入することにはなりますが。一応、身体のケアはできますし」
「いいんですか」
驚く私に、イリスさんは頷いた。
「お願いします」
私は頭を下げた。完全に不法侵入だが、今はそんなことを言ってる場合ではない。1日、飲まず、食わずで横になっている。その結の体の方が大事だった。
目を開けると、結が目の前で寝ている。自分がベッドに腕をおき、顔を伏せて寝ていたことに気がついた。体を起こす。肩から何か落ちた。下を見ると、ブランケットが落ちている。楓さんがかけてくれたのだろう。拾い上げ膝にかけた。
結の顔を見る。表情は変わらず、眠っていた。声をかけたら、今にも目を開けそうな感じがするのに起きる気配はない。明日までに起きなければ。どうしたらよいんだろう。と考えていると、1つの考えが浮かんだ。自分の手のひらを見る。私ができるあの不思議な力。それで精霊を助けてきた。だけど、人間にも適用するだろうか。考えてる暇はなかった。やり方は前回のでなんとなくわかっていた。
結の手を両手で握り、おでこにくっつけた。
"結が目覚めますように"
目をつぶり、ひぞおちに力をいれ強く願った。数秒たつと、胸のあたりが光はじめた。いけた。目を開け結にいくように念じると、私と結が光に包まれる。眩しくて目を閉じた。
少したつと光が弱まり、なくなった。ゆっくり目を開ける。後ろからゴトッと音が聞こえた。驚いて振り返る。そこには楓さんがいた。見られた。楓さんはその場で立ったまま
「翡夜さん。その光って。どうして」
と呟いた。楓さんの顔は驚いていた。何か言わないと。口を開こうとしたとき、握っていた結の手が動いたのを感じた。私は結を見る。
「結、結!!」
そう声をかけると、結は目を開けた。楓さんは近づき、反対の手を取った。
「どう、ですか?」
私が聞くと、楓さんは微笑んだ。よかった。
先生が来て、結を診察した。
「もう、大丈夫です。一度地界に戻ったら、いつでも退院しても大丈夫ですよ」
そう言って、でていった。私はほっとした。
「怜華。心配かけてごめん」
起き上がって、謝る。
「いいの。結が起きてくれたから」
その言葉に結は微笑んだ。その笑顔を見て、我慢していた涙があふれだした。結は私を引き寄せて抱きしめる。そして、頭を撫でた。
「大丈夫だよ。だから泣かないで」
「ううん。これは嬉しいの」
涙を流しながら、答えた。結は私が泣き止むまで、そうしてくれた。
私が落ち着くと
「一度、向こうに戻るね」
そう言って横になった。
「うん。おやすみ」
結が寝入ったのを確認すると、私たちは病室の外にでた。
「翡夜さん。お話よいですか?」
はい。さっきの事だろうな、と察した。楓さんから逃げられそうにはなかった。
通路の椅子に座った。
「あの力。一体、いつからですか?」
私は地界で、コロロじいさんという精霊を助けたことから話した。始めは自分からでた光だとは思わなかったこと。精霊の喧嘩を止めたときに気づいたこと。そして、今日のこと。包み隠さずすべて。
「この力はなんですか」
「それは、簡単に言うと王族のみが使える力です。強く願うと願いが叶う力。主様もこの力を使ってあなたを助けたのですよ」
そう微笑んだ。そうなんだ。薄々気づいていたが、改めて聞くとすごい力だと実感した。なんでも願えば叶うため、危険な力ともいえた。気をつけよう。そう心に決めた。
「翡夜さん。この力これ以上使わないでもらえませんか」
楓さんが私の目をまっすぐ見て、お願いしてきた。確かにこの力はあまり使わない方がいいかもしれない。
「いいですけど。どうしてですか?」
聞くと目をそらした。
「使い続けると貴方の体調にあまりよくないのです」
「よくない?」
「はい。この事に関してあまり知識がないので、詳しくは申せませんが。しかし、貴方は半霊なので気をつけてください」
「わかりました」
私はしっかりと頷いた。
「じゃあ、仕事に戻ろうか」
隣で結が言った。あれから、結は少したつと戻ってきた。イリスさんにちょうど出会ったらしい。イリスさんのケアの効果で体が動きやすかったと喜んでいた。楓さんが用意してくれた精霊にそれぞれ乗る。
「またね」
そう言って、手を振り行こうとすると
「怜華」
呼び止められた。進みを止め振り返る。
「ありがとう」
そう叫んだ結に、笑顔で頷いた。




