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精霊と助け人、怜華  作者: 水葉
28/30

山源地域の霧

山源地域は国の端にあり、山に囲まれた麓にある。そこは助け人や貴族、平民までもが訪れることが少ない。一番低い階級の純民が住んでいるのだった。そもそも、階級はなにに決まっているのか。それは精霊が生まれながらに持つ霊力の量だった。霊力は扱いが難しく、ある一定以上の量がないといけない。霊力により、技をだしたりや飛んだりできるが、これも霊力の高い重臣や王族に限っていた。一定以上の霊力を保有する。つまり、霊力があると見なされている精霊たちでもできるものがある。それが変化だった。人や動物などなりたいものに変わることができる。一定以上の霊力と才能ががあれば誰でもできるものだった。

2000年前、純民は山源地域だけではなく、王城の周りやいろんな地域に住んでいた。しかし、貴族と純民の間でけんかが起きた。霊力がほとんどない純民は人型になれない。しかし、そのかわりよく働き、精霊の姿でも器用であった。お陰で純民のことを雇うお店も多かった。それをよく思っていなかったのは貴族達だった。貴族の中でもお金持ちから貧乏までいる。貴族たちが働こうとしてもなかなか雇ってくれないことが何年も続いた。その不満が爆発し、姑息な意地悪から始まった純民への嫌がらせは、国中を巻き込んだ戦争へと発展した。当時の主様は和解させ戦争をやめさせようとしていたが、重臣たちの意見に負け、貴族の味方をしてしまった。貴族の勢力は強くなり、純民たちはおされ、敗北を認めた。

 純民たちは追いやられた先の山源地域で住み始めた。それをいいことに、重臣たちは王城の周りで働くことを禁止する法を作った。今はもうその法律はなくなったが、王城の周りで働いてる精霊は少ないのが現実だった。

「という感じだな」

翌日執務室に行くと、主様は作業していた手を止め、純民に起きたことを話してくれた。

「それで、今回の任務内容はこれだ」

紙を渡された。それは山源地域への行き方と訪問場所、調べてくる内容だった。

「あの、行き方に鉄道って。どこにあるんですか」

一通り目を通し、主様に聞いた。王城の周りの町を歩いていても、線路や電車は見当たらない。

「電車はな、地下にあるんだ。いろんな所に、地下の駅がある。王城の前にも地下に通じる階段があるからそこから行きなさい」

そう言って、チケットを出した。

「山源地域行くまでには1日と半日かかる。これは寝台列車のチケットだ。それぞれ行きと帰りの分。使いなさい」

「ありがとうございます」

私はチケットを受け取り、お礼を言った。

「他に質問はあるか?」

少し考え答えた。

「私が行っても大丈夫なのでしょうか」

純民たちの過去を知り不安になった。すごい昔のことだけどその時代を知ってる精霊たちは多い。助け人が行ったら火に油を注ぐだけなのでは。

「ここ数年は少しずつ、重臣や貴族たちと接する機会も多くなったから大丈夫じゃ。それに助け人は私の管轄下にある。助け人に害をなすということは、わしを愚弄することと同じことだ。そうだ、忘れておった」

そう言って、楕円形の札をだした。

「これは主令札(しゅれいふだ)だ。わしの命令で動いているという印になる。お守りとして持っておきなさい」

頷いて、受け取った。

「なにかあったら連絡をしてくれ。今日は頼む業務はない。部屋に戻り準備をしたら、そのまま行きなさい」

「はい。行って参ります」

頭を下げ、執務室を後にした。

 部屋に戻り、必要なものをショルダーバックにつめた。連絡手段の携帯と書類とノートと…すべていれたか確認をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。返事をして開けると、バックを肩にかけた結がたっていた。

「途中まで一緒なんだ。一緒に行ってもいい?」

結と途中まで。嬉しい。私は笑顔で

「いいよ!!」

と返事をした。

 王城近くの階段を下りると、広い空間が現れた。たくさんの電車が止まっている。どうやら、駅のホームらしい。

「部屋は自由に選べるんだ。一緒の部屋でもいい?」

歩きながら、聞いてきた。結は何回か乗ったことがあるらしく、何本か止まってる電車のなかで、一本の電車に向かって迷わず歩いていく

「いいよ。任せる」

ついていきながら、結に委ねた。電車の前に行くと、駅員さんがいた。私たちはチケットをだしてなかに入る。通路があり右側にはドアがいくつも並んでいた。結は進み、ひとつの部屋のドアを開けた。

「ここにしようかな。先どうぞ」

そう言って、手招きする。なかにはいると、通路があり、右にひとつドアがあった。通路の先を進むと広い部屋が現れた。ひとつの部屋にベッド、テーブル、テレビ、棚が置いてある。まるでホテルに来たようなそんな気分になった。荷物を床に置き、テーブルの上に置いてある紙を見た。ルームサービスの内容とご飯のお品書きがかいてあった。

「本や専門書、オセロやトランプとかも借りれるんだ。ご飯はここまで運んできてくれるの。入り口近くにあるドアはお風呂場だよ」

後から来た結が説明してくれた。

「すごいね。ホテルみたい」

周りを見渡した。大きな窓があるが地下ということもあり、外は真っ暗だった。

「ここは、お菓子やスイーツも食べ放題だからね」

嬉しそうに小走りで棚にあったメニュー表をもってきて開き始める。結とどこかに行くと必ず何かしら食べているような気がした。私も隣でメニューを見た。

 注文し、慣れた手付きで頼んだものをテーブルに並べ食べ始める。

「本当はね怜華が行くところに私も行きたいって、お父さんに頼んだの。だけど、仕事だからためだって」

結は持ってたフォークをくるくるしながら頬を膨らませていた。

「それはそうだね。でも、一緒に行けてるからよかった」

結の方が降りるのが早い。結が行くところは、山源地域の手前の街らしい。純民と良民が一緒に暮らしているという。

「純民のこと、初めて行くと思うけど怖くないの?」

結は私をまっすぐ見つめた。

「そうだね。だけど、楽しみのほうが強いかな」

"怖い"確かに言われればそうかもしれない。だけど、初めて会う精霊や場所にわくわくしていることの方が先行していた。

「すごいね。私は最初の時なんてびくびくしてたよ」

苦笑いをした。結のお父さんが数年前に行ったときは、重臣というだけで、ひどいめにあったという。助け人には、よくしてくれる精霊(ひと)が多いがそれは遊びにきたときであって、公務としていくと、冷たい対応をされることが多いのが現実だった。これでも昔よりはよくなったらしい。数秒沈黙が続き重い空気を感じたのか、結はケーキをフォークで切って私の口のなかにいれた。

「うぐっ」

思わず声がもれでる。

「この話は終わり。違うこと話そ」

なぜ私の口にケーキを?笑みがこぼれる。結が話すのを頷きながら聞いていた。お父さんのことを話している結を見て心配になったが、いつも通りの結がそこにはいて安心した。

 スイーツを食べ終わったあとも、私たちはオセロやトランプを借りて遊び、ずっと話していた。

 2人でベットの上に寝転んだのは、結構な時間がたってからだった。お互い顔を見合わせる。結はにこにこしながら、私を見ていた。

「どうかしたの?」

不思議に思って、聞いてみると

「何でもないよ。おやすみ」

そう言って、布団を顔に被せた。

 一回、地界に戻ったが、数時間たつとまた戻り、遊んだ。電車の中でこうゆっくりするのをいいものだなと感じた。

 楽しい時がすぎるのは早く、気づいたら結の目的の地についていた。

 「じゃあ、行くね」

結が電車から降り、手を振る。その振る手は少し寂しそうだった。私も手を振り返し、安心させるように微笑む。

「帰りも、一緒にかえっていい?」

結が聞いてくる。

「いいよ。お互い頑張ろうね」

私の返答に結はにこっと微笑んだ。そして、いたずらな笑みを浮かべる。ん?と頭にハテナが浮かんでいると、結は早足で近づき、勢いよく、だけど優しく私を抱きしめた。私は急なことに驚いた。

「結…?」

私が声をかけるが返事はなく、微かな呼吸の音が聞こえてきた。私は結の気がするまでそっと寄り添った。少したつと結は体を離し

「よし、大丈夫。ありがとう」

と笑顔で言った。

「うん、よかった」

急なことに動揺しながらも、微笑んだ。

「じゃあ、いってきます」

結は満足そうに走り出していった。

 結を見送り、私は部屋に戻った。あと、数時間で私も目的の場所につく。広い部屋は結がいなくなり、どこか寂しく感じる。駅で結に抱きしめられたことを思い出した。抱きしめられたあの感覚。それはしっかりと残っていた。嬉しかった。思い出して微笑んだ。

 私は椅子に座り、残りの時間を本を読んだり、資料に目を通したりしながら過ごした。

 荷物を持ち、駅に降り立った。階段を上り、地上にでる。そこは畑や田んぼがたくさん並んでいて、ぽつりぽつりと住宅が密集しているところが、何ヵ所かあった。王城の周りとは違い自然が多く、田舎という言葉が適している場所だった。微かに白いもやのものが漂っていてすっきりする天気とはいかなかった。とりあえず、住民を探そう。私は集落がある方へ進んで行った。周りの田んぼや畑には、作物が実り、地面をそうように雲が流れる。その自然さが時の流れをゆっくりと感じさせた。

 1つの集落に入り、すぐ側の家のドアを叩いた。

「どなたですか?」

ドアを少し開け、落ち着いた声が聞こえてきた。

「私は翡夜と申します。調査にきました。お話できないでしょうか」

ドアの向こうにいる精霊の目線にあわせて聞いた。

「今、忙しいので」

そう言われ、ドアを閉められてしまった。対応が冷たい。諦めずに、隣の家のインターフォンを押した。

「はい、どなたですか」

インターフォンから声が聞こえてくる。

「私、助け人の翡夜と申します。お時間よろしいでしょうか」

声をかけると

「すみません。今、忙しくて」

と言って、切られてしまった。他の家もまわったが皆同じような態度で断られてしまった。とりあえず、他の集落にいってみよう。そう思い、私は畑道を歩き始めた。

 遠くにある集落を目指して歩いていると、1匹の精霊が畑でなにかをしているのが見えてきた。ここにきて、外に出てる精霊を初めて見た。あの精霊に聞いてみよう。そう思っていると、突然視界から見えなくなった。え。驚いて、そこにいたであろう畑に近寄った。近寄ると、畑で精霊が横たわっているのが見えた。

「大丈夫ですか?」

急いで駆け寄る。その精霊は私の声に反応し、目を開けた。

「あの、家に運んでもらえませんか?」

弱々しく呟き、家がある方へ指差した。

「あそこですか?わかりました」

その精霊を抱き上げ、指差した家に向かう。

 家の中に入ると、目の前に畳が敷き詰められた部屋があった。精霊をその部屋に優しくおろす。精霊は意識を失っているのか、反応がなかった。息はしているみたいで安心する。どうしよう。とりあえず、主様に連絡することにした。携帯を取り出し、連絡する。主様がでたのを確認すると、口を開いた。

「主様。翡夜です。山源地域につきました。その、畑で倒れてる精霊がいて。家に運んだのですがどうしたらよいでしょうか」

私の相談に主様は少し考えていた。

「そうだな。わしが行けたらよいんだが、あいにく手が離せなくてな。そのかわり楓をそちらに送るから、少し待っていなさい」

「わかりました。ありがとうございます」

そう言うと電話を終えた。

 少したつと、風の音が聞こえ、窓が振動した。外に人の気配がすると、チャイム音が聞こえてくる。精霊の代わりにでると、楓さんがたっていた。

「翡夜さん。お待たせしました」

「どうぞ。それにしても速いですね」

電話をしてから数分しかたっていなかった。

「空を飛べる精霊につれてきてもらいました。そういえば、翡夜さんは体調とか大丈夫ですか?」

「?。はい、元気です」

楓さんは一瞬険しい顔をしたが、私の返事を聞いて安心したような顔を見せた。急に体調のことを聞いてきたため、なぜだろうと不思議に思った。

 楓さんを家のなかにいれ、精霊がいる部屋まで案内した。

楓さんは主様から話を聞いたらしく、そのまま精霊の体を詳しくみていた。

「どうですか?」

隣で見ていた私は、メモをとってる楓さんに話しかけた。

「大丈夫です。少しすれば気がつくでしょう。あとは、彼女が起きてから聞きましょうか」

そう言って、再度険しい顔をした。なにかあるんだろうか?

「あの、楓さん」

私が声をかけると、楓さんは私をみた。疑問に思っていることを聞こうとした時、精霊が視界の端で動いた。楓さんは私から視線を外し、精霊を見つめる。

「体調どうですか?」

楓さんは近寄り、精霊の体に触れる。

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

ゆっくりと起き上がり、お礼をいった。

「よかったです。それで、あなたに質問があるのですが」

楓さんは精霊をじっと見つめる。精霊は楓さんが聞きたいことを察したのか頷いた。

「外の霧のことですよね」

精霊の言葉に楓さんは頷く。外の霧?確かに、霞んでいて、遠くは見えずらい。

「気づいているかもしれませんが、あれは人型に変わることができる霧です」

「人型になれる霧?」

私の呟きに楓さんは説明してくれた。霧は霊力が少ない精霊でも人型になれるように手助けする起爆剤のようなものだという。機械を設置することで霧が発生するらしい。私にはただの霧にしか見えないが、楓さんや精霊からすると少し色がついてみえるという。

「この機械は問題があったとかで、100年前に主様が禁止したはずです。私が来たときはこんな霧はありませんでした。なぜこうなっているのか説明いただけますか?」

精霊は頷き、順を追って説明し始めた。

"5年前、ある人型の精霊が山源地域に来ました。観光でくる精霊はいるので、不思議に思いませんでした。しかし第一区域という、ここよりは栄えた町でチラシを配り始めたのです。しかも純民しかいかないお店や娯楽施設を中心に。そのチラシは、簡単に人型になれるというのをうたうものでした。

おかしい。誰もがそう思ったと思います。

人型の精霊はその良さを純民達に話し、聞かせました。私も聞いたことがあります。家の前まで来て熱弁されました。最初は馬鹿らしい。そう思っていたのですが、何回か聞くうちに興味をもつようになりました。他の皆さんもそうだったのでしょう。どうしたら良いのかと聞く精霊もいたので。

そこで人型の精霊が提案したのは、この霧装置の設置でした。反対する者は誰もいなかったと思います。今思えば洗脳に近かったかと。

設置している何ヵ月は、簡単に人型になれたので生活しやすかったです。しかし、時がたつと次第に体調を崩す者がでてきました。最初は流行り病にでもかかったのかと思いました。だけど患者の増え方が感染症とは違っていた。調べた結果、あの装置が原因だということがわかったのです。私たちはあの人型の精霊を問い詰めに行きました。しかし、そのときにはもう、人型の精霊はいなくなっていました。

 私たちは話し合い、機械を壊すことに決めました。大柄な精霊を何匹か連れていったのです。ですが、結局その機械を壊すことはできませんでした。機械の周りには結界がはられていたのです。霊力が弱い私たちにはどうすることもできませんでした。

私たちは外にでないと生活できません。特にこの地域の人たちは農業で生計をたてています。長時間外にいることをしいられる。しかし、長時間外にいると、力が抜けさっきみたいに倒れてしまうので、時間を決めて生活しているのです。外にでることが体の害になる。そのため、外にでる精霊は少なくなってしまいました。"

精霊が話し終えると、楓さんは考え込み

「なるほど。人型の精霊ですか。その人型の精霊は自分が誰か言ってませんでしたか?」

と聞いた。

「たしか、正義女神(アストレア)の一族だと言っていました」

それを聞いた楓さんは、バックの中から写真を取り出し、精霊に見せた。

「この紋章が腕か首にはいっていませんでしたか?」

私は横から覗いた。それは天秤と剣が組み合わさってできていた。

「ええ、たしか首に」

精霊が答えると、楓さんは頷いた。少し動揺したようにも見えたが再度見ると真剣な顔をしていた。

「ありがとうございます。まずは、機械を壊すことを優先しましょう。あと、その精霊のことはこちらに任せてください」

「いいのですか?」

「はい」

精霊の安堵した表情に楓さんは微笑んだ。

 霧がだんだん濃くなってきたため、私たちは明日機械を壊すことにした。部屋を1室借りてくつろぎ始める。

「そういえば、さっきの紋章はなんだったのですか?」

あれを精霊に見せたとき、いつも冷静な楓さんが珍しい一面を見せた。その事が引っかかっていた。

「あの紋章はアストレアに所属しているという証です。正義の女神と言われていますが、私からすれば犯罪に近いことをしている集団といえるでしょう」

「犯罪に近いこと?」

「今回、起きたことが手口だと言ったほうが簡単かも知れません。良い行いをしているように見えて、実は精霊の害になることをしている。人型になる機械は純民にとって良いものでしょう。しかし、このように副作用もでてきてしまう。そのあとの救済をせずに消えるのがこの集団のやり方なのです」

「捕まえることはできないんですか?」

「捕まえるのは、容易ではないでしょう。なにせ、謎が多い集団です。100年前に一掃されたはずなのですが、どうやら残っていたようです。今もどれだけ所属しているか」

楓さんはため息をついた。100年前、同じような事件があったという。その時は副作用というものが知られていなかったため、原因がわかるまでたくさんの精霊が体調を崩し、死者まででたらしい。アストレアは捕まり、所属している者すべてが刑務所に送られ、無期懲役または死刑を言い渡されたという。しかし、残党がいた。どこかに穴があり、逃げ延びた者もいたということだろう。

「明日、機械を壊しに山にはいります。私では流石に難しいので、知り合いに、来てもらうことにしました。翡夜さんも来ますか?」

「はい」

私は力強く頷いた。楓さんはそっと微笑む。

「わかりました。では、主様に報告してきますね」

そう言うと、部屋の外にでていった。

一息つき、そういえば結は大丈夫なのか、心配になった。携帯を取り出し、結に連絡した。

数秒すると、携帯にでた音が聞こえてきた。

「はい」

携帯の向こうから発せられる声は結のものとは違い、低い声だった。

「あの、これは紀夜の携帯ですよね」

不安になって聞いた。

「そうですけど。もしかして、翡夜さん?私は紀夜の父親です」

携帯の向こうにいる相手に私は驚いた。

「結のお父さんが、なぜですか」

「それがね。結は今、病院にいるんだ」

「どうして」

結のお父さんの言葉に、私は頭が真っ白になった。

「それで大丈夫なんですか?」

「ああ、命に別状はないらしい。今は寝ているから電話にはでれないんだ。ごめんね」

それを聞いて安心した。焦った自分を落ち着かせる。

「大丈夫です。こちらが落ち着いたら、お見舞いに行きますね」

「ああ、よろしく頼むよ」

そう言って、お互い携帯をきった。それと同時に楓さんも戻ってきた。

「何かありましたか?」

私の表情が暗かったのか、またして何か察したのか聞いてきた。私は結が病院にいることを話した。楓さんも驚いていたが、命に別状はないと聞き、安堵した様子だった。

「紀夜のことって、この煙と関係ありますか?」

結がこっちで体調を崩すなんて珍しいからだ。楓さんは少し考え

「そうですね。人間でも体調は悪くなります。でも、入院までする人は珍しいのかも知れません。私の推測ですが紀夜さんは、感受性が高いのでしょう」

と答えた。

「そうなんですね」

だから、楓さんは私と会ったときに体調のことを聞いたのか。納得した。やはり、結が心配だった。それが顔に現れていたのだろう。

「機械をなんとかしたら、紀夜さんのお見舞いに行きませんか?」

楓さんの提案に、私は笑顔で頷いた。


 次の日、とはいってもこっちは夜という概念がないため、霧が薄くなった頃を朝と仮定した。私は一度地界に戻り、ご飯を食べ、運動して戻ってきた。肉体も動かさないと、筋力が落ちてしまう。意識(たましい)がこちらに来ているときは、肉体は寝たきりの状態と同じようなものだった。

 私たちは飛ぶ精霊に乗り、教えてもらった山に向かった。

『ここから東にある山です。その山の洞窟にあります』

精霊はそう言って、地図を書いて渡してくれた。山を2つ越えた先にある。その山は他の山よりも紅葉で彩られていた。周りの山は枯れ葉が地面に落ち、細い木が何本もたっているのに対し、オレンジ、黄、赤など生い茂る葉を身にまとっていて綺麗だった。しかし、その美しさが異様にも思えた。

「この山は美山(みせん)。山の美しさに魅入られると山に取り込まれますよ」

冗談です。とつけたし、楓さんは微笑んだ。心臓に悪い冗談だった。見ると誰でも、引き込まれそうな美しさであながち冗談にも思えなかった。

「下に降りたいのですが、それには彼がいるほうが良いので、来るのを待ちましょう」

彼?楓さんが知り合いが来ると言っていた。その人なのだろうか。少し待つと

「待たせたね」

と声が聞こえてきた。声がするほうに顔を向けると黄色い目をした青年が精霊に乗ってきた。

「遅れるのは相変わらずですね。こちらは翡夜さんです」

私はお辞儀をした。青年はじっと見ると、ふっと笑った。

「なるほど、ね」

含みを持たせた言い方に、私はなんでだか分からなかった。しかし、楓さんには通じたらしく

「流石ですね。この事は内緒にしてください。あくまでも、助け人として接するように。まあ、大丈夫だとは思いますが」

と注意していた。そこでなんとなく分かった。姫だとばれたんだなと。

「それでこっちが」

楓さんの言葉に青年は口を挟んだ。

「俺は、タル。占いや術、予知なんかを得意としてて、星詠みをやってる。よろしく」

と言って手をだしてきた。私も手をだし、握り返した。

「彼は相手の顔を見ると、どんな人かわかるのです。だから翡夜さんのことを姫だと見抜きました。信頼できる者なので安心してください」

と楓さんが耳打ちした。顔を見ただけで。すごい人なんだと感じた。

「それで、楓。結界があるんだって?」

降下をしながら、タルさんが聞いた。

「はい。あそこの洞窟です。中に機械があるのでそれも壊してください」

地図を見ながら、洞窟のひとつを指差した。

「相変わらず、人使いあらいな」

と文句を言ったが、ふっと笑っていた。フレンドリーなタルさんに対し、敬語で話す楓さん。楓さんの言葉は優しいがどこか壁があるように感じた。この2人の関係は一体なんなのだろう。

 地面に降りたち、洞窟の穴の前にたった。タルさんが穴に手を伸ばすと、バチッという音がして、水面のように空間が揺れた。これが結界というものだろう。タルさんは何も言わず、左から右に手をスライドさせた。すると、空間に無数のヒビが入り、崩れた。タルさんが再び手を伸ばすと、先ほどの音は聞こえず、先に進むことができた。薄暗い道の先を歩くと、肩ぐらいの高さの機械が現れた。タルさんはしゃがみこみ機械をいじり始める。楓さんは少し離れたことろで壁に寄りかかり、機械を見ていた。私はタルさんの後ろで見ていると、タルさんが小声で話しかけてきた。

「俺と楓の関係が気になってるんじゃない?」

私は頷く。

「俺達はね恋人だったんだ」

「えっ」

小声で驚く。タルさんはもう別れてるんだけどねと付け足した。

「なぜ別れたんですか?」

私の質問に、タルさんは首をかしげ

「なんでだっけ?もう、数百年たつから覚えてないや」

と答えた。タルさんは陰陽師が存在するときに生きていたらしい。こっちに来てから楓さんと会ったという。楓さんのタルさんへの接し方は出会った当初からこうらしい。昔の話過ぎて、想像ができなかった。

「付き合ってる時は愛のあるツンだったんだけど、今は冷たいツンだね」

少し残念そうだった。

「今でも好きなんですか?」

さりげなく聞いてみた。

「好きだよ。でも、仕事上のパートナーとしてかな。楓は俺の得意を活かすことができる、唯一の人だよ」

そう言って、楓さんをチラッと見て、機械に目を戻した。

「これでよし」

数分たつと、タルさんは立ち上がり私に下がるように促す。私は機械に背を向け歩き離れたところで振り返った。それと同時に私の目の前に結界がはられた。中には、楓さんとオルさんが残っている。なんで。と思っていると、機械から白い球体がうようよとでてきた。その白い球体は一番近くにいたタルさんに狙いを定めると、勢いよく飛んでいく。タルさんはその球体に紙を投げ、消滅させたり、切り裂いたりと上手く対処していった。白い球体が少なくなった隙を狙い、どこからかだした刀を、楓さんに投げた。楓さんは刀を取り、増え始めた球体をよけ、機械を切った。いや、粉々にした。楓さんの速さはとても速く、普通の人ではできないようなやり方だった。こんな楓さん初めて見た。ただの薬屋さんにここまでできるのだろうか。楓さんって一体。疑問が頭の中で渦巻いていた。

「終わったー」

タルさんの声と同時に結界が解けた。疑問を考えていたが、その声で一気に現実に戻された。まあ、楓さんが何者でも関係ないかもしれない。信用できる人なのは間違いない。私が知ってる楓さんは、優しくて、頼れる人なのだから。それ以上深く知る必要はなかった。

3人で洞窟からでると、空飛ぶ精霊が待っていた。

「今日はありがとうございます。助かりました」

楓さんがお礼をいった。

「いいんだよ。役に立ててよかった。じゃあこれで」

と言って、精霊にまたがり宙に浮いた。

「そうだ。翡夜さん。頑張りなさい」

そう言い残すと、爽やかなウインクをして飛んでいってしまった。なんだったのだろう。タルさん。不思議な人だった。

「では、私たちは病院に向かいましょう」

「はい」

私たちも精霊にまたがり、結のいる病院に向かった。

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