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精霊と助け人、怜華  作者: 水葉
26/30

新たな環境へ

空界に行き、支度をした。ベットを整えながら、主様が言っていたことを思い出した。主様の元で働くかどうか。私は何て返事するかもう決めていた。どうやって伝えようか。私は王城の最上階にいけない。昨日聞けばよかったと後悔した。支度を終え玄関に向かい、ドアノブに手を伸ばす。視線をふと下におとすと、ドアの隙間に紙が挟んであるのに気がついた。ゆっくりと紙を抜きとる。ふたつに折られていた。開くと文字が書かれている。

「桜の下で待っています。オル」

最上階に行かずにすんだ。安心した。紙をしまい、庭園に向かった。

 桜の木は、庭園の遠くからよく見える。桜の下にはオルさんがいるのが見えた。精霊の姿でちょこんと座っているのがみえた。私は近づくとお辞儀をした。オルさんは私に気がつき、のっそりと立ち上がった。

「どうするか決めたかな?」

まっすぐ私の目を見つめた。

「はい。ぜひ、お受けいたします」

片膝をつき、頭を下げ、敬意を示した。かげながら(おとう)様の役に立ちたい。ひとえにそう思った。主様は人型になって近づき私を立たせた。

「ありがとう。決めてくれて」

主様は嬉しそうだった。その顔を見て私も嬉しくなった。(おとう)様の役に立ちたいが、助け人と主様、この関係でいたいと強く思った。それが今は心地よいと感じる。娘と打ち明けるという選択肢は存在しなかった。

 私は主様に連れられ、王城に向かった。主様の部屋は最上階にある。最上階には主様が使う寝室や書斎、会議室、王族の部屋などがあるという。主様はドアを開けて、入るように促した。私はお辞儀して入った。部屋には大きな机がおいてあり、その両脇に背の低い棚が設置してあった。想像してた部屋とは違っていて、とても質素にみえる。壁にそって棚が置いてあり、たくさんの書類が山積みになっていた。奥にはソファーとテーブルが置いてあった。

「ここは、仕事をしている執務室じゃ」

主様は椅子に座った。

私は机をはさみ主様の前に立つ。主様は机の引き出しを開けなにかを取り出し、机の上に置いた。長方形の木の板に紐がついている。その板にはユキヤナギの彫刻が彫られていた。

「これはこの場所にくるための許可証じゃ。なくさないように」

「はい。ありがとうございます」

私は許可証を受け取り、大事にポケットにしまった。主様は私がやる仕事の内容を説明してくださった。主に仕事は3つで、書類の整理、外部依頼、主様からの調査だという。

「ここで見聞きしたことは他では口外しないように。そなたの意見を聞くときもあるかもしれないから、気を引き締めて仕事に務めなさい。わかったね」

「はい」

人型の主様と話すと緊張した。精霊の姿のときと違って、主様というオーラがでていた。私は姿勢をただして返事をした。

 一通り説明され、ソファーに座りながら書類の整理をした。机の上置いてある主様が確認し終わった書類を仕分けて、指定の棚に置いていった。執務室は精霊の出入りが多かった。青いローブを羽織った精霊たちが主様に相談しに来ていた。このローブをきたものたちが重臣だという。重臣にも位があり、その位によってローブの色が変わってくるという。

 主様は忙しそうに1人1人対応していた。たくさんの書類を読み、重臣と話しをする。主様の仕事は大変だな。そう思った。何人かの重臣がこちらを見ていたので、私はその度に会釈していた。

「書類を重臣たちに渡してくるから。翡夜はそのまま作業していてくれ」

主様は立ち上がり、机に置いてあった書類を持った。

「わかりました」

私の返事を聞いた主様は頷き部屋をでていった。

 書類をまとめ、棚に置く。気分転換に部屋をみわたした。ソファーの近くの壁には絵画や写真が飾られている。そのひとつの写真に目が止まった。4人の人。主様とお母様と男の子。そして私。仲良く並んでいる。前に見た写真よりも、色が鮮明に写し出されていた。ふわふわとした灰色の髪に水色の目。お母様と男の子と手を繋ぎ、にこにこと笑っていた。人間と精霊の間に生まれた私。その事を実感できたような気がした。ソファーに座り、整理を続けた。

 それから少しすると主様が戻ってきた。なぜか行くときよりも疲れているように感じる。手にもっていた書類は、誰かに渡したのか持っていなかった。

 一通り整理し終えると、私は主様の前に移動した。

「なにか他にやることはありますか?」

主様は書類をまとめ、ファイルにいれながら

「そうだな。今日の仕事はこれで終わりじゃ。わしはこれから会議があるから、もう帰ってよいぞ」

とおっしゃった。

「わかりました。では失礼します」

私は頭を下げ、部屋をでた。

 地界にもどり、イリスさんにつくってもらったご飯を食べていると、チャイムが聞こえてきた。イリスさんが返事をして、玄関に向かった。今日は学校があるから早く起きていた。こんな時間に誰だろう。と不思議に思いながら食べ進めていた。

「怜華」

リビングのドアを少し開け、制服姿の結がこちらをのぞいてきた。

「結。どうしてここに?」

結と私の家は少し離れている。なのに私の家に顔を出したということは、なにか大事な用でもあるのだろうか。結はリビングに入り、私の前に座った。

「もしかして怜華。主様の元で働くことになったの?」

結の言葉と私が水を飲んだタイミングがかぶり、むせた。なぜそれを結が知ってるんだろう。

「ああ、ごめん。大丈夫?」

心配してる結に、私は頷いた。

「どうして知ってるの?」

私が聞くと

「空界で噂になってるよ。翡翠色の服をきた助け人が庭園から王城の最上階に行くのを見たって。王城にはたくさんの目と耳があるの。だから、言動には気をつけたほうがいいよ」

と教えてくれた。

「ありがとう。気をつける」

私は微笑んだ。結もにこっと返してくれた。

「重臣たちは大騒ぎだったんだよ。主様は新たな側室をもうけるんだとか憶測する重臣たちもでてきたから」

「側室!!ないない」

私は首を横にふった。主様は何人もの奥さんがいるらしい。正室といわれるのは妃主様だけで、他は側室だという。結は笑って

「主様がそれに関して書類配ったから大丈夫だと思う。今頃、会議でも話してるんじゃないかな」

と言った。主様が助け人を側におくのは、楓さん以来なかったらしい。そのため、そういう噂がたったのではと結は推測していた。私が整理していたとき、主様はたくさんの書類を持って部屋をでていったときがあった。そういうことだったんだ。ふに落ちた。

「怜華って。重臣のこととかまだわかってないよね」

結に聞かれて私は頷いた。授業では王城のことはあまり教えてもらえない。だから、王城にまつわることは知らないことばかりだった。

「教えて上げるよ。だけど、そろそろ学校行かなきゃ」

結が時計を見ていう。私は用意をして、一緒に学校に向かった。

 歩きながら結は教えてくれた。

「とりあえず、重臣のことかな。王城の中で怜華も関わることあると思うし。重臣には着ているローブによって地位が別れていて、青、赤、緑があるんだ」

「青いローブの重臣を主様の執務室で見かけたよ」

私が言うと、結はああ、と頷いた。

「青いローブは一番地位が高いね。役職についてる人が多い。一番下は緑のローブ着てる人だね。主に雑用かな。真ん中は赤いローブを着てる人。青いローブを着てる人の手伝いかな。地方の長になっていたりもするね。国全体のことを主様と議論するのが青いローブ。地方のことをやるのが赤いローブ。雑用が緑のローブだね」

なるほど。だから、主様のところにくる重臣は青いローブをきた人たちなのか。納得した。結は話を続ける。

「重臣って主に2つの派閥にわかれるんだよね。先代の主様側の北妖(ほくよう)、今の主様側が南妖(なんよう)

「先代の主様ってもうなくなっているんだよね。なんで2つに別れてるの?」

私の質問に結は困った顔をした。

「それはわからない。でも、今の主様が気に入らない精霊が北妖になるかな。先代のときから重臣をやってる精霊とかも多いかもね。主様の意見によく反対するから私は苦手なんだよね」

話のニュアンス的に結のお父さんは南妖なんだなと察した。しかし2つの派閥が対峙することでより良い提案が生まれてくるらしい。どちらもただ、賛成、反対だけでなく、根拠とした資料を提示してくる。主様はそれを見て、新たな政策をたてる。議論して少しずつ変えていくことで、国民が住みやすい街にしていっているという。お父さんの受けうりと結は微笑んだ。重臣も大変なんだな。話を聞いてて感じた。

「まあ、怜華が主様の元でよかったかも」

「どうして?」

ちらっと結を見た。

「主様は中立だから。この派閥どうしってなかが悪い。だからもし、北妖についてたら、なかなか会えなくなってたと思うよ」

「そうなんだ。それは嫌だね」

私は呟いた。中立ということは、片方に肩入れしないということなのでは。ふと頭をよぎったしかし、すぐにいなくなった。結はにこっと微笑んだ。主様を選んでよかった。そう思った。

「これからは、会議の数が増えてくるだろうから、書類が増えるよ。私は地方まわらないと」

結はため息をついた。冬のこの時期は忙しいらしい。派閥に属する助け人は資料を集めに国中をめぐる。精霊たちに話を聞いたり、図書で資料を探したりして、議論に役立てるという。主様の机の上にたくさん置いてある資料。あれでも多いと感じるのにそれ以上に増えるのか。大変だ。苦笑いをした。

 学校の校門が見えてきた。先生が立って挨拶しているのが見える。

「とりあえず、ここまでかな。まあ、主様からもいろいろ説明してもらうといいよ」

結が頷く。

「ありがとう。お互い頑張ろう」

ガッツポーズをして結を見た。結も微笑み、ガッツポーズをして

「そうだね。頑張ろう」

と言った。私たちはそれぞれの教室に向かっていった。

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