終了日のサプライズ
気がつくと月日は流れ、半年がたっていた。今日は学びが終わる日である。明日からは1人で助け人の仕事を行い、重臣の手伝いもできるようになる。
空界で目覚めると、机の上に紙が置いてあった。
"おめでとうございます。正装の新品を追加したので、それをきてください。集合場所は聖夜堂です。重臣の詳細も送りましたのでご確認ください。"
2枚目には、重臣の名前と志が書いてあった。読み終えると、クローゼットのなかを見た。確かに新品な服があった。それを取り出し着替えた。聖夜堂は、名前をもらった場所だ。あの時以来、行っていない。場所わかるかな?そう思いながら、支度をして部屋をでた。
聖夜堂に向かっていると、結とオルさんがこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。珍しい組み合わせだな。そう思いながら手を振ると、結も気がついて手を振り替えしてくれた。
「どうしたの?2人して」
「今日、終了日でしょ。だから会いに来たの。そしたら、オルさんにあって」
と結が言った。授業が終わる日を終了日というらしい。オルさんをみると
「私も同じじゃ」
とにこにこしながら頷いていた。
「ありがとう」
私は微笑んだ。3人で聖夜堂に向かった。
聖夜堂の前に行くと、若い女性がいた。黒い服を着ている。シスターのようにみえた。
「翡夜さんですね。中にお入りください。お連れの方はこちらへお待ちください」
とお辞儀した。中にはでる人しか入れないらしい。結たちに手を振りながら、入っていった。
中にはロウじいさんと男性がいた。私は軽く会釈して近づいていく。前に立つと、ロウじいさんは巻物を開いた。
『翡夜殿。
上の者は精霊のことを学び、精霊に対しての慈しみと尊さを育まれた。これを証し、1人前の助け人として認める。より一層、精霊を第一に考え動くように』
読み終えると巻物を閉じ、隣にいた男性が持っている風呂敷に手を伸ばす。すると
「主様のおなーり」
と声が聞こえた。私は驚いた。それはロウじいさんたちもそうらしい。少し慌てた後、片膝を床につき頭を下げた。私も同じ体勢をとった。誰かが入ってくる気配がした。下を向いているからわからないが主様だろう。とことこと音がして、視界に2本の足がみえた。そこから、4本足になり白い毛並みに変わった。小さい花に覆われている足が見える。あれ、どこがで見たことがある。軽く顔をあげると、そこにはオルさんがいた。なぜここに。私はびっくりして固まった。その顔を見てオルさんは満足そうだった。
「主様。どうしてこんなところに」
同じ体勢のまま、ロウじいさんは声をかけた。主様って、まさかオルさんが。ということは、この方がお父様。信じられない。自然と頭のなかに、お父様とでてきた。自分自身がお父様とお母様を受け入れていたことを改めて感じた。主様は精霊の姿から老人に変わり私のほうを見て微笑んだ。老人といっても、しっかりとした体つきをしている。白髪と白ひげだが、かっこよく感じる。イケオジというものだろう。オルさん。いや、主様は唇に指をあてた。秘密にしてくれ。そう言うことだろう。
「皆のもの。立ちなさい」
主様に言われて、私たちは顔を上げ立った。声が精霊の姿のときよりも心なしか高い気がする。
「今日、終了日だと聞いてな。来てみたのだ。私が渡そう。それでもよいか?」
ロウじいさんのほうを見た。
「はい。仰せのままに」
ロウじいさんはお辞儀して場所をかわった。主様は私の前にたち、巻物と風呂敷を受け取った。
「翡夜さん」
主様は名前を呼んだ。私は返事をする。
「これからも精霊のために頑張ってくれ」
そう言って、風呂敷と巻物を差し出した。
「はい」
私は受け取り、頭を下げた。すると、主様が近寄ってきて耳元で
「これが終わったら、紀夜さんと王城の庭園にきなさい。いいね」
と周りには聞こえない声の大きさで言った。私はうんうんと強く頷く。断れるわけがない。
「では、わしは戻るゆえ。邪魔をしたな」
背を向け歩いて行ってしまった。驚きすぎて胸がいまだにどきどきしていた。それからロウじいさんが話をしていたが、さっきの衝撃が強すぎて半分以上うわの空だった。
聖夜堂からでると、ものすごい勢いで結が駆け寄ってきた。
「オルさんが。オルさんが、主様だった!!」
オルさんは結にも話したらしい。
「そうだね。驚きすぎて、頭がぼーっとしてるよ」
「怜華が入ってからオルさんが人型になって話したんだ。最初は冗談かと思ったんだけど、主様が持ってる札を見せられたら信じざるおえなくなって」
結は人型の主様とは面識がある。そのため、姿が変わったとき主様だとは気づいたらしい。しかし、信じられなかったため証拠を見たいと言ったという。声の高さが違っていて、精霊の姿では主様だとわからなかったらしい。主様が持っていた札は主様という地位を現すものだという。結は興奮して話してくれた。私も結の話を聞きながら頷いた。
「これもらったんだけど」
風呂敷を見せる。
「ああ、これ上着が入っているんだ。といっても、ここは気温が変わらないから使わないんだけどね。私は部屋にしまってある」
と苦笑いをした。上着は授業が終わったときに渡されるらしい。翡翠色の上着の一部が風呂敷の結び目の隙間からチラッとみえた。
「ねぇ、これからご飯でも食べに行かない?」
結の誘いにのろうとしたが、主様との会話を思い出した。
「そういえば、主様に結と一緒に庭園にくるようにいわれてたんだ」
「え、なんで?」
結の疑問に私はわからないと首を横にふった。
「なんか怖いね」
結は苦笑いした。私も頷く。部屋に荷物を置いて、庭園に向かった。
庭園は王城でてすぐのところにある。この庭園はツツジやバラ、桜などを中心に植えられている。タイルが敷き詰められた道の両端をきれいに剪定された植物たちが並んでいた。私たちは庭園の中央にある大きな桜の木の下で待った。ここは丘になっていて庭園を見渡すことができる。空界には季節というものがないのか、私が空界にきたときからずっと桜の花が咲きほこっている。
「王城内の植物たちは、ずっと花が咲いているの。ちゃんと成長してて、伸びたら切ったりもしてる。花びらも落ちるけど一週間たったら元にもどるんだ。再生を繰り返しているらしい」
ずっと桜を見ていたら結が教えてくれた。
それから、少し待つと主様がやってきた。精霊の姿でとことこと歩いてくる。見慣れている姿だと間違えてオルさんと呼びそうになる。私たちは片膝をつき、頭を下げた。
「やめてくれ。わしと君たちは友達じゃないか。精霊の姿でいるときは今まで通りに接してくれんか」
主様は慌てて近寄ってきた。私のなかではオルさんとは普通に知り合いだと思っていた。いつの間に友達になったんだろう。結も思ったらしく、きょとんとしていた。
「今までのご無礼どうかお許しください。友達とおしゃっていただき嬉しいのですが、主様と知ってしまった以上、礼をつくさなければなりません」
慣れていない私に変わって結が言った。主様は少し考えたあと
「わかった。これは命令じゃ。この姿のときはいつもと変わらず接するように。ほら、顔を上げんか」
私たちの視界にチラチラはいりながら、様子をうかがってくる。そう言われたら、応じるしかない。諦めて私たちは立ち上がった。
「すまんかった」
今度は主様。いや、オルさんが頭を下げた。
「主というのを黙っていたのは、はずかしかったからだ。主というものが地界で迷子になってるとはいえんじゃろう」
「だから身分を偽った」
悲しそうな様子でオルさんは頷く。しっぽがたれさがり、怒られた後の子犬のように思えてきた。
「いいんです。別に気にしていません。ね、結」
私はしゃがんでオルさんの目を見たあとに、結に視線を送った。
「そうですよ。気にしていません。だからオルさんも顔をあげてください」
オルさんは何回か謝り、顔を上げた。
「オルさん。ご用はこれだけですか?」
結が聞いた。オルさんはなにかを思い出したのか、はっとした顔をした。
「そうだ。忘れておった。お二人に提案があるんじゃが、わしの元で助け人をやらんか?」
急な提案に頭の整理が追い付かなくなってきた。助け人は重臣の元でしか働けないのではと思ったがそうではないらしい。王族から指名されれば、その元で働けるという。どうしよう。まだ、どの重臣につくか決めていない。だけど、自分が娘だということを隠してやってもいいものなのか。国を背負う主様の手伝いをしていいものなのか。興味はあるが、もやもやしていた。
「私はお断りさせていただきます」
私が悩んでいると、結がオルさんをまっすぐ見て言った。
「そうだと思った。紀夜殿はお父上の元におるからな。翡夜殿はどうじゃ?」
私は悩んで
「考えさせてください」
と答えた。オルさんは頷く。結は驚いたようだった。
「では、私は公務に戻るとするか。じゃあな」
と行ってしまった。
「断るかと思ってた」
オルさんの姿が遠くになってから結がつぶやく。
「そうだね」
私は微笑んだ。私自身、主様の娘だと知らなければ断っていたかもしれない。だが、知っている以上、一緒に仕事をしてみたいという気持ちが芽生えていた。だけど、この判断をどうするか自分だけでは決めづらかった。やはり相談しよう。
「結、ごめん。私、用事思い出した」
はっとして結につげる。結は残念そうに
「そうなんだ。一緒にご飯行こうと思ってたけど、また今度ね」
と言った。私はお礼を言って急いでお母様の家に向かった。
ノックをすると、ミョンイさんがでてきた。
「こんにちは」
私は笑顔で頭を下げた。
「翡翠夜さん。いらっしゃいですにゃ。妃主様はお部屋におりますにゃ」
と招いてくれた。お礼を言って中に入り、部屋に向かった。
トントントン
ノックをすると中から声が聞こえてた。
「失礼します」
中に入ると、お母様は起きて本を読んでいた。近くにきた気配がしたのか読んでいた本を閉じ、顔を上げた。
「いらっしゃい。終了日おめでとう」
そう言って、枕元にあった袋に手を伸ばし、私に渡した。
「ありがとう」
受け取り、にこっと笑った。袋の中には、お菓子の絵がかかれた箱が入っていた。お母様は私の顔を見て
「なにか悩み事?よかったら話聞くわよ」
と聞いてきた。お母様はよく、私のことを見ては思ってることを当ててくる。そんなにわかりやすいのかな。普通に接しているはずなのに見抜かれているので、ドキッとした。
私は近くの椅子に座り、主様のことを話した。一通り話すと、お母様は笑っていた。
「ふふふ。まさか、私と会ったときと同じなんて驚いたわ」
お母様と主様が初めてあったときも、主様は身分を偽っていたという。お母様は懐かしそうに、遠くを見つめた。
「主様と一緒にやってみたらどう?」
お母様は切り替えて、私を見た。
「いいのかな?私が主様の手伝いをして」
「娘だから、ばれたときに迷惑がかかるとも思ってる?」
私は頷く。
「それもそうなんだけど、何もできない私なんかが主様の手伝いしていいのかなって。足手まといになる気がする」
すると、お母様は微笑んだ。
「誰もが最初はそんなものよ。私だって急にこっちにきて国の母になったのよ。決断することはたくさんあって、失敗もたくさんした。大事なのはその後どうするか。初めてなんだから、足手まといになるのは当然。突き進んでみなさい。もし、身分のことで問題があった時は、私がなんとかするわ」
「わかりました。ありがとう」
私は姿勢をただし頷いた。お母様のおかげでどうするか決心がついた。この日はお昼までお母様の家にいた。




