ゆったりした休日
「なんというか。怜華さんも結さんもお人好しですね」
イリスさんが呆れたように言った。紗夜さんの判決が決まったあと、私と結は交代で貧しい精霊にお弁当を届けている。紗夜さんに頼まれたわけではなく、2人で決めたことだった。
「そういえばね、ユミルさんのお子さんのことなんだけど」
ユミルさんは紗夜さんの判決が終わった後に捕まった。どうやら、旦那さんのことにも関わっていたらしい。ユミルさんが捕まったことで、子供たちが取り残されてしまっていたので心配していた。子供たちには非はないため、気にかけるのは当然のことだった。
「空界の施設に預けられたんだって」
「ほんとうですか。安心しました」
毒の制御がまだできるまで、空界に預けられるそうだ。イリスさんもほっとしたようだ。
「次が最後ですね」
話ながら歩いていると、目的の場所に着いた。河川敷の橋の下、雑草が腰の高さまで生えている所をかき分けて進んでいくと、雑草で作られた小さな家にたどり着いた。雑草を編んだドーム状の家がいくつか作られている。
「お弁当を届けに来ました」
すると、中からたくさんの子供や大人の精霊がでてきた。容姿が違っていて、いろんな種類の精霊がいる。
「翡夜さんだ」
「今日はなに持ってきたの?」
「イリスさんもいる」
「早く食べたいよ」
わいわいとお弁当に群がりはじめた。
「これ、お前たちやめんか」
奥から、年老いた精霊がでてきた。この方はジュンさんと言って、いわばここの長だ。身寄りのなかったりや貧しい精霊を束ねている。
「翡夜さん。イリスさん。今日もありがとうございます」
「いえいえ。どうぞ。たくさん持ってきました」
ジュンさんの近くにいた精霊がお弁当を受け取り、子供達の前で開け始める。イリスさんもそっちに行き、手伝い始めた。私も行こうとすると、その風景を見ながらジュンさんがいった。
「すみません。忙しいでしょうに。こんな、私たちまで気を使ってくださって、本当。どう感謝をすれば」
「いいのです。紗夜さんと比べるとあまり力になれていないですが。私も結もイリスさんも、少しでもお役にたてればと思ってやっています。気にしないでください」
と言って、にこっと笑った。ジュンさんは、頭を下げる。
「ほら、ジュンさんも食べましょう」
しんみりした空気を振り払うように私は言った。ジュンさんはみんなのほうにゆっくりと歩いて行った。
「なにか欲しいものとかありますか?」
ジュンさんが食べてる隣でしゃがんで聞いた。もうすぐ寒くなる。この冬を乗り越えられるように結と手分けして、精霊達に聞いているのだった。
「そうですね。カイロや毛布ですかね」
私は頷きメモした。空界は年中同じ気温なので、寒さや暑さに慣れてない精霊もいるらしい。今年の冬は温かく過ごしてほしいな。そう思うのだった。
子供の精霊に惜しまれながら、私達はそこを離れた。
「みんな元気だったね」
「そうですね」
イリスさんもつぶやいた。
家へ戻る道を歩いていると
「あの、助け人というかたたちですか」
後ろから声をかけられた。私たちは立ち止まる。振り向くとそこには男の子がいた。小学生ぐらいだろう。なぜ知ってるんだろう。そう思いながら男の子の腕を見ると、精霊がいた。全身緑色で毛糸を丸めたような形をしている。ひし形状の手を動かして苦しそうにしていた。どうやら怪我をしているらしい。
「この子を助けてください。僕の友達なんです」
と言う。私とイリスさんはその精霊にかけより傷をみる。
「イリスさん。ここ」
私は指をさした。そこには小さなトゲのようなものが刺さっていた。
「この子、預かるね」
男の子は頷いた。私は精霊を預かり近くにあった椅子に優しく置く。イリスさんはバックから消毒薬と、ピンセットを取り出し、トゲを抜いた。それから包帯をだして、傷の部分を巻いた。
「よし、これで大丈夫です」
イリスさんは精霊をなでた。男の子は精霊を抱き上げて
「ありがとうございます」
とお礼を言った。その後、もぞもぞして
「あの、僕も、助け人になれますか?」
と聞いてきた。
「それはあなた次第でもあるし、決める精霊次第でもあります」
とイリスさんが言う。男の子は少し落ち込んだように見えた。
「君は精霊が好き?」
私がそう聞くと男の子は頷き
「好きだよ」
と答えてくれた。
「じゃあ、いつかなれるかもね。精霊のことを大切に思わないと、助け人にはなれないよ」
「わかった。大切にするよ。ありがとう。助け人のお姉さん達」
男の子は微笑み走っていってしまった。その姿を見ながら、名前聞き忘れたな。そう思った。
「怜華さん。あまり、期待を持たせないでください」
イリスさんに注意された。
「ごめんなさい。だけど、1人でもあやかしを大切にする子が増えてほしいいんです」
と私は言った。イリスさんはなにも言わずただ、男の子の後ろ姿をみていた。
翌日、結から連絡がきた。
『今日、空界で遊ばない?落ち着いたから、羽を伸ばしたい』
確かに今まで、いろいろなことがあったからゆっくりしていなかったかもしれない。授業も後半にさしかかり、休みの日が多くなっていた。
『いいよ』
すぐに返事をした。
王城の前で待っていると、結がきた。
「お待たせ」
手を振って向かってきたので、私も振りかえす。
「今日はどこ行くの?」
私が聞くと
「デパート」
とにこっとして微笑んだ。デパートは商店街をまっすぐぬけたところにある。植物に囲まれた建物で精霊の国の中で一番高いという。私もたまに視界にはいっていた。窓以外植物に覆われていたため、オブジェだと思っていた。
中に入ると、正面に案内所とかかれたカウンターがあり、両側にお店がずらりと並んでいる。中央は吹き抜けになっており、上の天井が見えた。食べ物屋さんから雑貨、娯楽までそろっているらしい。
私たちはいろんなお店に入った。デパートというだけあって、商品の種類が多く、値段も高い。見てはでてを繰り返した。アクセサリーショップに入りネックレスの棚を眺めていると、結が近寄ってきた。
「怜華、ネックレス好きそうだね」
「なんで?」
私が聞くと
「だって、こういうお店入るとネックレス必ず見てるし。それに向こうでもつけてるじゃん」
それを聞いて私は驚いた。
「気づいてたの?」
結は頷く。お父さんにもらったネックレスをたまにつけている。ただ、服の中にいれているので知らないと思っていた。
「紐が首から見えていたからね。大切なものなんだなと思ってた」
と微笑んでいた。
「気に入ってるから、なかなか服の外にはだせないんだよね」
私も微笑みかえした。
「ねぇ、お揃いで買わない?」
結が提案してきた。良いかもしれない。私は笑顔で頷いた。このお店にはお花を模したアクセサリーが売っている。
「なにがいいとかある?」
私は少し考え
「結が決めていいよ」
と答えた。結はいろいろ見たあと
「これ」
と手に取った。それは黄色の花のヘアゴムだった。タグにミモザと書いてある。名前は知っていたが、初めて見た。ゴムには透明な楕円形の飾りがついており、中にミモザの花と葉が入っている。ゴム自体にもミモザの絵が描かれていた。小さい黄色い花がたくさんあって可愛く思えた。
「いいね。それにしよう」
私もミモザのヘアゴムを手に取り、結に見せた。
お店をでて私たちはさっそく髪を結んだ。お互いつけたのを見て微笑んだ。結が着ているピンクの服に黄色のミモザのヘアゴムは似合っていた。
「それじゃ、行こうか」
結は目をそらし、次のお店に行こうとせかした。
洋服を見たり、書店に立ち寄ったりしながらまったりと過ごした。ずっと立っていたので一番上の階につくころには足がつかれていた。
そのため、足湯カフェで私たちは休憩にした。足元に薬草の成分が入ったお湯が流れていて、水面には薬草の花や葉が浮かんでいた。その他にも、微弱の電気が流れる足湯や暖かい砂に足をいれる砂湯、足つぼマッサージなどがあった。
「お待たせしました。おまかせスムージー2つです」
店員さんが頼んだものを持ってきてくれた。お礼を言って受け取る。スムージーはオレンジ色と緑色の2層になっていた。
「まさか、2層でくるなんて」
驚いた様子で結が言った。私も頷く。 メニューにはそんなこと一切書いていなかった。混ぜるとなんともいえない色になりそうな予感がした。そもそも、混ぜて美味しいものなのか。ストローをくわえ、上にあるオレンジ色のスムージーを飲んだ。マンゴー味主体でいろいろ入っているように感じる。下の層を飲む。こっちは野菜主体に入っている。意外と行けるのでは。試しに少しだけ混ぜて飲んでみた。ナタデココのようなものも入っていることに気づいた。美味しい。混ぜたせいで色はなんともいえないが、見た目とは裏腹に美味しかった。
「美味しい。おまかせすごいな」
「そうだね。空界ってこういうの結構あるんだよ。見た目はなんとも言えないのに、味が美味しいってやつ。まあ、その逆もあるんだけどね」
と苦笑いしながら結が教えてくれた。おまかせ。次来たときもこれにしてみようとひそかに思った。
時間がくるまで私たちはゆっくり過ごした。




