友だからこそ
次の日、空界に行くと警察官に呼び止められた。警察官は透明な袋を見せる。中には布で作られた星形のストラップが入ってた。遺留品?だろうか。
「これに心当たりありますか?」
私は首を横に振った。
「これがどうかしたのですか?」
気になって聞いてみた。警察官は袋をしまいながら
「胃の中から見つかったんです。犯人のものだと思います」
と言った。そうなんだ。大きな情報を聞いた。心のなかでガッツポーズをする。
今日は空界の授業が休みだ。私の部屋に結を招き入れ、事件の整理をした。私は警察に聞かれたことを話し、紙に星の絵を書いて見せる。それを見たとき、結が動揺したように思えた。そして、なにかを考えるかのように、一点を見つめた。
「結?」
私が声をかけると、我に返ったのか顔をあげた。
「ああ、ごめん」
「なにかあった?」
顔をみた。結は少し間をとってつぶやいた。
「それがね。星を持ってる人。私、知ってる気がする」
「え...」
驚いていると、結は訂正するように
「確信はない。あの人が持ってるとこを見たのは1回だし、お腹の中からでてきたのがそれだと」
下を向きながら首をふった。しかし、すぐにまっすぐ私を見た。
「ねえ、地界に戻ったら集まっていい?確かめたいことがあるんだけど」
そう言われ頷いた。私はひっかかっていた。結が言った"あの人"という言葉。精霊もたまに人という言葉で表されるが、こんなときにややこしい言葉は使わないだろう。ということは人間の可能性があるということだった。それに気づいたとき、私は結に詳しい事を聞くことができなかった。
地界に戻ると、すぐさま支度をして1階に降りた。リビングに入ると、イリスさんがご飯を作ってた。まだ、休日の7時すぎだというのに早起きだ。
「おはよう」
声をかける。
「おはようございます。お早いですね」
手を止めこちらを向いた。
「今から結にあってくるから、よろしく」
と言って、急いで玄関に向かった。
「いってきます」
「あ....」
イリスさんが何かを言おうとしていたが、その声は私の挨拶に消しさられてしまった。
お店の前で落ち合い、結にいくほうに着いていった。その間、結はどこに行くとも言わず、会話をしながら歩いていった。
長く歩くと、花に囲まれた家にたどり着いた。
「ここは」
ここは、紗夜さんのお店だ。紗夜さんは結と同期で、ここで精霊のためのお店をしている。私ははっとして結に声をかける。
「結、もしかして」
結は頷いた。
「紗夜がね。持っていたかもしれないの」
だから、動揺してたのか。納得した。その真意を結は自ら確認しようとしていた。
「怖くないの?だって」
"犯人だったら"とは言えなかった。それでも結は頷く。
「紗夜はそんなことはしないと信じてるから。だけど、なにかもやもやしている。このもやもやをほっとくことはできない」
結の意思は固かった。私はわかったと頷いた。
お店の看板にcloss と書かれている。
トントントン
結がノックをするが、返事はなかった。留守なのかな。そう思いながら、ドアノブを回すとカチャリと音がして開いた。私たちは顔を見合わせる。
「失礼します」
そう言って入る。お店は薄暗かったが、この前紗夜さんがいた奥の部屋から光が漏れていた。私たちは奥の部屋に入った。ここは作業場なのだろう。大きな机があって、機材や書類が置かれていた。しかし、紗夜さんはここにはいなかった。机の上にある書類に目を通す。そして、あるものに目が止まった。
「結!!」
私はそれを指差した。棚を見ていた結が私の指の先にあるそれ見る。
そこには『紀夜様』と書かれた封筒が置いてあった。結は急いで手に取り、封筒を開けた。中には手紙が入っている。結は私にも手紙を見せてくれた。
『この手紙に読んでいるということは、あの事を聞きにきたのかな?何も知らずにきたら申し訳ないな。きっと、ストラップの事を聞きにきたのよね。
あやかしが持っていたであろう星のストラップは私のよ。そして、私が殺したの』
字が震えている。私たちは息をのんだ。先を読み進める。
『林の中に遺体を置いて地界に戻ったあと、服につけてたストラップがなくなっていることに気づいたの。布で作られた星は私を意味する。ばれてしまうと急いで戻った。だけど、草原にはあなたたちがいた。諦めて帰ってきてしまったわ。
数時間前に精霊警察が来た。まさか胃の中から見つかったなんて思ってもなかった。知らないと言ったけど、時間の問題ね。捕まってしまうと、きっと重い罪になる。助け人が精霊を殺してしまったんだもの。精霊国での重罪刑、なにかわかるわよね。それは嫌だ。だけど、せめてもの償いは自分でするから。紀夜、ごめんね。今までありがとう』
「紀夜、死ぬ気だ」
読み終えた結がつぶやく。私も頷いた。重罪刑は空界の牢屋に入れられ、死んだあともでることはない。意識は存在するため、永遠という時間の中にただ一人取り残される。確かにこの刑は嫌だろう。だけど
「止めないと」
私は言う。手紙を持ってる結の手は震えていた。
「本当に紗夜がしたのかな。でも、これが事実だった時、捕まったら罪が重くなる。そんなの私は見たくない」
「だけど、このままじゃ」
「このままじゃ?なに?紗夜は私の友達なの。簡単に言わないで」
そう言い放つ。
「結。信じてるんでしょ。紗夜さんのこと」
まっすぐ結を見る。
「ちょっと風に当たってくる」
そう言って、お店の外にでていった。私はお店のなかで結を待った。友達だからこそ。止めてほしい。手紙が見つかったが紗夜さんが犯人だとは思いがたかった。精霊が困らないように造られたこのお店は、精霊のことを心から考えていないとできないことだった。だから、紗夜さんから話を聞くべきだ。私はそう思っている。でも、もし私の周りでそんなことがおこったらたとえ信じていても迷うかもしれない。なにが良いのかわからなくなった。
少したつと結が戻ってきた。
「行かないといけないのはわかってる。わかってるから」
少しの沈黙あと結が口を開いた。私は頷く。
「私は紗夜を信じてる。精霊を殺してないって。それにこのまま会えなくなるのは嫌だ。紗夜に直接会って確かめたい」
結がまっすぐ向いて言った。真剣な目をしている。
「わかった」
しっかりと頷いた。
「紗夜さんが行きそうなところない?」
結は考え込んだ。数分経って
「廃校。扉があるところ」
私たちは走って廃校に向かった。廃校は結と紗夜さんの思い出の場所らしい。
廃校は相変わらず薄暗い。不気味な雰囲気をかもしだしていた。体育館を探したが誰もいなかった。
私たちは校舎に入ることにした。この学校は広い。2人で探すのは大変そうだ。もし、ここで見つけれなかった場合、時間の無駄になる。私たちは校舎の前で立っていると
「怜華さん」
声が聞こえた。この声はイリスさんだ。私たちは驚く。
「どうしてここに」
「気配を追って。今日、1日ご両親帰って来ないそうです。ご飯なににしますか?朝、言いそびれてしまったんですけど」
呑気な質問が返ってきた。わざわざ、聞きにきたのだろう。朝、言いかけてたのはこの事だったらしい。
「今、それどころじゃなくて」
そう言ったとき、案が浮かんだ。
「イリスさんって、人の気配わかるんだよね。この廃校に結の友達がいるらしいんだけど、どこにいるか探してくれない?」
と、頼んだ。イリスさんなら遠くからでも場所を特定することができるはずだと思った。
「怜華さんだから、気配を見つけやすかったのもありますけど。やってみます」
イリスさんは学校の玄関の前に立ち、両手を広げた。
「見つけてくれるよ。待とう」
結を元気付けるように声をかけた。
少しすると、イリスさんが戻ってきた。
「どうだった?」
結が聞く。
「2階の教室です。あの、早く行ってあげた方が良いと思います...」
イリスさんは人が思ってることをよむことができる。そのため、何か感じてしまったのだろう。その言葉を聞くと結は走りだした。
「ありがとう。先に帰ってて」
そう、イリスさんに伝え、結を追いかけた。
2階に上がり、教室の前に着いた。扉を開けようとするが開かない。鍵がかかっているようだ。ドアについてる小窓からなかを見ようとしたが、ものが多く奥まで見えなかった。教室というよりは、物置小屋のように思える。どうしよう。2人で困っていると
「なにか、お困りですか?」
声が聞こえた。振り向くと、イリスさんがそこにいた。
「イリスさん。どうして?」
「お二人のお役にたちたくて。どうやら扉が開かないようですね」
と、イリスさんは扉の前に立ち、2本の細長い棒を取り出し、鍵穴に入れた。
カチャカチャ
棒を器用に動かす。
ガチャ
重い音がした。イリスさんは何回か頷き、棒をしまった。
「開きました」
私たちは驚いた。
「どうして、できるんですか?」
結が不思議そうに聞く。
「そんなことはいいじゃないですか」
微笑みながら扉を開けた。誤魔化された。でも、聞いてる暇もない。
「ありがとう」
私たちは扉の前にあった荷物をどかしながら、すすんだ。
「紗夜!!」
結が先に進みながら大声で名前を呼ぶ。教室の奥に足を踏み込んだとき、結の足が止まった。私の前には大きな棚があり、結の見ている先になにがあるのかわからない。
「結?」
私が声をかけるが、立ち尽くしたままだ。嫌な予感がして結の方に進んで見る。
それは紗夜さんだった。天井からつり下げた紐に首がとおっていて、手足がぷらぷらと垂れ下がっている。足元には椅子が倒れていた。どうしよう。動こうとしても体が動かない。初めてこんな光景を見て動揺していた。すると、後ろからイリスさんが歩いてきた。この光景を見て驚いたものの、冷静に近づき、足に触れる。
「まだ、間に合います。下ろすので手伝ってください。2人とも大丈夫ですか?」
イリスさんが私たちに声をかける。よかった。しっかりと気を持ち直し、結と一緒にかけよった。
紐をはずし、慎重に床に寝かせる。救急車を呼び、結が紗夜さんに声をかける。
「紗夜。大丈夫?わかる?」
反応がなかった。脈を確認するが触れることはできない。
「私はAED 探してきます。2人は胸骨圧迫をしててください」
イリスさんはそう指示すると、外にでていった。
助かってほしい。その一心で処置を行う。結と交代で胸を一定のスピードで押していると、イリスさんがAEDを持ってきた。電極を張り付け、電気を流した。紗夜さんの体が揺れる。2回目のショックが必要か勝手に解析を進められる。
"電気ショックの必要はありません"
そう、音声が流れ安心した。
救急車が到着し、3人で付き添った。
「処置が適切だったおかげで、命に別状なさそうです」
救急隊員が声をかけてくれる。紗夜さんの顔を見た。眠ったままだが、さっきよりも血色が良くなっている。私たちはほっとした。




