怜華への客人
空界に行き部屋でのんびりしていると、ドアをノックする音が聞こえた。返事をしてドアを開ける。そこには楓さんがいた。
「こんにちは」
「楓さん。どうしました?」
楓さんは私をじっと見て
「来ていただきたいところがあります。お時間よろしいですか?」
授業までまだ時間がある。私は頷いた。
部屋をでて楓さんについていく。細い道を通り、質素だけど大きな家にたどりついた。楓さんがチャイムをならす。すると、メイド服を来た猫がでてきた。後ろ足で立っている。精霊かと思ったら、幽霊らしい。
「楓様。お待ちしておりましたにゃ」
とお辞儀する。語尾も猫だった。
「この子は家政婦でミョンイといいます」
楓さんが教えてくれた。この家の主が飼っていた猫だという。私もお辞儀した。楓さんは家の中に入っていく。私も後ろからついていった。2階に上がり、ドアの前で止まった。
「ここに、彼方に会いたがってる人がいます」
入るように促す。ノックをすると、声が聞こえてきた。部屋に入ると、そこには1人の女性がベットの上に座っていた。その女性に近づいていく。そこにいたのは、空界で小さい頃に見たお母さんだった。魂の記憶として刻まれた思い出が浮きでてきた。自然に涙が頬をつたう。
「ヨンファ。ヨンファなのね」
お母さんも泣いていた。ヨンファ。そうだ。そう呼ばれていた。お母さんは細い手をさしだした。私はその手をとる。
「ごめんなさい。今までなにもしてあげられなくて。楓さんにあなたが生きていることを聞いたわ。本当は口止めされてるって言っていたのだけど、私が無理を言って今までのこと教えてもらったの」
私は大丈夫だと、首を横にふった。
「体調は大丈夫ですか?」
お母さんと直接言うのは、むず痒くて言えなかった。
「ええ、あなたの顔を見たら元気になったわ」
と微笑んだ。
「そういえば、今の名前はなんて言うの?」
「怜華です」
何回か呟き、頷く。
「じゃあ、私も怜華って呼んでいいかしら?」
楽しそうに言う。私は頷いた。
近くにあった椅子に座り、2人で話した。地界のこと、助け人のこと。たくさん話した。お母さんはにこにこしながら、私の話しを聞いていた。こうやって話していると、若いように思える。そう、お母さんは白髪、しわ1つなくて奇麗だった。
話しをしていると、お母さんが咳き込み始めた。私は背中をさする。さすって気づいたのだが、とても痩せていた。背中の骨がうきでてがたがたしている。少しすると、ノックした音が聞こえ、ミョンイさんが入ってきた。薬と水を差しだす。お母さんはそれを飲んだ。
「私。今、こんな体調なの。そろそろ授業よね。いってらっしゃい」
時計を見ていった。
「わかりました。体調に気をつけて。行ってきます」
頭を下げ、部屋をあとにした。家をでると楓さんが待っていた。
「母に合わせてくださり、ありがとうございます」
お礼を言う。
「こちらこそ、話してしまってすみません。これからもここにきてくださいませんか?妃主様も喜ぶでしょう」
「はい」
と微笑んだ。"妃主様"は母の呼び名らしい。
教室に入り椅子に座ると、モブじいさんが入ってきた。
今日の授業は病気や精霊のこと。今までの復習をした。
「助け人には、ここにいられる時間が決まっていますよね。なぜだろうと疑問に思ったことありませんか」
モブじいさんが質問してきた。助け人が空界にいられるのは、夜から朝の6時まで。それ以降にいる場合は届け出をださないといけないらしい。なぜなのか、気になってはいた。私は頷く。
「空界には人間だけがなる病気が存在します。その病気の名前は空界病です」
空界病は人間が空界に長くとどまるとなる病気だという。地界と空界は流れる時間が違うため、人間の魂がダメージを受けてしまう。最大半日までなら問題ないが、1日ずっとこちらにとどまるとこの病気の発病率が高くなってしまう。発病すると空界に行くことは禁止される。空界にいると、病気が進行してしまうからだ。空界病には治療法はない。なので進行を止めるためには空界に行かないようにするしかなかった。症状は肉体に現れる。症状も様々だ。咳、食欲低下から臓器障害など命に関わるものまである。数日で悪化してしまう人や何年も生きる人もいるらしい。理由があったとは。怖いな。そう思った。
その後、道具が配られた。前に使った電話と位置がわかる板や治療セット。精霊の気配をつかめる腕時計など使い方を教えてもらった。
「空祭扉の使い方、説明しときますね」
一通り道具の使い方を説明したあと、モブじいさんは言った。冊子をめくると、絵つきで書いてあった。扉に手を当て、開けと念じる。念じ続けると扉があく。というものだった。少し練習して今日の授業が終わった。
空界に来てからもうすぐ半年。だんだん、授業自体が終わりに近づいてきていた。
王城をでると結がいた。手を振っている。私は結のところに駆けよった。
「どうしてここに」
「空界に用事あったからね。ついでに怜華に会おうと思って」
終わるまで待っていたらしい。
「用事は終わった?」
「今から行くところ。よかったら、一緒に行かない?」
と聞いてきた。私は微笑んで
「それ、最初から私と一緒に行くつもりでしょ」
じっと結を見る。
「そんなことないよ」
そう言って歩きだした。私はクスッと笑ってついていった。
どこに行くのかと思ったら、王城に戻っていった。不思議に思っていると、階段を上っていく。そして重臣がいる階についた。扉の前には相変わらず兵士がいる。
扉の前に行くと、兵士が入らないように制止してきた。結がなにかを取り出し見せる。すると
「どうぞ。お入りください」
と言って扉を開けた。結がついてきてと私の目を見て頷き、入っていく。私、まだ入っては行けないんだけどな。そう思いながら兵士に頭を下げて進んだ。
長い廊下を歩く。右には窓、左には部屋のドアが並んでいた。結は1番奥の部屋の前にたち、ノックをして部屋に入っていく。私は結に手招きされ入った。
結についていきながら部屋の奥に入る。そこには1人の男性がいた。机でなにかを書いている。私たちに気づくと、立ち上がり近づいた。
「君が結の友達の怜華さんかい?」
と聞いてきた。なぜ私の名前を知っているのだろう。それに、結って。私の顔を見て男性は微笑んだ。
「結、何も言わなかったのか」
男性は結を見る。結はにこにこしながら頷いていた。あきれた顔をして
「結が何も説明しなかったみたいですね。私は結の父親です」
一礼して言った。驚いた。でもなぜ、父親もここにいるのだろう。この階にいるということは、結のお父さんは重臣ということになる。
私たちは結のお父さんに促され、それぞれ椅子に座った。
結の家系は幽霊や精霊がみえる人が多く、結とお父さんは幼少期からみえていたらしい。普通は見えない状態から、助け人に任命されると見えるようになる。見える体質の人が助け人になるのは珍しいらしい。見える人自体が少ないからだろう。お父さんも私たちと同じように、助け人をしていた。その縁で結も助け人になったという。
助け人の大半は大学を卒業すると、辞めて仕事に専念するが、結のお父さんは仕事をやりながら助け人をしていたため、主様に認められ重臣になった。結はお父さんの元で依頼をこなしているという。この前の天気の精霊の喧嘩もお父さんに頼まれたことだったらしい。結のお父さんは主様の右腕と言われてるほど重臣の中でも高い地位にいるため、重要な仕事を請けおうこともあるという。納得した。助け人には男性もいるのか。周りには女性ばっかりなので新鮮だった。そんな人が友達で驚いた。人のこと言えないけど。心の中で苦笑した。
話し終えると、結のお父さんは私たちに依頼してきた。依頼内容は精霊の国の外。あの花畑があるところとその奥にある林の清掃だった。いつもは重臣が清掃しているのだが、会議で忙しいため私たちにまわってきたという。明日、結と精霊たちと一緒にやることにした。
挨拶をして部屋をでた。
「お父さんに以前から話してて、会いたいって言ってたから、連れてきたんだ」
結は嬉しそうに。そしてどこかいたずらな笑みを浮かべて言った。
「ありがとう。びっくりしたよ」
いつか私も本当のこと、言えたらいいな。ふとそんなことが頭をよぎった。
結はお父さんの仕事を手伝うと言って、部屋に戻った。私はそれを見送り、王城をでた。




