楓から告げられた真実
「顔をあげてください」
私は楓さんがなにをしているのかわからなかった。しかし、私が言っても楓さんは顔をあげない。
「翡夜さん。実は..」
そう言うと、楓さんは私を見た。とても真剣そうな顔をしている。
「翡夜さんは、主様の娘なのです」
え....突然のことに、頭の思考が停止した。そんなことがあるのだろうか。楓さんはなぜこんなことを言ったのだろう。私は楓さんの次の言葉を待った。
楓さんは私がなぜこの世界にいるのか、その経緯を話してくれた。
主様の娘。私?が生まれたのはおよそ30年前。難産だったらしい。
「母子ともに危険な状態に陥ったのですが、お医者様が手を尽くしてくださりなんとか生まれたのです。お母様はあなたと同じ人間なのです。だから余計に大変だったのでしょう」
引き出しからなにかを取り出し、私の前に置いた。お母様という女性と女の子が写っている。私は写真を持ちよくみた。確かにこの女性は人間だ。女の子に目を移す。これは...。女の子はあの夢で見た顔と同じだった。これが私..?一通り見て写真を置くと楓さんが話を続けた。お母様はこの出産以降、体調が芳しくないため離れで療養されているという。
事が起こったのは、姫が10歳のときだった。主様には姫の他、息子がいる。ヒジャン様と言い、兄だという。本当はヒジャン様が後継者なのだが、その当時主様の器に似合わないと言う重臣がでてきてしまった。
「ヒジャン様は良い精霊ではあると思うのですが、近しい重臣の意見をよく聞く傾向があったり、1度思い込むと突っ走る性格でして好ましく思わないという方たちがでてきたのでしょう」
たんたんと話した。
1年たつと重臣が2つに分離してしまい、内部戦争がおきかけた。主様はヒジャン様を後継者にと思っていたが、そうなった場合、姫はヒジャン様側の重臣に危ない目にあいかねない。主様はそれによって幼い姫が苦しむのを危惧していたという。
主様はどうしたらよいかと楓さんに尋ねた。楓さんは生前、主様の元で助け人をしていたという。その縁で亡くなった後も精霊の国に住んでいる。
「私は若い頃から主様に仕え、身の回りの世話もしていたので話しやすかったのでしょう。王城内は誰が敵か味方かわかりませんから」
懐かしそうに話す。楓さんは話を聞いて、ある提案をした。魂を胎児に移し、人間に育ててもらうのはどうだろうと。作戦は実行され魂を人間の胎児に植え付けた。精霊は気配をキャッチするのが上手いので、こうもしないとどこまでも追いかけてきてしまうという。
「あなたのご両親にはこのことを話しています。最初は信じてもらえませんでしたが、説得をして頼むことができました」
私は驚く。お母さんたちも知ってたんだ。病院の前で精霊を初めて見たとき、なにかしら言ってくれればよかったのに。
楓さんは私が生まれてからのことを話した。初めは何事もなく成長していた。楓さんは幽霊の姿で遠くから見守っていたらしい。しかし、どこで知ったのか、ヒジャン様側の重臣が私を見つけてしまった。
「覚えているでしょう。あのトンネルの事故のことを。あれは重臣が企てたことでした」
楓さんは重臣の調査をしていた精霊になにかを企んでいることを聞き、術を使える精霊を集め急いで守ったということだった。その術は壮大で巻き込まれたすべての人が助かった。誰も死者がでなかったのはこれが理由だった。
この企てに関与した重臣は皆捕らえられ、処罰された。姫が生きているていることを知っているのは楓さんと主様だけらしい。
「あの、主様は私が娘であることを知っているのですか?」
口をはさんだ。楓さんは首を横に振る。
「生きているということは知っていますが、あなたが姫だとは知りません。顔が違うのであったとしても、わからないでしょう。居場所がわかると会いに行きそうですから、伝えませんでした」
「そうだったんですね。話しをずらしてすみません」
楓さんは頷き続けた。
たくさんの精霊が介入したせいである問題が生じた。それは私が精霊を見えてしまったことだった。
「何も知らずに生きていてほしかった。成人になったら会いに行き説明をしたかったのです。しかし、突然見え動揺してる姿を見て、どうせならと助け人として迎え入れることにしました。まあ、こんな感じですね」
と楓さんは長い物語。いや事実を私に聞かせた。私は実感がわかずにいた。心のどこかで精霊に対して親近感は湧いていたが、率直に、言われると他人事のように思える。私、精霊だったんだ。少し嬉しかった。
「私にこの話をしてもよかったのですか?このまま、言わなくてもよかったはずですけど」
楓さんは頷き
「そうですね。でも、昨日会ったとき言わないといけない気がしたんです」
と苦笑いした。
「ちょっと待っててください」
そう言って立ち上がり、奥に行ってしまった。1人になってる間も整理がつかない。ぼーっとしていると、楓さんが戻ってきた。手には風呂敷を持っていて、なにかが入っているのがわかる。それをテーブルに置き
「開けて見てください」
と微笑んだ。私は風呂敷に手を伸ばしほどく。そこに入っていたのは小さい服だった。夢にでてきたのと同じ高貴な服だ。
「これは姫様が幼少期に着ていた服です。手に取って見てみてください」
私は服に触れた。すると、空界で家族と楽しく会話したり、兄と遊んだりした日々の出来事が瞬く間に脳裏に映り、はっきりとした記憶に変わっていった。
気づけば目から涙があふれていた。
「ごめんなさい」
そう言うと、楓さんがハンカチをさしだした。私は受け取り涙をふく。
「大丈夫ですよ」
楓さんは私の背中を優しく撫でてくれた。
「今日はありがとうございました」
心を落ち着かせお礼を言う。
「いえいえ。こちらこそ、姫様に会えてよかったです」
「あの、私が姫と言うことは当分誰にも言わないでもらえますか?もちろん、主様にも」
と頼んだ。親しいヒトたちに伝わってしまうとこの関係が壊れてしまうかもしれない。それを恐れていた。楓さんは驚いたようだった。
「主様に伝え身分を回復しようと思っていたのですが」
「今は助け人に専念したいんです。なので、当分言わないでください。呼び名も接し方も今まで通りにしてください」
と頭を下げた。
「わかりました。翡夜さん」
と頷いてくれた。
楓さんにお礼を言って、薬屋を後にした。歩きながら腕についてるブレスレットを見る。これは私のだったんだ。そう思うと腑に落ちた気がした。




