結の手伝い
月日は流れ5ヶ月が過ぎた。あれから大きな出来事もなく、淡々と生活している。いろんなことを学び、空界について詳しくなった。
慣れてくると、空界に行かないように制御できるようになった。行かない時が1回だけあったが、それ以降は必ず空界に行き、鐘がなるまでいる。授業のあと、結と一緒に平民の商店街に行き精霊と話したり、庭園でのんびりしたりと過ごしていた。
それにしても、精霊達は噂が好きだ。今は次期主様の話が多い。良い話ばかりからと思ったらそうでもないらしい。平民や純民などの低い身分の自由がなくなると危惧している精霊が多かった。なんでそんなことが分かるのだろう。そう思い聞くと、王子様の側近が貴族側だという。貴族に有利なことを小さい頃からすり込まれているらしい。噂だから確かではないのだが、広まっていた。精霊にとって真実かどうかは関係なく、話のネタになり興味があるかどうかだった。
授業が終わり、ふらふらと街にでた。結は任務で王城から離れた街に行っている。この頃忙しそうだった。今日は何しようか。お店の看板をちらちら見ながら歩いていると、前から女性がたくさん荷物を積み上げて走ってきた。避けようとしたが、避けきれずぶつかった。ドタドタと荷物が地面に落ちる。
「ご、ごめんなさい」
と言って、女性は落ちて散らばった荷物を集めだした。
「大丈夫です。こちらこそごめんなさい」
私もしゃがみ、荷物集めを手伝った。女性は急いでたのか、集め終えるとお辞儀をして走っていってしまった。たくさん持って大変だな。歩こうとすると、足元になにかが当たった。見ると小さな紙袋があった。これ、あの女性が落としたやつだ。
「あの、これ、落としましたよ」
拾って叫ぶが気づかない。遠くで消えかかる女性を私は追いかけた。
薬屋と書かれた家の前にたつ。遠目にだが女性がここに入っていくのを見た。ノックをする。
.......
返事がない。ドアを開けると、中はお店になっていて、乾燥された植物や薬が売られていた。
「どうしてここに」
奥から女性がでてきた。さっきは気づかなかったが、足元が薄い。幽霊だった。精霊の国で幽霊が仕事をしている。珍しいことだ。
「あの、これ落としました」
紙袋を渡す。女性はそれを受け取った。
「ありがとうございます。探していたんです」
そしておどおどしながら
「あの、お礼にお茶いかがですか?」
と聞いてきた。
「いいんですか。では、お言葉に甘えて」
そう言うと、奥の部屋に案内してもらった。
お茶とお菓子をだしてもらった。お礼を言い食べる。
「私は楓といいます。あなたは?」
私は食べる手を止め、楓さんをまっすぐと見た。
「翡夜といいます」
「翡夜って言うんですね。良い名前ですね」
そう、つぶやいた。私たちは静かに食べ続けた。少し話をしたが、気まずい。
帰り際、楓さんがまた口を開いた。
「あの、また明日来てくれませんか。助け人のあなたに頼み事があるのです」
少し戸惑ったが
「分かりました」
笑顔で言って、薬屋を後にした。
地界に戻り、結とランチをした。今、冬休みだ。精霊のことに専念できるので楽だった。 精霊が来てもいいようにテラス席に座る。少し肌寒い。結に薬屋の楓さんに来てほしいと言われたことを話す。結は楓さんとは顔なじみらしい。
「楓さんは変わった人だけど、良い人だよ」
にこっとしながら言った。楓さんの薬屋は精霊の国で1位、2位を争うぐらい有名で、主様御用達らしい。結に言われて安心できた。
話していると1匹の精霊が飛んできた。
「紀夜さん。翡夜さん。動きありました」
私たちは急いで残りを食べ、精霊が案内する方へむかった。
今朝、地界に戻ると結からラインがきた。
『今日のお昼にカフェ集合』
『空界への密輸を阻止する』
空界にいる精霊の中で、許可をとらずに空界に商品を送る密輸者がいるらしい。地界で安い品を高い値段で売ることは規制されている。その任務を私も手伝うことになったのである。
精霊に連れられてきたのは工場だった。休みなのか人はいない。 木材やコンテナが置いてある。中に入り、物陰に隠れ息を潜めた。
少し待つと、3匹の精霊が現れた。2匹はスーツケースを持っている。あの中に商品があるのだろう。結は手で案内してくれた精霊に合図をした。その精霊はふわっと浮き、10体に分裂し、散らばった。
お金を手渡したのを確認した私たちは勢いよく飛びでる。
「そこまでです。密輸者として警察に受け渡します」
密輸者達は驚いたようだったが
「助け人ですか。あなたたち2人で止められるとお思いですか」
と密輸者の1匹が落ち着きをはらい言った。
「ここにきたのが私たちだけだと?」
結が再度合図をすると、あの精霊たちがでてきて、密輸者にくっついた。
「な、なんだこれ。動けねぇ」
「くそ」
もがいているが、もがくほど、体中にくっつきだんだん動きが鈍くなっている。
「これを精霊に押し当てて。逃がさないようにね。私は警察に連絡してくる」
結から正方形の塊を渡された。
「わかった」
もふもふの精霊にまみれてる密輸者にキューブを当てると、キューブが段々大きくなり、その中に、密輸者が吸い込まれていった。壁は鉄格子に変化していく。このキューブは持ち運びできる監獄だった。あとの2匹も同じようにいれ、3つの監獄ができあがった。
結の様子を見ると、まだ話しているようだった。私は密輸者を見ながら話しかける。
「なぜこんなことを」
すると、リーダーであろう精霊が口を開いた。
「私は6匹の子供達と地界に住んでいます。普段は空界に行き働いてます。しかし、地界の物価は高いので給料だけでは生活できないのです。なので、こういうことをししないと生きていけません」
訴えるように言った。精霊にそんな子もいるなんて知らなかった。だからといってこんな方法を。
「地界に移るのも1つの方法ではないですか?」
「引っ越すにもお金がかかるのですよ。そんなお金はありません」
と一瞬で否定されてしまった。なんて言おうか迷っていると、結が警察を連れてきた。密輸者は精霊警察に引き渡され事なきをえた。
「困ってるから、ああいうのに手をだしちゃうのかな」
とつぶやく。
「そうかもしれないね。でも、どんな理由であれ、密輸はよくない」
なにかしてあげたいと思ったが、自分にはどうにもできなくてもやもやした。
空界に行くと薬屋に向かった。授業終わった後でもよかったが、約束は先に終わらせたかった。トントンとドアを叩く。返事はない。
「失礼します」
中に入ると、奥から楓さんが顔をだした。
「いらっしゃい。そこに座ってゆっくりしててください。あと少しで終わりますから」
そう言って、顔を引っ込め、作業に戻った。私は昨日いたところに座った。
ゴリゴリ、トントン
1枚の壁を隔てて、音が聞こえてくる。ここからは楓さんは見えないが忙しそうなのがわかる。少したつと音が消え、楓さんがお茶を持って現れた。
「待たせてしまってごめんなさい」
私の前にお茶を置き、正面に座った。
「ありがとうございます。それで頼み事とはなんですか?」
そう聞くと、楓さんは申し訳なさそうにしながら
「実は頼み事ではないんです。あなたに伝えなければならないことがあって。会う口実に言っただけなのです。すみません」
と謝った。私は疑問が頭に浮かんだ。そこまでして、伝えることってなんだろう。
すると突然楓さんが頭を深く下げた。机に頭がつきそうになっている。突然どうしたんだろう。不思議に思った。




