王城内の迷子
オルさんと別れ、教室にむかった。ぎりぎりになったので急いで教室に入ったが、まだ、誰も来ていなかった。
少しするとモブじいさんが入ってきた。
「今日は精霊の話をします。これは助け人をするうえで大切なことです」
と、話始めた。精霊には人と同じく善悪がある。良い精霊はもちろん。強盗などを犯す悪い精霊もいる。精霊の種類によっては術を使えるものがいて、精神を操ったりと人間自体に害を与えるものや、海界で人間に化けて精霊や精霊の存在を知らない人間をだましているという。精霊は人型になると、普通の人でも見れるらしい。私たちから人型の精霊を見ると、体が光って見えるという。騙している精霊を捕まえ精霊警察に届けるのも助け人の仕事だった。その精霊と話をして、聞いた話を警察に伝える。時には、処罰の内容も考えないといけないらしい。私は今まで良い精霊としか会っていなかったので、想像がつかなかった。
「しかし、生まれてすぐに悪い精霊なんていません。生活や環境によって変わっていきます」
モブじいさんは私の目をしっかりと見て言った。
「犯罪を犯す精霊には、なにかしら理由があります。頭ごなしに決めつけるのではなく、よく話して聞いて判断してください。覚えておいてください。助け人が警察に伝える言葉は、この国では法律より重いということを。実際はそうではありませんが、それくらい助け人の言葉でその精霊の人生が左右されます」
「わかりました」
私もしっかりと目を見て頷いた。
「制度など国に関わる内容の場合、警察から主様に情報が入り、会議で論じられます。時代とともに制度を少しずつ変え、国民が住みやすい国にしようとしておられるのです」
と説明してくれた。
『ブーブー』
突然、王城内にブザーのような音が鳴り響く。なんだろう。そう思っていると、ロウじいさんが慌てて
「侵入者が入ってきたという警告音です。翡夜さん。外にでましょう」
ロウじいさんは教室の後ろに行き、外側のドアを開けた。私も急いで立ち上がり、ドアから外にでた。ロウじいさんに連れられ、王城の敷地外へでると、たくさんの人型の精霊や助け人が立っていた。みんな心配そうに王城を見ている。さりげなく結を探したが、どうやら今日は来ていないようだった。そういえば、王族らしい精霊が見当たらない。
「あの、王族の皆さんはどうしたんですか」
ロウじいさんに聞いた。
「ああ、抜け道があるんですよ。そこから逃げています」
とこっそり教えてくれた。事が収まるのを待っていると、角が生えてる人型の女性が、ロウじいさんに話しかけた。
「あの、私の子供を知りませんか?王城から逃げるときにはぐれたみたいで」
写真を見せた。私も横からチラ見する。お母さんによく似た女の子だ。ルルというらしい。
「じゃあ、今もあの中に」
モブじいさんはつぶやいた。お母さんは心配そうにしている。
「私が探しに行きましょうか」
そう私が声をかける。お母さんは驚いた顔を見せた。
「翡夜さん。危ないです。兵士に伝えますから、ここにいてください」
モブじいさんが止める。
「兵士よりも私のような若い人が行った方が、娘さんも安心するでしょう。それに兵士たちは、娘さんの顔をしりません。今から集めて伝えようとしても時間がかかります。私が行って探したほうが幾分か早いはずです」
と言った。
「たが、しかし。翡夜さん1人を行かせるわけには」
とモブじいさんはつぶやいた。
「では、私たちも行かせてください」
知らない声が聞こえた。振り向くと、眼鏡をかけた女の子がそこにいた。その子の後ろには、4人の女の子がいる。みんな私と同じような年ごろだろう。服装的に助け人だということがわかる。
「伊夜さんか。いいのか」
「はい。すみません。盗み聞きしてしまいました」
伊夜さんという子が頭を下げた。
「いいのだ。では、よろしく頼む」
そう伊夜さんたちに告げると、私の方を見た。
「翡夜さん。この子たちはあなたと同じ見習いの助け人です。この5人と探しにいってください。王城は広いのでその方が良いでしょう」
と承諾してくれた。
「ありがとうございます。皆さんもよろしくお願いします」
モブじいさんと伊夜さんたちにお礼を言った。
「お母さん。助け人が探しに行きますので、ここで私と待っていましょう」
話がまとまり、改めてモブじいさんがお母さん伝えた。
「すみません。ありがとうございます。よろしくお願いします」
と、お辞儀をした。
敷地内へ入ろうとすると、ロウじいさんに声をかけられる。
「皆さん。これを持っていくといい」
スマホぐらいの大きさの端末を渡してきた。
「これは、この端末を持っている人の位置が把握でき、通話ができる優れものだ。王城の中は広いからこれで連絡をとるといい。気をつけなさい」
「はい」
私たちは手分けして探すことにした。最上階は王族しか入れないため、それ以外の階を探すことにした。どこに侵入者がいるか分からない。できるだけ、音をたてずに歩いて探した。2階に上がり歩いていくと、兵士をみかけた。侵入者を探しているらしい。小さい女の子を見たか聞いたが、知らないようだった。教室を1つ1つ見ていく。王城は上から見るとコの字の形をしている。なので、1つの階がとても長い。廊下を進むと、壁につきあたった。右には通路が続いていて、正面にはドアがある。ここは確か温室だったはず。ドアを開けると、天井や棚にたくさんの植物が置いてあった。ゴソッという音が聞こえて目を向ける。そこには女の子が背を向けて座っていた。容姿がルルという子に似ている。私はその子に駆けより、座って話しかけた。
「こんにちは。なにしてるの?」
急に声をかけられ驚いてる様子だったが
「お花見てるの」
と答えてくれた。私は他の助け人に連絡をとった。
「見つけました。2階の温室です。今から....」
話していると、後ろから気配がした。立ち上がりおそるおそる振り向く。
そこには人型の精霊がいた。華やかな服を着ている。貴族だろう。しかし、質が良く奇麗な生地の服が、所々穴があいてたり、破れていた。手にナイフが握られているのがちらっと見えた。私はルルを後ろに隠す。
「お前は人間か」
侵入者は野太い声で話しかけてきた。
「そうですけど」
ルルが後ろにいることを確認しながら答えた。
「主様はどこだ」
「知りません。それを知ってどうするんですか」
「知る必要ない」
言わなくても、刃物が握られてる時点で察しがついていた。
「なぜこんなことを。あなたは貴族でしょう」
服に目をうつして言った。
「今の主は純民や平民のことも、考えているせいで貴族が生きにくくなっている。平民とは給料は同じだ。今や平民のほうがよく働くからと、貴族を雇ってくれはしない。そもそも、平民が貴族と同じような仕事をしてるのが間違っているんだ。貴族のくせに貧乏になると、不満だらけだ。低い立場のものはその立場にらしく畑を耕していればよいのだ。次期の主様は貴族のことも考えてくださるとおっしゃっていた。主様が変わればそれが叶うのだ」
不満をこぼした。身勝手な考えだ。
「それはあなたの勝手です。立場は関係ありません」
私の言葉を聞いてむっとしたのか、右足をゆらす。
「早く教えろ」
「知りません」
さっきもそう言った。話が通じない。
「教えろって言ってんだよ!!」
とナイフを持ち襲いかかってきた。逃げようにも出口が1つしかない温室の中。それも侵入者の後ろにある。ルルを連れて、逃げれる自信がない。私はルルを守るように、抱きしめた。殺される。そう思ったとき
ドン
ドサ..
という音がした。見ると侵入者が倒れている。
「あっぶない。廊下長すぎ」
振り向くと伊夜さんと兵士がいた。兵士が近くにあったシャベルの取っ手で気絶させたらしい。後から、他の子もやってきた。
「ありがとうございます」
お礼を言った。兵士にいくつか質問され、話したことをできるだけ思い出して伝えた。そして、侵入者は兵士によって連れてかれた。
ルルの手を引き王城をでると、モブじいさんとお母さんがいた。ルルはお母さんに気がづくと、私の手を離して走っていった。
「ありがとうございました」
お母さんは何回も頭を下げ、ルルと手をつなぎ帰っていった。私たちは手を振って見送る。ひと段落ついたとほっとしていると
「翡夜さん」
モブじいさんに声をかけられた。
「はい」
「なぜ危ないことを。一歩間違えれば大変なことだったんですよ」
と叱られた。伊夜さんから聞いたのだろう。無理もない。命を軽く見るような行動をしたからだ。よくわかっていた。
「すみません」
伊夜さんたちにも謝った。
「大丈夫ですよ。間に合いましたし、犯人も捕まえたのですから」
と言ってくれた。みんなも頷いてくれている。
この出来事は街中に噂として広がった。助け人が女の子を助け、侵入者を見つけたこと。そのさなか、危ない目にあいかけたこと。嘘と真実が交じりあい広がっていった。
結とオルさんの耳に入るのは言うまでもない。オルさんには会った時に注意され、結にいたっては空界に来た早々、部屋に急に入ってきて抱きしめられたあげく怒られた。長くなりそうだったので、危険なことはしないと約束し、許してもらった。気をつけよう。そう強く思ったのだった。




