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わたしを殺すあなた  作者: 摩莉花
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現実世界とゲーム

 わたしの通う聖華学園の高等部は難関大学を受験する特進コースとその他の一般コースがある。高校から入ってくる子は最初からそのコース別で受験するのだけど、持ち上がりの子は中学三年生の成績と本人の希望でコースが決まる。

 将来、経済的に自立したいわたしは、特進コースを目指した。

 もっとも、それを強く勧めたのは大道寺くんで、決めたのは私。そして勉強を協力してくれたのはうららちゃんと大道寺くんと日向くんと白鳥さん。日替わりでうちに来て、教えてくれた。

でも、一番の貢献者は、アリサちゃん。夢の中での睡眠学習。

 アリサちゃん、勉強を教えるの、上手なんだもの。

 夢の中で会い、わたしがほめると、

「先生志望だったからね」

 えへへ、と笑った。

「中学の先生?」

 訊いたら、

「養護教諭、保健の先生よ。保健の先生って、学校に一人か二人しかいないでしょ? 先生の資格は持ってるけど、採用試験で落ちちゃって。他県を受けようとしたら止められて、『ウチで事務員しながら、来年、受験すればいい』って言葉に甘えて、ずるずると」

「それ言ったの、だれ?」

「……彼氏」

「ほおお」

 恋バナは好きだ。アリサちゃん、教えてくれなかったのね。

「どんな人?」

「大学の同級生。科は違うけど。コンパで会って、付き合って……別れ話が出ているときに、事故にあったの。今頃、いい人を見つけて、結婚してるんじゃないかな」

「そっか……」

 浮かれて、反省。

 アリサちゃんは、死んでいるんだった。家族とも友達とも、恋人とも、もう会えないんだ。

「ごめんなさい」

「あ、いいの。気にしないで。私は、アンナちゃんに会えて、うれしいから」

 アリサちゃんの過去を詮索しないようにしよう、と思った。

勉強のほうは、先生が出してくれるプリントをやって、自分で買った参考書と問題集をやった。定期テストは保健室で受け、体調のいいときは保健室登校をして、わたしは特進コースに入ることができた。

 ぎりぎりだったけどね。

 それが決まったあと、春休みに、協力してくれた四人を家に招いて、ささやかなパーティをした。

グリーンポタージュ、はまちのドレッシングあえ、ローストポーク、野菜サラダにカナッペ。イチゴのケーキ。

 夏江さんに手伝ってもらったけど、ほとんど自分で作った。将来、一人暮らしするときのために、お料理を習っているんだ。

 それを話すと、みんな感心した。

「私、ホットケーキしかつくれないわよ」

 と、白鳥さん。大会社の社長のお嬢様だからなあ。

「私は、食べるの専門。うちの家政婦さん、料理、上手だから、食べすぎちゃう」

 こう、のたまうのは、うららちゃん。今も、もりもり食べている。なのに、スレンダーなのは、なぜ?

「ごはんとみそ汁、卵焼きとサラダくらいは、できる」

 ローストポークをもくもく食べながら、日向くんが言う。

「僕は、サラダとパスタ、ブルゴーニュ風煮込みなら。フランスにいるとき、ママンは制作に入ると家事どころか食べることも忘れてしまうので、十歳くらいから、家事全般と食事作りをしていた」

 へええ、とみんなで大道寺くんの答えに感心した。

 トイレにも行かなそうな美少年は、意外に庶民的。

 ふわふわの、陽に透けると金色に輝く茶色い髪をした大道寺くんは小学生のとき、まさに「天使!」という感じだったけれど、高校生になった今、少年期から青年期に移る時期のきらきらの美少年になっている。

 アリサちゃんなんて、大道寺くんを見るたびに、「尊い」と拝んでいる。

 アリサちゃん、腐女子だっけ?

 日向くんは黒縁の眼鏡をかけていて、ぱっと見、地味だけれど、和風の美少年だ。

 学校の廊下なんかで、大道寺くんと日向くんが一緒にいると、女の子たちが「きゃあ」と声を上げる。

 わたしの中のアリサちゃんも。

 この二人とよく一緒にいるうららちゃんも、つやつやの黒髪を肩甲骨のあたりまで伸ばした和風美人だ。すらりとしていて、身長は百七十近い。

 一方で、ゆるやかにウエーブした黒髪をふわりと肩先まで垂らした白鳥さんは、ぱっちりとした目の華やかな美人だ。お嬢様だけど、世話好き。それは付き合ってから、分かった。わたしとは小学校三年と四年のときクラスが同じだったけれど、それほど親しいとはいえなかった。

『あのとき、楡崎さんのおうちで、何かあったんだと、察していたけれど、見守るしかできなかったの。親が離婚した子もいたから、家の中で何が起きているか、おぼろげなから分かっている子もいたみたいだけど、結局、私たちは何にもできなかった。ごめんね』

 勉強をみてもらうようになって、二人きりになったとき、白鳥さんが言った。

 そっか、クラスのみんなは心配してくれていたんだ。でも、わたしはそれも気づかないほど、いっぱいいっぱいだった。

『いいよー。気にかけてくれて、ありがとう』

 涙が出そうになったけど、がまんして、そうお礼を言った。

「ところで、楡崎さん。二学期に中等部の校舎へ来たとき、倒れた際に何かあったと聞いているけれど、話してくれる?」

 食事が終わり、デザートのケーキをみんなに切り分けたとき、大道寺くんが訊いた。

「いえ、べつに、それは」

 しどろもどろになって、ごまかそうとしたんだけど、他の三人にも追及され、暮林さんに言われたことを白状した。

「悪役令嬢? ゲームと現実を混同しているなんて、頭に花が咲いてるんじゃない?」

 うららちゃんが吐き捨てた。

「その乙女ゲーム、さがしてやってみる。その子の思い込みがどこから来たのか、分かるから」

 冷静に分析するのは、白鳥さん。

「あだ名を暮林さんが知っていたのは、私の弟が話したの。生徒会の内輪だけの呼び名で、部外者がそれも中等部の子が知るはずもないのに」

 と、付け加えた。

「じゃ、僕たちは、その子に狙われているってわけだな」

 大道寺くんが嫌そうに言う。

「ルイだけだよ。なにしろ彼女の王子様なんだから」

 ちょっと笑って、日向くんが言うと、大道寺くんが睨んだ。

「ストーカーなんて、ごめんだからな」

「悪い」

「そんな変な女が現れたんなら、はっきりさせておこう」

 大道寺くんが、わたしのほうをまっすぐ見た。

「楡崎さん、好きです。僕と付き合ってください」

「え?」

 幻聴かと思った。

「わたし、ちっとも女の子らしくないよ。がりがりだし。頭悪いし。大道寺くんに好きになってもらうような要素、少しもないよ?」

 冗談でしょ、と信じられなかった。髪は秋より伸びて肩につくくらいの長さになったけれど、根本は黒くて、毛先がまだ赤茶色。だいぶ食べれるようになってきたけれど、まだひどく痩せて、ひょろひょろで背も小さい。

 こんなわたしを?

「君は自己評価が低い。外見について言えば、もっと元気になってくれば、変わるよ。転校してきた当初、僕にとって楡崎さんは単なるクラスメイトだった。でも、ノートを届けているうちに、家庭内で起きていることに予想がついた。それでも、君の眼は、死んでいなかった。突然の入院で、連絡がとれなくなってからは、気になって仕方がなかったよ。ラウから様子を聞いて、一緒に勉強するようになって、自分の気持ちに気づいたんだ」

 言い切ってから、ぼっと真っ赤になった大道寺くんを見て、かわいいと思った。

 うん、嫌いじゃない。でも、わたしは大道寺くんのことをよく知らない。

 日向くんは、「よく言った」とつぶやいて、うららちゃんと白鳥さんは生暖かい目でわたしたちを見ている。

 わたしの中のアリサちゃんは、両手で口をおおって、目をきらめかせていた。

 大道寺くんの告白に、わたしも少し考えてから、答えた。

「あの……ありがとう。お付き合いさせてください。でもね、メールと電話は緊急のときにしない? 大道寺くんは二年生で受験勉強が本格化するんで、メールは時間をとるし、わずらわしいと思うの。お互いのことを知るためにも、交換日記から始めませんか?」

「日記……うん、いいよ」

 大道寺くんが、にこりとした。

「楡崎さんの、そういうさりげない気遣いができるとこがいいんだ」

 言われて、わたしもぼっと赤くなった。

「やったな」

 隣に座っていた日向くんが、大道寺くんの腕をぽんぽんとたたいた。

「おまえのほうは?」

「撃沈……」

 と、ちらりとうららちゃんのほうを見た。

「なによお。振ったわけじゃないからね。まだ、そういう相手として見れないと言っただけで。じゃ、あたしたちも日記から始めようじゃない?」

「よっしゃあ」

 日向くんが、ガッツポーズをした。

「はいはい」

 と、白鳥さんがパパンと手をたたく。

「お子サマの恋愛の始まり、おめでとう。だけど、学生だから本分を忘れないようにね」

 と、大人の感想を言った。

「エーコは社会人の彼氏がいるもんね」

 麗ちゃんが驚くべきことを言う。

「婚約者候補。ちょっと政略が入ってる。うちの会社の次期社長候補。社長になれなくても、役員くらいにはいける実力者みたい。親たちは逃がしたくなくて、私はニンジン」

 へー、とわたしは驚いてばかりだ。

 それから話題は将来の夢の話になった。

 白鳥さんは裁判官になりたいそうだ。

「だから、政略なんて、くそくらえよ」

 勇ましい。

 うららちゃんは警察官。だから二人とも、法学部を受験するそうだ。

 日向くんは家を継ぐつもりで、工学部。

 大道寺くんは医学部。

 わたしは……なんだろう。保留。でも、すぐにでも決めなくちゃいけない。学生でいられる時間は短いから。

 その前に何より、体力をつけなければ!

 そのことを言ったら、大道寺くんが、「うちのジムに来ればいいよ」と誘ってくれた。筋トレで、日向くんも週二回通っているんだって。

 細かいことは後日にして、それもお願いしておいた。

 楽しかったパーティが終わり、みんなを送り出してから片付けをし、自分の部屋へ行って、ベッドに転がった。

『よかったねえ』

 アリサちゃんが言った。友達ができて。ボーイフレンドができて。学校生活が楽しくなりそうで。

 けれども、ゲームの開始は入学式からだと、わたしは思い出した。

『じゃ、すこーしだけ、変身しよう』

 ここは現実。ゲームの世界じゃない。それでも、準備はしておこう、というアリサちゃんの提案で、わたしはおじいちゃんに頼んで、眼鏡屋さんと美容院へ行って、イメチェンをした。その写真をパーティに来た四人に送ったら、「いいね」と返事がかえってきた。

 ヒーローと両想いになった。ここまではゲームと一緒。ヒロインはヒーローを奪い取る? 悪役令嬢が役目を果たさなかったら、自称ヒロインはどうするかしら。








 

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