閑話:師匠の日記
「師匠〜、この日記はなんですか?」
私が私の愛弟子、メルと一緒に掃除をしていると、メルが10冊ほどある少し古びた日記を持ってきた。
表紙を見るに、10年以上前……メルと出会うより前から書いていた日記であることが分かった。
私の日記であることをメルに伝えると、「読みたい!」といって聞かなかったので、掃除は一回切り上げて、休憩がてら読むことにした。
日付の部分は読めない物が多かったが、内容は読めるから良しとしよう。
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-月--日
ようやく山小屋が完成した。ここまで作るのに1ヶ月もかかるとは思わなかったが、周りに木材が大量にあったおかげでなんとかなった。魔法があったのもだいぶ助けになった。流石に家具を作るほどの余裕はないから、明日にでも村へ買い出しに行かなければ……。正直面倒だが、内装には妥協したくないから致し方あるまい。お金は勇者が餞別として置いていったから、かなり余裕がある。あいつも時には粋なことするとは思ったが、今までが今までなのですぐに取り消した。
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「し、師匠?勇者様と何かあったんですか……?」
「ん?……あぁ何、宿に泊まっていたときにあいつが酔って私の部屋に入ってきて「結婚しよう」とか言いながら服を脱ぎ始めた事があってね。思わず魔法で吹っ飛ばしてしまったのさ。今でも根に持ってるよ」
「は、はぁ……」
そこからはあまり変化のないような毎日が続いていた。
毎日書き綴っていたので、我ながらマメだなと思ったのは内緒だ。
日記の書く内容が変わったのは3年前。ちょうどメルと出会った頃だった。
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-月-日
山にものすごい魔力を持った者が入ってきたのを感じ取った。全盛期の私には及ばないが、常人の魔力量を遥かに上回っている。しかもまっすぐこちらに向かってきているのか、気配はどんどん近づいてくる。ここを見つけるのにそんなに時間はかからないだろう。それまでに部屋の片付けが終わるかは分からないが、やれるだけもてなそうと思う。なんたって久しぶりの客だ。どんなやつかは分からないが、明らかな敵意があるようには感じられないし、どこか寂しそうな気配を漂わせている気がするので、話を聞いてあげようと思う。
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「やっぱり師匠は私が山に入ってきたことをわかっていたんですね」
「ええ、この山を含む半径1kmくらいの範囲ならどんな人が来たか分かりますよ。その人がなんの目的で来たのかもある程度は、ね」
「そうなんですね……流石です」
そこから先の日記は主にメルのことについて書かれていた。
「おや、もうこんな時間ですか」
気がつくと外は暗くなり始めていて、続きはまた今度という話になった。