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古代魔法の闇

……はい。大変長らくお待たせいたしました。

少し用事が立て込んでいて全くこちらに手が付けられない状態でした。

いつもの夏バテも無事発症しまして、絶賛ぐったり中です。

かなり遅れてしまった分、今回は4,000字オーバーとかなり大ボリュームです。

どうぞお楽しみくださいませ。

翌日。


私たちはジャスミンさん手作りのお弁当と、念のためのランタンを持ってシーちゃんの住む森にやってきた。

森は以前来た時よりもずっと元気そうな姿で出迎えてくれた。

木々はいつにも増して青々と茂っていて、あちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる。

瘴気の影響か、倒れてしまった木には小さなリスや蝶の姿が見えるし、3,4日でこんなに環境を変えられるシーちゃんの力に驚きを隠せない。

まさか要石1つでこんなに変わるなんて……


景色に見とれながら進むこと数十分。

私たちは太古の霊樹(シルヴァンドラ)の元に辿り着いた。

相変わらず辺り一帯に木は生えておらず、森の中とは空気が全く違う。


「シーちゃーん!いるー?聞きたいことがあるんだけどー!」


私は大きな声でシーちゃんを呼ぶ。


『いますよ。久しぶりですね』


返事はすぐに返ってきた。


「あのねー?シーちゃんって……」

『立ち話も何ですし、せっかくなのでこちらに来てもらえますか?今”扉”を開けるので』


私が質問しようとすると、シーちゃんに遮られる。

そして、それと同時に太古の霊樹(シルヴァンドラ)に私の身長の2倍はありそうな木製の扉が浮かび上がる。

突然のことに驚いているとひとりでに扉が開き、隙間から暖かな光が漏れだす。


『さぁ、お入りください』


困惑しつつも、私たちは「シーちゃんのことだから……」と割り切って、扉の奥へと進んでいった。




扉の先には、見覚えのある光景が広がっていた。

奥に大きめの錬金釜が置いてあり、左側を見ると、3人ほど座れそうな大きめのソファーが、大きめのダイニングテーブルのような机を挟むように2つ用意されている。


まるで私のアトリエ……いや、私のアトリエをそっくりそのままコピーしたんだろう。

まさかシーちゃんがそこまで私のアトリエを気に入ってくれていたとは思わなかった。


「驚きましたか?あなたのアトリエを模して作ってみたのですが、どうでしょうか?」


アトリエの奥の方から、人影がそう話しながら出てくる。

その姿も、私にそっくり。

違うところと言えば、髪の色と目の色が緑色ということくらいだ。


「え、メルちゃんが……2人?……いや、これは……」


ジャスミンさんも困惑したような表情を浮かべる。

この姿は、いつかの真っ白な空間で出会ったシーちゃんの仮の姿。

……仮だよね?


「……で、いつまでその姿でいるの?もう力は戻ってるんだし元の姿に戻ればいいじゃん」

「別にいいじゃないですか、減るものじゃありませんし。それに、こっちの方が何かと過ごしやすいんですよ」

「いやいや、そういう問題じゃなくて、ややこしいでしょって話!」

「色でわかりますよ。何ら問題ありません」


どうやらこの姿が一番落ち着くらしい。

どこか腑に落ちないけど、今はとりあえず保留にすることにした。

いつか白黒はっきりさせないと……




「それで?私に何の用ですか?何か聞きたいことがあるようでしたけど」


皆がソファーに座って一息ついたところで、シーちゃんが話し出す。


「そうそう、今日はシーちゃんに聞きたいことがあって来たんだ」

「何でしょうか?私に答えられることならなんでも聞いてください」


ラナさんの返答に、ニコニコしながら答えるシーちゃん。


「えっとね~、シーちゃんって、”古代魔法”って……」

「その話をどこで聞いたのですか」


ラナさんが話し出した直後、シーちゃんの雰囲気が一変する。

あまりのプレッシャーに、空気がビリビリと震えるような感覚を覚える。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!急にどうしたっていうのさ!」

「質問に答えてください。その話をどこで、どこまで聞いたのですか」


シーちゃんの雰囲気から、何かこの魔法には秘密がありそうだと直感で感じとる。


「わかった!話す!話すから!」


そう言って、ラナさんはここに至った経緯を話し出す。

図書館で見つけた古めかしい本のこと。

そこに書かれていた古代魔法についてのこと。

この魔法が復元されてしまったら、それはきっとこの世界を滅ぼすことに繋がると考えたこと。

そして、この魔法に対抗する策を探しているということ。

最初はとてつもないプレッシャーを放っていたシーちゃんだけど、話を聞くにつれて次第と落ち着いていき、最終的に何かを考えるような顔をして黙り込んでいた。


「……というわけなんだけど……」

「……なるほど。言いたいことはわかりました。急に酷い態度を取って申し訳ありません」


しょんぼりしたような顔でそう言うシーちゃん。


「まぁしょうがないよ。そっちにも何か事情があったんでしょ?むしろこっちこそ急に押しかけてこんなこと聞いてごめん」


ラナさんが頭を下げる。


「話を戻しますが、あなたたちは古代魔法が復活する前に、古代魔法に対する対抗策を編み出したい……ということですか?」

「そうだね。だからシーちゃんの力を借りたくて。シーちゃんなら何か知ってるんじゃないかと思ってね」

「……なるほど。そういうことでしたら私も協力しましょう。その為にはまず、古代魔法が何なのかをはっきりさせておく必要がありますね。対抗策についての説明も合わせるとかなり長い話になると思いますが、覚悟はいいですか?」


私たちは顔を見合わせたあと、頷いた。




「……古代魔法というものは、”媒体”と言われるものを用いる……と文献に書いてあったと言いましたね。ですが、厳密に言うならばそれは半分ほどしか適切ではありません」

「……どういうこと?」

「正確に言うならば古代魔法とは、私たちのお母さま……つまり世界樹の力を借りることで通常では考えられないほどの力を生み出す魔法のことです。この魔法を用いればこの世界の法則を打ち破ることも可能です。例えばそうですね……炎の中に氷を生成する、なんてこともできてしまいます」


どうやら古代魔法とは、世界樹から力を借りて強大な力を行使する魔法の事らしい。

それを使えば通常ではできないような現象を引き起こすこともできるみたい。


「……時に皆さんは、この世の生命がどこから生まれたか知っていますか?」


突然、そんな質問を投げかけられる。


「どこからって言われても……」

「簡単なことです。この世の最初の生命が世界樹。だからそれ以外の生命は全て世界樹から生まれたのです。つまり人間も元はと言えば世界樹の一部なのです」

「「「は、はぁぁぁあ?!」」」


あまりにスケールの大きな話に、思わず大きな声が出る。

それはジャスミンさんもラナさんも同じだったみたい。


「ちょ、ちょっと待ってよ!つまり私たちって、シーちゃんの遠い遠い親戚ってことになるんだけど?!」

「あら?言っていませんでしたっけ?」

「言ってないよ!私がシーちゃんと姉妹かもしれないって話しかしてないよ!」

「というか、だとしたらメルちゃんに世界樹の力が流れてるのも当たり前ってことになるんじゃ……?」

「いえ、メルにはその力が色濃く流れていたので姉妹という可能性を捨てきれないというだけです。姉弟の一人にメルと似たような名前の子もいましたし」

「いやそんなの知るわけないでしょ……それにこの世界の最初の生命が世界樹だってことも今聞いたんだけど?」


私、ジャスミンさん、ラナさんの順にシーちゃんに困惑した気持ちをぶつける。


「ま、まぁそれは一旦置いておくとして……それが古代魔法とどうつながるって言うの?」


このままツッコミを続けても埒が明かないので、本題に戻す。


「はい。先程の話にあった文献によると、古代遺跡の壁画について”積み重なる死体の上に立つ少女”という言葉が出てきたと言っていましたね。それは古代魔法の使用方法としては間違っていません」

「積み重なる死体って……まさか」

「お察しの通り、古代魔法とは世界樹から与えられた生命、要するに魂を捧げることによって完成します。積み重なる死体というのは恐らく魔法を使うための媒体……つまり”生贄”にされた人々を指しているはずです」

「……なんてひどい……そんなのひどすぎるよ……」

「えぇ、ですからこの魔法はいわば”禁術”として封印された……はずなのですが、話を聞いている限り、どうやらその存在を知っているという人は少なくなさそうですね」


話を聞く限り、古代魔法はいわば命を奪い取る魔法……ということになりそう。

そんな魔法に対抗するなんてことできるのかな……


「……ねぇ、ふと思ったんだけど」


突然、ラナさんが不安そうな顔でシーちゃんに話しかける。


「どうしました?」

「いや……さっきさ、古代魔法ってこの世界の常識を打ち破ることもできるって言ったじゃない?」

「ええ、それがどうかしましたか?」

「……それを使うことで、新たな生命を生み出すことって出来るの?」

「ちょ、ラナさん何言って……」

「……可能ですよ。莫大なリソースが必要にはなりますが」

「……そっか、ありがと」


ラナさんは何かを恐れているような表情を少し浮かべた後、ふぅ……と息を吐き出して背もたれにもたれかかった。


「可能ではありますが、成功する確率はかなり低いと言えますけどね」


シーちゃんがそんなことを言う。


「というと?」


気になったので、シーちゃんに詳しく聞いてみることにした。


「理由としては主に3つ。1つ目は先程話した、世界樹の力を引き出すためのリソースの問題です。生命を0から生成するとなれば、当然それに見合った代償が必要になります。おそらく幼体を形成するとしても国家1つで足りるかどうか、といったところでしょうか。2つ目は魔力制御の問題です。仮に生命を生成するだけのリソースがあったとしても、それを完璧に制御できなければ生命の創造など夢のまた夢です。常人にはまず不可能ですね。そして3つ目は”核”と呼ばれるものの存在です。核とは、あなたたちの言葉に直すと感情や精神……つまり生命を形成するうえで欠かせない”自我”と呼ばれるものです。この核を0から生み出すことは、たとえ古代魔法を用いても不可能です。ですので結論としては、生命を作ること自体は可能ですが、それに自我が芽生えることはあり得ない……となればよかったのですけどね」

「……どういうこと?」


不穏な言葉を最後に残したのが気になり、さらに追及する。


「1000年以上前になりますかね。ある男が古代魔法を用いて生命を生み出し、それに自我を与えることに成功したのです」

「え、でも自我を作り出すのって不可能なんじゃ?」

「詳しいことは私も知りません。何せ人伝に聞いた話ですので。ですが、その男は()()()()()()()と聞いています」

「……つまり……どういうこと?」

「……人間の手によって蘇った……つまり()()()()()()()()()()……ってことかな」


今まで黙って話を聞いていたジャスミンさんが口を開く。


「ええ。人間によって創られた人間……人造人間(ホムンクルス)、といったところでしょうか」


人間に創られた、人間……

そんなことがあり得るのかな?

核を作り出すことは古代魔法を使ってもできないはずなのに、その人は一体どうやって一度死んでしまった人を蘇らせたんだろう?


「……おっと、話が逸れてしまいましたね。では本題……古代魔法に対抗する手段について話しましょうか」

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