”魔法”と”古代魔法”
今回はオールラナ視点です。
3/7 加筆修正。
「さて、と……」
アトリエのソファーに座りながら、大きく伸びをする。
昨日ドラゴンと戦ったのが噓みたいに体が軽い。
きっとメルちゃんと一緒にいたから元気なんだろう。
「準備準備~♪」
少し鼻歌交じりに出かける準備をする。
溜まっていた依頼は午前中のうちに粗方片づけたし、午後は自由な時間だ。
今日は久しぶりに”帝都大図書館”に行く。
調べ事をしたいのもあるけど……待ち合わせもしてるからね。
「行きますか~」
意気揚々とアトリエを飛び出す。
と言っても、目的地は目と鼻の先だ。
1分も経たずに図書館に辿り着く。
中に入ると、図書館独特の紙のにおいが出迎えてくれた。
今の時間は大体お昼時。
皆ご飯を食べに出かけてるのか、図書館の中に人はほとんどいなさそう。
……こちらとしては好都合だ。
集合時間より少し早いけど、あの”真面目さん”のことだから……
そう思いつつ、軽く図書館の中を歩く。
目的の人はすぐ見つかった。
闇夜のように真っ黒な髪に、腰に帯剣している男とくれば嫌でも目立つ。
しかも今日は本とにらめっこしているからか、いつもより目つきが悪い。
まぁ見ている分には面白いから何も言わないけど。
「首尾はどう?”黒”さん」
背後から男に話しかける。
「ダメだな。少し資料を漁ってみたがそれらしきものはさっぱりだ」
”黒”さん……クロウさんはそう答える。
「まぁそりゃそうだろうね~……こんなとこに情報あったら苦労しないよね~」
「全くだ。第一、私の業務は本とにらめっこすることではなく……」
「はいはい、図書館ではお静かに~」
盛大に愚痴をこぼしているクロウさんを無理やり黙らせる。
「ふん……まあいい。それで、話というのは何だ?夜中に突然訪ねてくるほどだ。よっぽどのことが起きたんだろう?」
「あはは……夜中に突然訪ねたのは謝るよ。でも、この情報は共有しとかなきゃって思ってね」
ふざけるのをやめ、クロウさんと真剣に向かい合う。
「……断罪、憤怒、貫け。この3つの呪文について何か知らない?」
「ふむ……」
「それぞれの効果は多分……」
クロウさんに、メルちゃんが呪文を唱えた後に起こったことについて事細かに説明する。
そう、今日の目的はメルちゃんが唱えた謎の魔法の正体を探るため。
今後メルちゃんと一緒に行動していくうえで、少しでも情報は欲しい。
メルちゃんの反応からして、この呪文を唱えたのはメルちゃんじゃない。
だから、メルちゃんに聞いても何もわからないはず。
というわけでこうして王家にもつながってるクロウさんに聞きに来たってわけ。
「……少し待っていてくれ」
少し考えてたクロウさんは司書さんと話しながらどこかへ行ってしまった。
1人の間に少し情報を整理してみようかな。
まず、メルちゃんの正体について。
これに関してはメルちゃんはメルちゃんだ……って言いたいところだけど、そうも言ってられないのが事実。
あの無機質な声は、たしかにメルちゃんから発せられてたはず。
でも、メルちゃんはそのことを覚えてはいなさそうだった。
つまり、メルちゃんの中には別の……第二のメルちゃんがいるって考える他ない。
それがただの多重人格なのか、それとも……って問題はあるけど、そればかりは今考えても結論は出ないと思う。
あと考えられるのは……メルちゃんの体だね。
あの時、メルちゃんの腕は確実に……いや、腕以外にも何本か骨が折れてた。
その状態でよくわからない魔法3つ唱えてばたんきゅー、そこからさらによくわからない魔法で傷も完治。
……全くもって理解ができない。
「……あったぞ」
考え事にふけっていると、突然クロウさんが後ろからやってきて本を差し出す。
「随分と早かったね~」
「前置きはいい。問題はここの文章だ」
そう言って本のとあるページに指を置く。
そこには、こう書かれていた。
ーーーーーー
我々が”魔法”と呼んでいる物は非常に興味深い。
手からは炎や水、さらには電気や氷に至るまで幅広い運用ができるだけでなく、媒体を利用すればそれぞれのもつ力を最大限まで引き出すことができる。
しかし現代において、その媒体を用いるという技術を知っているものは数少ない。
かく言う私も、技術自体は知っているが、それをできるほどの技量はない。
つまり、媒体を用いるという行為は既に失われつつあるのだ。
現代の魔法を魔法と呼ぶのなら、媒体を用いたものはまさしく”古代魔法”と言えるだろう。
では、そんな魔法がなぜ失われたのか。
その理由はただ一つ。それを扱う為には想像を絶する魔力が必要となるのだ。
その様子は、古代遺跡の壁画にも記されている。
積み重なる屍の上に立ち、右腕を突き出す女。
その次の壁画には、『之即ち”断罪の光”也』という文章と共に、一筋の光が怪物に当たり、怪物が真っ二つに切り裂かれている姿が描かれている。
もしこれが実在したものだとすれば、その魔法の破壊力は今の魔法とは比べ物にならない。
生半可な操作では魔法に飲み込まれ、術者どころかそのあたり一帯が焦土となるだろう。
そしてーー
ーーーーーー
「……これって」
「あぁ。似ていると思わないか?」
「似てるも何も……魔法名、起きた現象に至るまでほとんど一致してる。つまり……」
「メル……彼女が唱えたという魔法は”古代魔法”である可能性が高い」
偶然の一言では片づけられない。
「これを見る限り、魔法を撃つためにはかなりのリソースを費やしそうだが……メルの場合は……」
「疲れた様子とかはなかったし、何ならそのあとに普通に元気になってたよ」
「そこだけ、だな。この文献と食い違っている点は」
「だね。これはもう否定のしようがないよ」
古代魔法と、メルちゃん。
この2つには何か接点があるのかな?
かなりのリソース……それをメルちゃん1人で補うのは不可能だと思う。
なら一体どうやって……
「……!!」
直後、脳内に冒涜的とも言える考えが浮かぶ。
「どうした?何かわかったのか?」
「……確証は無いし、自分でもおかしいと思う……けど、これだったら全て説明が付く」
「ほう?言ってみてくれ」
頭を過る最悪の考えに戦慄しながら、クロウさんに考えを話す。
「メルちゃんは……」
「……ふむ。確かに説明は付くな」
「……でも、信じられないよ。だって、普通の女の子じゃん……」
「まぁあくまで”かもしれない”という話だ。それが100%正しいわけじゃない。そうだろう?」
「そう……だね。うん、そうだ」
「……いずれにせよ、この件は深掘りする必要がありそうだな」
「……だね。ボクも色々調べてみるよ」
「あぁ。何かわかったら真っ先に伝えてくれ」
そう言い残してクロウさんは去っていった。
「……」
暫しの沈黙の後、制御しきれない気持ちがあふれ出してくる。
「……メルちゃん……メルちゃんは……」
少し間を開けて、気持ちを落ち着かせようとする。
が、それは無駄な抵抗だった。
「……メルちゃんは……本当に”人間”なの……?」