要石と”親玉”
皆様、新年あけましておめでとうございます。
今年一発目の投稿です。
2週間ほど間が空いたような気がしますが多分気のせいでしょう。(すっとぼけ)
今回はいつもより大ボリュームになっているはずです!
なので遅くなったことを咎めないでください。
「……もしかして、あれかな?」
歩き始めて数分、私たちは少し開けた場所で大きな岩を見つけた。
その岩の下からは、瘴気がとめどなく流れ出ているのが確認できる。
ランタンがなければ私たちはとっくに死んでいるだろう。
『はい、あれが要石です』
「あ~……確かにすごい瘴気が溢れ出てるね~……」
「木々が枯れていくのも納得だね。……こんなに瘴気を浴びて普通の植物が耐えられるはずがない」
私は辺りを見渡す。
瘴気の影響か、要石の周りには毒々しい色をした植物や茸が生えている。
明らかに普通のものではない。
ちょっと気になるが、今は要石の方が先だ。
「シーちゃん、私は何をすればいいの?」
『今、要石は閉まりきっていないコルクのように、瘴気が漏れ出てしまっている状態です。なので栓を閉めるように要石を動かしてあげてください』
「いや動かすって言っても……こんな大きな岩私1人どころか3人で協力しても持ち上がるかどうか……」
『大丈夫です、あなたが要石に触れてあげれば、おそらく正常な状態に戻るはずです』
触れるだけ、という言葉に幾らかの安堵を覚える。
どうやら難しいことをする必要はないらしい。
「じゃあ、早く終わらせて皆で帰ろう!」
私たちは意気揚々と要石に近づく。
「……っ!!メルちゃん危ない!!」
突然、ラナさんが叫ぶ。
嫌な予感がした私は、咄嗟に後ろに跳ぶ。
ズガンッ!
直後、私がさっきまで立っていたところに何か大きなものが空から降ってきた。
それは地面にめり込み、辺りには土煙と瘴気が立ち込める。
……もしラナさんに声を掛けられなかったら、私はつぶされていただろう。
「な、なに?!」
「……まずいね~……”親玉”の登場だよ」
ラナさんがそう言うと、空から降ってきたものはゆっくりと立ち上がる。
そこにいたのは、大きな口に大きな牙、長い尻尾に蝙蝠のような翼……
ランランと光る、爬虫類のような目……
……ドラゴンだった。
「ど、ドラゴン……」
「ただのドラゴンじゃないね~……体の色からしてブラックドラゴン……下手したらダークドラゴンかもね」
「どちらにしても……」
ジャスミンさんはそこまで言って言い淀む。
そのあとに続く言葉は恐らく……『勝ち目はない』だろう。
ここにいるのは私たち3人だけ。
ドラゴンは魔物の中でもかなり危険度の高い魔物。
中でもダークドラゴンは、1つの都市を壊滅させるほどの力を持っているとされる。
「……どうしますか……?」
「ここは逃げる……と言いたいところだけど……多分街に戻ってもこいつを倒せる人はいないと思う」
「じゃ、じゃあ……」
「……うん、かなり絶望的だけど……」
「やるしかない、ね」
そう言って剣を抜くラナさん。
ジャスミンさんも、杖を手に持つ。
「メルちゃん、ランタン、お願いね」
私も杖を取ろうとすると、ラナさんに止められる。
……そうだ、辺りは瘴気で満ちている。
ラナさんたちが戦えるように、私はランタンで瘴気を浄化しないと……!
「……わかりました。でも……無理はしないでくださいね」
「心配しなくたって大丈夫だよ~、これでもそこそこ強いんだからね」
ラナさんはそう言って微笑む。
こうして、私たちとドラゴンの戦いが幕を開けた。
先に動いたのはラナさんだった。
体勢を少し低くし、ドラゴンに一気に肉薄する。
「はぁっ!!」
そして飛び上がり、剣を上段に構えてドラゴンの胴体めがけて一気に振り下ろす。
ガキンッ!
しかし、ラナさんの攻撃は金属同士がぶつかり合うような音と共に、ドラゴンの黒光りする鱗に弾かれてしまった。
「なっ……?!」
空中で剣を弾かれたことによって、ラナさんはバランスを崩す。
「……っ!『トルネード』っ!!」
そのタイミングを見計らって尻尾で追撃しようとするドラゴンを、ジャスミンさんが妨害する。
「ラナ!大丈夫?!」
「くっ……なんとか、ね。助かったよ」
受け身をとって、立ち上がりながらそう返すラナさん。
私もラナさんに駆け寄る。
「ラナさん!」
「大丈夫だよ~。ジャスミンのおかげで怪我はないから」
どうやら無事なようだ。
「……それで、どうだった?」
ジャスミンさんがラナさんに問いかける。
「非常にまずいね。あの鱗をどうにかしないと物理攻撃は通りそうにない。腹部は鱗が無いから、切りつけるならそこだけど、そこまで肉薄するまでに攻撃を食らう可能性が高いね」
「魔法は通りそうだった?」
「わからない。けど、むやみやたらに撃つのは消耗が激しいからここはサポートに徹してほしいかな」
「……わかった」
「メルちゃんも、ジャスミンと一緒に私の援護してくれる?」
「は、はい!頑張ります!」
「よし……行くよ!」
ラナさんは再び剣を構え、地面を強く蹴ってドラゴンに正面から突っ込む。
ドラゴンは近づかせまいと大きく尻尾を振る。
「させないっ!」
私はドラゴンの攻撃を妨害すべく、ドラゴンの顔に向けて火球を放つ。
それはドラゴンの注意を惹き、ラナさんが肉薄するのに十分な時間を作る。
「もらったっ!」
ラナさんは下から上に突き上げるように剣を振り上げる。
剣はドラゴンの腹部を切り裂き、大きなダメージを与える。
「よし!このまま……っ?!」
突然、ドラゴンが翼を羽ばたかせ始めた。
それによって激しい風が吹き、砂埃が煙幕のように広がる。
「『トルネード』!!」
ジャスミンさんが、砂埃を払うために魔法を唱える。
砂埃が消え、私が目にしたのは、私にめがけて振り下ろされるドラゴンの尻尾だった。
避けようとするが、間に合わなかった。
「ぁ……っ……」
ドラゴンの尻尾は私の腹部に直撃する。
体中の空気が強制的に押し出される。
「「メルちゃんっ!!」」
私は衝撃に耐えられず、思いっきり吹っ飛ぶ。
体が地面に叩きつけられる。
空気を吸おうとしたところで、辺りに瘴気が満ちていることに気が付く。
持っていたはずのランタンは、いつの間にか私の手ではなく、少し離れた地面に突き刺さっていた。
次第に視界がぼやけはじめ、辺りの音が薄れていく。
私はそっと目を閉じる。
意識の去り際、誰かの喋り声が聞こえた気がした。
「……意識レベルの低下を確認。これより自己防衛を開始します」
誰の声かわからないまま、私は意識を手放した。