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太古の物語

『皆さんは『世界樹』についてどれだけ知っていますか?』


物語を語りだす前に、私たちに問いかけてくるシーちゃん。


「そうだな……私が知ってるのは2000年以上前に存在した、世界を創造したって伝説が残ってる大木ってことかな。どこにあるのか、どんな姿なのか。知ってる人は限りなくゼロに近いって聞くね」


ラナさんがそう答える。

私もジャスミンさんも、同じようなことを言う。


『そうですか。基本的なことは理解しているようですね。では、本題に入らせていただきます』


そう言うと、シーちゃんはぽつりぽつりと語り始めた。




『今から2000年以上……いや、もっと前かもしれませんね。そのころに、私は世界樹(お母さま)の中で生まれました。

当時、お母さまの根は世界中に張り巡らされていて、私はその根を通ってこの森に辿り着き、お母さまの『目』としてひっそりと暮らしていました。

私がこの地に顔を出す以前のこの辺りの土地はかなり瘦せており、周囲に暮らしている人々もほとんどおらず、荒れ果てていました。

そこでお母さまは根を通じて私に力を送り、私を1本の巨木へと成長させ、私はお母さまから分けていただいた力を周囲に流し込むことで、今のように肥沃な土地ができ、この辺りはどんどん活気づいていきました。

突然の出来事に、人々は戸惑いを隠せないようでしたが、やがて神の恵みだと考え私を守り始めました。

そして、この地の人々は私を『太古の霊樹(シルヴァンドラ)』と呼ぶようになり、私は人々に大切にされながら辺りにお母さまの力を流し続けました。

他にも、お母さまは私の兄弟姉妹を世界各地に送り、私と同じように力を注ぎ、世界を発展させていったのです。


しかし、ある日突然お母さまが急激に衰弱し始めたのです。

理由を探るためにお母さまの元へ向かおうとしましたが、時すでに遅く、お母さまは生き残っている兄弟姉妹に残った力を分配し、そのまま力尽きてしまわれたのです。

しかも、負の連鎖は止まらず、今度は兄弟姉妹までもが急激に衰弱して、お母さまの後を追うように力尽きていきました。

原因も分からず、どんどんと兄弟姉妹は数を減らしていき、ついには私を含め5名となってしまいました。

なぜ私たち5名が生き残ったのかはわかりません。が、皆に共通して言えることは周囲の人々が信仰してくれているということでした。

おそらく、皆の信仰のおかげで私たちは生き残ることができたのです』


シーちゃんは少し間を開けて、話を続ける。


『……そして、あの惨劇から1000年以上の時が流れました。

生き残った私たちを繋ぐお母さまの根は時の流れと共に朽ちていき、私たちは連絡手段を失いました。

朽ちる直前、私たちは最後に情報共有をしました。

自らが人々から何と呼ばれているのか、今でも大切にされているのか、皆がいなくなった原因は何だったのだろうか……様々なことを話し合いました。

皆この1000年以上の時の中、それぞれ思うところがあったようで、なかなか意見はまとまらず、最終的に『人々に忘れ去られたとき、私たちは消滅する』という仮説を打ち立てました。

そして、話し合いも終わり、解散という雰囲気になったところで、『それ』は現れたのです』


『それ』という言葉をやけに強調して、シーちゃんは続きを話す。


『どこか遠く、私たちから遠いようで近いような不思議な場所から、お母さまの力の断片を感じたのです。

一瞬何かの間違いかと思い皆にも聞いたところ、皆その力を感じたと言うのです。

詳しい場所を探ろうとしましたが、その力は一瞬で消えてしまい、場所を特定することはできませんでした。が、私たちは『どこかでお母さまが生きている』と考え、『もしお母さまの力を再び感じることがあったら、死ぬ気で場所を特定して、何とかして皆に情報を共有する』という誓いを立て、解散となりました』


思っていた数十倍スケールの大きな話に困惑しつつも、シーちゃんに話の続きを促す。


「それで……どうなったの?」

『……その前に、メル。あなたに聞きたいことがあります』


突然、シーちゃんは私に話を振る。

しかも、いつもは私のことを名前で呼ばないのに、私のことをメルと呼んだ。

何か不穏な気配を感じたけど、私はシーちゃんの質問に答えることにした。


『あなたの親について、知っている限りのことを話してください』

「私の親?」


思っていた質問と違うことに戸惑いながら、私はシーちゃんの質問に答える。


「実は……私もよく知らないんだよね。気が付いた時には森の中で生活してたんだ」

『なるほど……』


シーちゃんは少し考えこむと『もう一つ質問をしてもいいですか?』と問いかけてくる。

断る理由もないので承諾した。


『ここから先、物語の続きを話す上で、あなたに関わることがいくつかあります。それを踏まえて、私の話の続きを聞きたいですか?』


私に関わること、という言葉を少し強調しながら、シーちゃんはそう尋ねる。


「私に関わることって言ったって……この話の流れで私が関わる未来が見えないんだけど?だから別にいいよ」


シーちゃんは『そうですか……』と呟き、私に話しかける。


『……あなたには、私のお母さま……世界樹の力が流れています』

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