太古の霊樹
かなり長めです。
切りがいいとこまで進めたらついつい長く……
「さてと~、無事に奥まで来れたね~」
歩くこと数十分、私たちは森の最深部にたどり着いた。
そこには、見たこともないくらい巨大な木が1本だけ生えていた。
周りに木は生えておらず、ここだけ明らかに今まで見てきた森の中で異彩を放っている。
「な、なんですかここ……」
「この森の最深部。私たちでいう心臓みたいなところだよ」
私がこの場所について尋ねると、ジャスミンさんが答えてくれた。
雰囲気からして、採集をしに来たわけではなさそう。
「そして……」
ザアッ…
少し強めの風が吹き、ざわざわと巨木の葉が揺れる。
「この木が……太古の霊樹。現存する中で最古の巨木の1本」
シルヴァンドラ……
大昔から存在する伝説の巨木って本で読んだことがあったけど、まさか実在するなんて……
「どう?メルちゃん、何か感じたりしないかな?」
「何かって言われても……」
とりあえず、もう少し近くで見てみることにした。
伝説の巨木なんてめったに見られるものじゃないし、何やらラナさんの様子がおかしいような気がしたからね。
何かこの森と関係があることなのかな……?
私は巨木の幹に触れられそうなところまで近づく。
近くで見ると、改めてこの木の巨大さがわかる。
外周だけで100mはありそうだな……
離れたところから見ても十分すごかったけど、近づいてみるとすごいプレッシャーを感じる。
何というか、ここだけ空気が違うような……
ザアッ…
さっきより少し強い風が吹き、シルヴァンドラの枝葉がざわざわと揺れる。
まるで、私たちに何かを伝えようとしているような……
「…………ん?」
ふと幹を見てみると、全体が緑色に淡く光っている気がする。
なぜだかわからないけど、私は木に手を伸ばしていた。
「…………っ?!」
次の瞬間、頭の中に断片的な記憶のようなものが流れ込んでくる。
森を駆け巡る狼の群れ。
森の北東の狼の縄張り。
8方向にある要石。
ジジッ
そして、一瞬ノイズのようなものが走って、私は膝から崩れ落ちる。
「め、メルちゃん?!」
ジャスミンさんたちが私の異変に気が付いたのか、私に駆け寄ってくる。
ジジッ
また頭にノイズが走る。
どんどん視界が暗くなっていく。
「メルちゃん!しっかりして!」
ラナさんの声が聞こえる。
その声を最後に、私の意識は途切れた。
気が付くと、一面真っ白な空間に立っていた。
どこを見ても真っ白。
どこにも、何もない。
「ふむふむ……あなたの『核』はこうなっているのですか」
後ろから声がする。
振り向いて、驚いた。
そこに、『私』がいた。
いや、姿こそ似ているが、おそらく全くの別人だろう。
まず、髪と目の色が違う。
私は銀髪に金色がかった目の色をしているけど、目の前にいる『私』は髪の色も目の色も緑色。
「ほほう……私のことを見ても全く驚かないとは……」
『私』は物珍しそうに私のことを見る。
私も、『私』のことを観察する。
見れば見るほど、よく似ている。
まるで双子のよう。
「…………あなたは……誰?」
思い切って、『私』に尋ねてみる。
「私は……太古の霊樹。この世に存在する木の中で最も古い霊樹の1柱」
いきなりとんでもないことを言う『私』。
「……」
「…………」
そして、少しの沈黙の後、『私』が私に提案を持ち掛けてくる。
「私はもう力がほとんど残っていません。しかしここは良い……とても静かで、力がみなぎってくるようです」
「は、はぁ……」
「そこで提案なのですが……しばらくあなたの中で力を蓄えさせていただけませんか?もちろんお礼はさせていただきます」
「いや……急にそんなことを言われても……」
「少しだけ!少しだけでいいんです!!私の力の一部を提供しますから!!」
「力の一部って……」
もう何が何だかよくわからない。
「…………はぁ、分かりましたよ……」
よくわからなかったけど、あまりにもしつこいので渋々了承した。
「ありがとうございます!!それともう一つお願いが……」
「まだあるんですか……何ですか?」
「先程あなたが私に触れた時に見た記憶、覚えていますか?」
「えぇ……まぁ、一応」
「あなたには、北東の要石の奪還をお願いしたいのです」
奪還……
あの狼たちと何か関係があるのかな……?
ジジッ
また、頭にノイズが走る。
視界が歪み、まっすぐ立っていることもできない。
「そろそろ限界ですね……しばらくは安静にしておいた方がいいでしょう。少しでも私の力に慣れていただかないと。……それと、要石の件……よろしくお願いしますね」
その声を最後に、私の意識は再び遠ざかっていった。