ジャスミンさんの錬金術
翌日。
昨日買ってもらった服を着て、私はジャスミンさんのアトリエに向かう。
今日するのは、この街周辺に広がる草原と森の探索。雨が降ったら延期する予定だったけど、今日の天気は雲一つない快晴。フィールドワークにはぴったりの天気だ。
私は意気揚々とアトリエへと向かう。途中通行人の人がこちらを見て笑い掛けてきたりした。
おそらく服装から、どこかの家の新人メイドか何かと勘違いされているのだろう。新人なのは間違ってないけど。
集合はお昼過ぎという話だったけど、思ったより早くアトリエを出てしまったらしく少し早めについてしまった。
どうしようか迷ったけど、外で待っていててもしょうがないので中に入ることにした。
チリリン
中は人がいないかのように静まり返っていた。
だからか、いつもよりドアベルの音が大きい気がする。
奥の方にジャスミンさんが立っているのが見えた。
目線の先には、私のものと似たような錬金釜。
これから錬金をしようとしていることは明らかだった。
ソファにはラナさんが座っていた。
ラナさんは私の方を見るとちょいちょいと手招きをした。
私はできるだけ音をたてないようにラナさんの近くまで歩く。
「ジャスミンさん……すごい集中してますね……」
「そりゃね~、あの子、錬金するときはいつもこうなんだよね~。集中力がすごくて、その分品質も高いんだよ~。まぁ時間はかかっちゃうんだけどね~」
時間がかかって当然だろう。
私も集中力は高い方だけど、周りの雑音、人の声、空気の流れ……他にもいろいろなことに気が行っちゃって、集中力を極限まで高めることができた試しがない。
その点、ジャスミンさんの集中力は底知れないものがある。
私たちの声なんてないもののように、自分の世界に入り込んでいる。
何も知らない一般の人が見ても、尋常じゃないレベルだってことがはっきりわかるだろう。
そして、私はあることに気が付く。
空気が動いている。
このアトリエには3つの窓があるけど、どの窓もしっかり閉じられていて、隙間風が入るようには思えない。
そして、空気がどんどんジャスミンさんの方に動いていく。
次の瞬間、ジャスミンさんの雰囲気が変わった。
体の周囲に空気が渦巻いているのか、ジャスミンさんのポニーテールが揺れている。
それと同時に、ジャスミンさんが薄緑色の光に包まれ始める。
その姿はまるで……
まるで……風の精霊のような……
そして、錬金釜の中から何か光り輝くものが浮かび上がっていくのが見えた。おそらく錬金ピースだろう。
ジャスミンさんは両手を前に伸ばし、錬金ピースを手のひらで包み込む。
その瞬間、周囲の空気が爆発するように膨れ上がり、強風が吹き荒れる。
なのに、机の上に置いてあるものも、棚のものも全く倒れる気配がない。
おそらく、そのあたりの風をコントロールしているのだろう。
数分もすると風がやみ、ジャスミンさんの手には斧のようなものが握られていた。
「ふぅ……ってメルちゃん?!いつからそこに?!」
どうやら集中しすぎて、私が入ってきていることに気が付かなかったようだ。