先輩錬金術師
クロウさんは私に看板を手渡してすぐ、「仕事がある」と言ってどこかに行ってしまった。
私はとりあえず、アトリエの中を一通り確認することにした。
アトリエのドアを開けると、ドアに取り付けられたドアベルがチリリンとかわいらしい音を立てる。
中に入ってすぐに、奥に大きめの錬金釜が置いてあるのが見えた。
師匠のところで使っていた錬金釜とは少し違うけど、作りもしっかりしていてちゃんと扱えそうだ。
中に入って左側を見ると、3人ほど座れそうな大きめのソファーが、大きめのダイニングテーブルのような机を挟むように2つ用意されている。
キッチンのようなものはないので、依頼者の話を聞いたり、雑談したりするようなスペースなんだろう。
収納スペースもあるから、素材ピースの置き場に困る…なんてこともなさそう。
ベッドは屋根裏にあった。
部屋の隅に思わせぶりなはしごがあったので、登ってみたら発見した。
どうやら1階は作業・店舗スペース、屋根裏が住居スペースになっているようだ。
基本的な家具は揃っていたし、特別何か足りないものもなさそう。
あとはこの辺りを少し探索しようかな。周りの地形をある程度把握しておかないと今後が大変だろうし……
チリリン
私が色々考えていると、ドアベルが鳴り中に人が入ってくる。
「ここだよね~?新しい子が来たっていうアトリエは」
「ちょっとラナ……いきなり入るのは失礼だと思うんだけど……」
「ジャスミン、少し遠慮しすぎだと思うよ~?こういうのはグイグイ行っちゃったほうが楽しいじゃ~ん」
話の内容からして、おそらく錬金術師の先輩だろう。
突然中に入ってきたことに驚いて、少し慌てていると、ジャスミンと呼ばれていた少女が話しかけてくる。
身長は私と同じくらいで、髪の色は緑色に白を混ぜたような色。
少しおどおどしているような感じがする。まぁ私も似たようなものだけど。
「ご、ごめんね、急に入ってきたりして……」
「え、あ、その、大丈夫れすっ!」
緊張しすぎて、少し噛んでしまった。
その様子を見ていた、ラナと呼ばれていた女の人も話しかけてくる。
身長は私よりも10cmくらい高い。あと胸も。
髪は金髪。腰のあたりまで伸ばしていて、どこか男の子のような無邪気な雰囲気を感じる。
ちなみに、ジャスミンさんはポニーテール。すごく優しそうな人。
「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ~?挨拶しにきただけだからね~。ボクはラナンキュラス。錬金術師だよ~。気軽にラナって呼んでね~」
「あ、私もまだ名乗ってませんでしたね!ジャスミンといいます!18歳です!身長は……」
「あはは、ジャスミン固くなりすぎ~」
そんな会話をしているのを見て、私も名乗っていないことに気が付いた。
「あ、えっと……メルといいます。帝都に来るの自体初めてなので、いろいろと教えていただけると嬉しいです……!」
「メルちゃんっていうんだね~。これからよろしくね~」
「メルさん、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
錬金術師の先輩とのファーストコンタクトは、何とかうまくいったみたい。
「あ、そうだメルちゃんさ~、この後時間ある~?」
「え、あ、はい。特に予定もないです」
「じゃ~さ~、この街案内しがてらちょっと採集しにいかな~い?もちろんジャスミンも来るよね~?」
「え?あ、うん……私もこの後特にやることないし、そろそろ素材が尽きそうだったから、よければ行きたいな」
「じゃあ決まりね~。んじゃ、まずは軽く街の中を見てまわろっか~」
そんなこんなで、街の中を探検することになった。
軽く探索するのは大事。
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