第8話 作戦 ※グエリー視点
顔には出さなかったが、驚いた――。
エリスをダメ元でお茶会へ誘ったのだが、まさかの了承をして貰えたのだ。
これまでずっと逃げられていただけに、誘っておいて言うのもなんだが意外だった。
ノイアー様もご一緒なのは完全に想定外だったが、それを差し引いても大きな成果と言えるだろう。
あのエリス・リュミオールを、己のモノに出来る千載一遇のチャンスなのだ。
この好機、絶対に逃してはならない。
――しかし、エリスは誰を誘うつもりなのだ?
エリスの言う、お茶会へ誘いたいという人物。
あの時は強がっているだけだろうと思ったが、仮にそれが真実だとするならエリスは一体誰を誘おうというのだ……?
もしかして、男だろうか……いや、あのエリスに限ってそれはないだろう。
俺ですら、エリスにはこれまで全く近づく事すら出来なかったのだ。
あり得るとしたらノイアー様ぐらいだが、そのノイアー様はそもそも今回参加されるのだから違う。
だから誘ってくるとすれば、それはまず女性と見て間違いないだろう。
女性が増える分には、何も問題はない。
エリスが連れてくる女性だ、きっと容姿も良い事だろう。
つまりこれは、一石二鳥。
連れてくる人物ごと、手に入れてやればいいだけだ。
――問題があるとすれば、ノイアー様か。
あの方は、正直何を考えているのかよく分からない。
女性からの人気を自分と二分している、この学園で唯一自分より高貴な存在。
そんなノイアー様が、今日のお茶会へ自ら参加すると申し出てきたのだ。
それはつまり、ノイアー様もエリスに気があるということだろうか……?
真意こそ不明だが、そう考えるのが一番自然。
最も厄介なライバルの出現に、俺は頭を悩ませる。
――まぁいい、今は考えても仕方がない。それよりも、どうエリスを手に入れるかだけに集中せねば。
狙った獲物は、絶対に逃がしてはならない。
それが、これまであらゆる面で成功を収め続けてきたシュバイン家の家訓。
だからこそ、ここでエリスを取り脱がしてはシュバイン家の名折れ。
これは最早、俺個人だけの問題ではないのだ。
エリスの喜ぶ事は何なのか、そのヒントとなる何かが無いかと思考を巡らせる。
しかし、考えれば考えるほど自分がエリスについて何も知らない事に気付かされる。
他の女性とは違い、全く一筋縄ではいかない至高の存在。
ただそこに存在するだけで、他の全てが霞んで見えてしまう程の圧倒的な美貌。
彼女を手に入れる事こそ、男性としての極致。
そのためなら、他の女性を全て失ったって構わない――。
今は授業中だが、今日ばかりは全く授業に集中できない。
これまで欲しいものは全て手に入れてきた俺は、ある意味毎日を退屈していたのだ。
けれど、今の俺はワクワクしている。
ただ予定が合っただけで、これほどまでに興味を引き付ける存在などこの世界にそう多くは居まい。
だからこそ、エリスは何としてでも自分のモノにしなければならないのだ――。
そんな強い欲求を抱けるだけで、今日の俺は頗る機嫌が良くなる。
まずは今日の放課後、最高のもてなしと共にエリスの気を惹くため、俺は授業そっちのけで作戦を練りだすのであった。