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第6話 お誘い

 ――さて、どうしましょうか……。


 今朝、私は妙案を思いついて、放課後のお茶会へのお誘いを了承してしまいました。


 しかしその妙案というのは、あくまで案。

 肝心のお相手から、まだ了承をいただいてはいないのです。


 そんな根本的な事に今更頭を悩ませながら、私はそっと教室の片隅へ目を向ける。

 そこでは、今日も一つの席へ三名の女生徒が集まって、何やら楽しそうに会話をされている。


 ――あそこに割って入るのも、気が引けますね……。


 早くこのモヤモヤを解消させたいけれど、自分の事を優先させて他人の時間を奪う事はできない。

 そんなものは、物語の中に出てくる横暴な貴族と同じになってしまうから。


「……はぁ、どうしましょうか」


 私は小さく溜め息をつきながら、そっと席を立つ。

 とりあえず、私も人に囲まれないうちにお手洗いを済ませておきましょう。

 大丈夫、必ず隙はあるはずだと自分に言い聞かせながら、一度気持ちをリセットさせる事にしました。



 ◇



「あ、エリス様……」


 しかし、機会は以外なタイミングで訪れる。

 お手洗いから教室へ戻る道中、私はお目当ての相手と偶然鉢合わせたのです。


 私のお目当てのお相手、それはユアンさんでした。

 この間のお昼休み以来、私はずっとユアンさんの事が気になっておりました。

 もっと色々と、お話を伺ってみたいと考えていたのです。


 でも私もユアンさんも、休み時間はよく誰かに囲まれております。

 だから今日まで、ろくに会話をする事も出来ていなかった私は、今回のお茶会が良い口実になると考えたのです。


「ユアンさんっ!」


 そのせいもあって、私はつい嬉しさが態度にも出てしまう。

 ずっとお話したいと思っていた方から声をかけてくださったのです。

 そんな、一気に憂いの晴れた私に、ユアンさんが驚いてしまっている事に気付く。


 ――いけない、少し取り乱してしまいました。


 気を取り直した私は、この絶好のチャンスに用件を伝える事にしました。


「あの、ユアンさん! 本日の放課後、ご予定はございますか?」

「え!? ぼ、僕ですか!?」


 しかしユアンさんは、やっぱり驚いてしまう。

 何故自分のご予定を聞かれているのか、全く理由が分からないといった様子でした。


「ええ、実は今日の放課後に、グエリー様の開かれるお茶会にお誘いいただいたのです」

「お、お茶会!?」

「はい。あ、でもご安心ください。私達だけでなく、ノイアー様もご参加されますので」

「ノ、ノノノ、ノイアー様ぁ!?」


 ノイアー様の名前に、更に驚いてしまうユアンさん。


 ――そうでした。私達の当たり前が、他の方の当たり前ではありませんでしたね。


 うっかりしておりました。

 ノイアー様は、この国の第一王子なのですから尚更でした。

 そんな、当たり前の事に今更ながら気付いた私は、慌てて補足する。


「だ、大丈夫ですよ? ただの健全なお茶会です!」

「け、健全とは!?」

「確かに!」


 自分で言っておいて、健全なお茶会とは一体何なのでしょうか。

 不健全なお茶会が存在するならば、むしろそっちに興味があります。


 ……しかし、困りました。

 補足しようにも、何て補足すれば良いのか分からない。

 こういう時、自分の交友経験の少なさが仇となってしまう。


 であれば、ここはもう理屈ではなく、情に訴えかけるのが得策――!


「その、私は……ユアンさんともっと、お話がしたいのです」

「ぼ、僕とですか?」

「ええ、駄目、でしょうか……?」


 懇願するように、あるがままをお伝えする。

 ここで断られれば、素直に諦める事にしよう。


 お二人には友達がいる宣言をしてしまいましたが、駄目なものは仕方がありません。

 そんな私からの、まさに一か八かのお願いごとに、ユアンさんは考え込む仕草を見せる。


 そして――、



「……じゃあ、分かりました。作法とか色々分からないのですが、僕が参加してもよろしいのでしたら……」



 悩んだ末、ユアンさんは許諾してくださいました。


「まぁ! 本当ですかぁ!?」


 込み上げてくる嬉しさをそのまま、全開に表へ出す私。

 そんな私に対して、ユアンさんはまたどこか困惑してしまっているように見えます。


 でもこうして、お願いする事はやはり大切!

 無事ユアンさんも、放課後のお茶会へご参加いただけることになったのでした。



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