表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

恋の季節は終わらない

「だから、私ヴァルとテストの順位で争えるの嬉しかった。

私に魔法のコツを教えてくれた人と争えるのが嬉しかったし、ヒト族の私が獣族のヴァルと対等に渡り合えるのはテストしか無かったから頑張ったんだ」


そうだったんだ、と彼は呟く。


「俺も、ノノに振り向いて欲しくてテスト頑張ってた」


「そうなの!?」


「ああ。

ノノはセスタとかと仲良いから、きっと真面目な奴が好きなんだろうと思って……」


フィムフィム先生の言葉を思い出す。


—彼は今年から特に努力している。それを周囲に見られないようにしているようだが、教師には分かるものだ


「フィムフィム先生が今年からヴァルは努力してるって言ってた」


そう告げると彼は耳をピンと伸ばし、それからパッと顔が赤くなっていった。


「……ノノと同じクラスになったから頑張ろうと思ったんだよ」


「ふふ、そっかあ。

嬉しい。私、すごく嬉しいよ」


ヴァルも嬉しそうに目を細める。

彼を見つめ、「ごめんね」と小さく謝った。


「惚れ薬なんてもの飲ませようとして」


「毛生え薬は勘弁して欲しいけど。

惚れ薬ならいくらでも飲むよ。こんなに惚れてるんだから飲んだって単なる水と変わんない」


彼は身を屈め私の顔を覗き込んだ。


「大好きだよ」


ちゅ、と音を立てて頬にキスされた。

その瞬間に胸の内から嬉しさや恥ずかしさや、暖かくてキラキラしたものが溢れ出して止まらなくなる。

私も彼に顔を寄せ頬にキスを返した。


「私も大好き」


「ああ……可愛い。

なあ、ノノって恋の季節がどんなものかどれくらい知ってんの?」


「え? どれくらい?」


急な質問に私は首を傾げる。


「好きな人に対して情熱的になるってことかな?」


「それだけか。そっか」


ヴァルは私をぎゅっと抱き締め首筋に顔を埋めた。


「俺、ノノと二人きりになりたい。誰にも邪魔されない場所で二人でゆっくり話したりしたいんだ」


「うん、しよ」


「できればこのまま」


「もちろん良いよ」


「朝昼晩ずっと一緒がいい」


「……ん?」


「学校もしばらく休もう」


「んん?」


「他の男の匂いがするの耐えられないんだ。ノノは俺の恋人なのに。

だからしばらく二人きりで過ごそう」


「えっと……?」


「俺の家来て。ノノの部屋も用意するから好きなだけそこで過ごして」


「なるほどね!」


私はヴァルの肩を掴んで引き剥がす。


「これが恋の季節ってことか」


「そう。二人きりになりたくて仕方ない。

テストも二人で勉強すればなんとかなるだろ?」


「いや、授業聞くのが一番良いよ」


ヴァルはまだ「でも」とか「だって」とか言って言い募ってくる。

耳を下げてこちらを伺うその様子はとても……可愛らしい。

可愛らしいがここで流されたらいけないと拳を握る。


「ダ、ダメ」


「どうしても?」


尻尾が哀しげに垂れる。

なんたる罪悪感……。


「なら……ずっとじゃないけど授業終わったらヴァルの家にお邪魔するのは? 夜になったら私は寮に戻るけど」


「……分かった」


渋々といった様子で頷く。ひとまず納得してもらえてよかった。


「テスト勉強頑張ろうね」


「……次のテスト俺が一番取ったらご褒美貰えない?」


「ご褒美……?」


彼は身を屈め私の耳に「キスして」と囁いた。


「へっ!? あ、でも、さっきした」


「唇同士のやつ。

……嫌?」


「嫌じゃないけど」


自分の赤くなった頬を擦る。


「……それだと私、手抜いちゃうからダメ……」


ヴァルの目がキラキラと輝きだし尻尾がブンブン揺れる。


「ノノ……!」


彼はまた私を抱き締めた。もう10回以上は抱き締められてる気がするが、それでも嬉しくて心臓が飛び跳ねる。


「わ、わ! 落ち着いて」


「落ち着けるかよ。あー。可愛い。大好き」



*


先生に配られるテストの結果。

二つに折り畳まれたそれを、私は慎重に開けた。

名前の横には「1」と書かれていた。


「やった」


私は小さくガッツポーズする。

1位だ!


クィハもセスタも嬉しそうに「1位良かったね」「おめでとう」と祝ってくれる。


「ありがとう。でも今、こ、声に出てた?」


「うん、いやそうじゃなくてもわかる」


セスタがニヤニヤしながら後方の席を指さした。

先には、ヴァルが結果用紙を握りしめ机に突っ伏していた。


「あれじゃどう見てもノノの勝ち」


「おめでとう。でも随分な落ち込みようね?」


クラスのみんなテスト結果を見せ合うように教室を歩き回っている。私はその波に乗ってヴァルの席に近付いた。


「ヴァル」


彼はゆっくりと身を起こした。


「……ノノ1位だったんだろ」


「うん」


「はあ」


ヴァルの結果用紙には「2」と書かれている。


「ふふ、私の勝ちね」


私がわざとらしく勝ち誇るがヴァルはため息を返すだけだ。


「どうしたの? いつもより落ち込んじゃって」


「ご褒美……」


ヴァルの言葉に思わず咳き込む。


「あ、あれ無しじゃなかったんだ」


「当たり前だろ。

でも……2位か……。めちゃくちゃ頑張ったんだけどな」


またはーっと重いため息を吐くヴァル。

私は彼の方に身を寄せ、小さく呟く。


「……私のご褒美ちょうだい」


伏せられていたヴァルの耳がゆっくりと立ち上がる。尻尾がブンブンと大きく揺れ始めた。

ヴァルは突然立ち上がると「先生!」と声を上げた。


「どうしましたか?」


「俺とノノ、二人とも猛烈に体調が悪いので帰ります!」


「そんな声量で話せるなら元気でしょうが」


先生の鋭いツッコミに周りの生徒たちがどっと笑い出す。

私もつられて笑うとヴァルは納得がいかなそうに眉を寄せていたが、やがてまあいいかと唇を綻ばせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ