せめてあなたへ
本日は3本立てです。前話「奏でるは海の音」と今話「せめてあなたへ」、最終話「青いトンネルの向こうには」をお楽しみください。
3週間ぶりの荻島で変わった事といえば、昼が少し暖かくなっていた事と工事関係者の人が多くなった事。
開発区域は関係者以外立ち入り禁止の看板が立ち、大きな重機と砂利運搬船が沿岸の開発を進めている。
ダイナミックな海が売りだった『カシマダシ』は、今では講習と体験ダイビングをするビーチに様変わりしてしまった。
あの『身丈岩』に住んでいたカンパチたちはどうしているのだろうか。
もしかして『荻浦』に移り住んではいないだろうか。
「みんな変わっていくね」
寂しそうにつぶやくのは佑斗さんだった。
「そうですね。でも、きっと変わってゆくからこそ、みんな大切なものを見つけたり、その想い出を大切にしていくんだと思います」
「 ..だね」
『(そんなに寂しそうな目をしないで.... )』私の心の声は彼に聞こえてしまうくらいに胸打っていた。
「佑斗さん、あまり思いにふけっているとすぐ『おじさん』になっちゃいますよ。それじゃなくても私より年上なんですから」
「ははは。たった4つだろ」
「佑斗さん、私、3月いっぱいでここを去ることに決めました」
「 ..そろそろだと思っていたよ」
「私.. 私ね。やっとわかったんです。いろいろな事が起きて、私の大切なもの全てが目の前から消えてしまった気がしていた。でも違った。私の大切なものはいつでも、いつまでも私が進むべき道にちゃんとあった。だから、今、私は岩を掴みながらでも前に前に進もうと思ってます」
「そっか....また戻るんだね。進むべき道に」
「はい。進むべき道に」
「俺は―」
「佑斗さん! 私、5月にルクセンブルクへ旅立ちます。そこに父と親交のあったバイオリンの先生がいるんです。私、そこで頑張ってみようと思います。私はかなり立ち止まってしまったから、どこまでやれるかはわからない。もしかしたら一流にはもうなれないかも。それでも目指してみたいんです。だってそれが私と父の目指していたものだから....
ありがとう、佑斗さん。佑斗さんのおかげだよ。岩に立っている私のところに佑斗さんが来てくれたから今の私があるんだ。身丈岩に佑斗さんが迎えに来てくれたから、私は前に進むことができた。本当にありがとう」
佑斗さん、ありがとう....私を想ってくれて....
でも、今、私はその想いに応えることが出来ません。
だから......だからせめて、私の唇を想い出として残させてください。
私も佑斗さんの事 好きです。
佑斗さんはその腕で私の身体をしっかりと受け止めてくれた。
引き続き、最終話「青いトンネルの向こうには」をお楽しみください。




