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第2章:ヒールじゃなくなったんだからヒールは要らなくない?(4)

 はいッ! 悪役女帝になりたいです! 今すぐに!!


 お人形さんみたいな笑顔で立つわたしは、その裏で、先程の決意を超光速で覆したい怒りに駆られていた。


 パーティが始まって、小一時間。わたしは皇帝の横で、次々とやってくる貴族達の挨拶に、ひたすら笑顔で黙ってうなずく、という行為を繰り返していた。

 どこそこ家のなになに侯爵だの、ふんにゃら領のヘレヘレ辺境伯だの。偉い順に来てるんだろうが正直わたしにはさっぱりの紹介が呼ばわれれば、精一杯にめかしこんだ、大体が横に大きめなおっさんがたがわたし達の前に進み出てきて、アーリエルーヤの誕生を祝い、その美しさを讃える口上を述べる。


 それが長い。長いんだよ!

 犬や桜と会話した話を定期的に繰り返し、朝礼で貧血者を続出させた、中学校の校長の話より長いわ!


 いっそこのまま後ろにふらっとぶっ倒れようかと思ったけれど、父皇帝の手前、彼の面子メンツを潰す訳にはいかない。そんな事をしたら、本当に見限られてしまう。

 何とかかんとか耐え切って、最後の貴族の挨拶が終わり、ほっと息をつくと。


「さて、儂の天使ちゃんよ」


 鼻の下をデレッデレに伸ばした皇帝がわたしの方を向いたので、慌てて表情を取り繕い、柔らかい笑顔で見つめ返す。


「何ですの、お父様?」


「お前をこの手から飛び立たせるのは、父としては非常に寂しいものがあるが、これもお前の将来の為だ、仕方が無い」


 ん? んん? 何を言っているのだ、この人は?

 頭の中が疑問符で一杯になるが、表面は穏やかさを保ったまま小首を傾げると、皇帝は腕を差し伸ばして、大広間の真ん中を示した。

 そこには、あらかじめ待機していた楽団が、楽器の調音を始めている。


 ま さ か な ?


 嫌な予感で口元が三日月を象ったまま固まってしまうわたしに、皇帝は宣った。


「さあ、お前が気に入った男と踊っておいで。今日はお前が主役。将来の婿に相応しい相手を見つけると良い」


 ハイキターーーーーーーーーーー!!!!!


 来るよね、そりゃあ来ますよね!?

 社交界で踊りながら婿探し。そういう文化がこの世界にあるって、「わたし」が確かに書いたもの!


 やらなきゃいけませんか。この服装でやらなきゃいけませんか。はいそうですね、皆やってましたものね。

「わたし」の書いた話の中の人物ができて、「わたし」にできないはずが無い。ましてや、この東の大陸(エス・レシャ)の最大帝国皇女アーリエルーヤならば、そつなくこなしてみせねばなるまい。


「ありがとうございます、お父様。お気を遣っていただいて、わたくし、本当に幸せ者ですわ」


 機嫌を損ねないよう、目一杯のお礼を言えば、たちまち皇帝の顔がとろんと蕩ける。

 いやー、本当にチョロいですね貴方。

 ……とは言わずに、スカートの裾を持って優雅な礼をし、姿勢にめちゃくちゃ気をつけながら、ゆっくりと大広間の真ん中へ進み出る。


「おお、改めて間近で見ると、なんとお美しい!」


「流石は光吟士の直系であられる皇女様だ」


 貴族達が囁き交わす声を、楽団の曲がかき消す。

 円舞曲ワルツが始まった。そして、アーリエルーヤ(わたし)の勝負も。


 ここで恥をかいて、破滅フラグをおっ立てる訳にはいかないのだ!

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