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第2章:ヒールじゃなくなったんだからヒールは要らなくない?(3)

「死……死ぬ……死にます……」


「なーにをおっしゃっているのですか、アリエル様! 人間はこの程度で死ぬほどやわに生まれてはおりませんことよ!」


 生まれたての子鹿のようにへろへろしているわたしの背中を、ヘメラがばしんと勢い良く叩く。やめてやめて。まじ死ぬ。死ななくても、倒れる。


 迎えたアーリエルーヤ(わたし)の誕生日。息が詰まるような下着で腰をぎうぎう締められて、布を使い過ぎて重たい白のドレスを着せられる。あれか。平安時代の十二単じゅうにひとえってめちゃくちゃ重いって聞いた事あるけど、そんなかんじか。

 そしてとどめに、足元。十センチはあるんじゃないかっていう高いヒールの靴を履かされて、めっちゃ足がぷるぷるしている。立てない。立てないじゃろこれ! バランスが取れないだろ!


『やあだー! そんなぺたんこの靴を結婚式に履いてきたのー? 常識って考えた事あるー?』


 わたしが「わたし」だった頃、花嫁よりケバケバしい格好をしてお前の方が常識的にどうなんだ、という相手に嘲笑われた事を思い出す。

 いや、忘れろわたし。今はそれどころではない。


 わたしはこれから、皇帝陛下主催の皇女誕生パーティで、初めて正式に貴族達の前に出る。社交界デビューってやつですね。

 はいそこ。社交界デビューは十六歳頃からだろうって? リアリティ警察はお引き取りください。この東の大陸(エス・レシャ)ではそうだって、「わたし」が決めたんだ!

 しかし、噂には聞いていたというか、資料で読んではいたし、書いたのは「わたし」だけど。昔のなんちゃってヨーロッパな国のドレス、半端無いです。これで背筋を伸ばして歩けって方が無理だわ。

 でも、泣き言は言っていられない。

 ここでパーティに出られませんなんて言ったら、せっかく回避した、父親との確執フラグがまた立ってしまう危険性がある。


 まあ、金髪になったあの日からの皇帝のデレっぷりを見る限り、その可能性は果てしなく低い。


『んもう、仕方無いな儂の天使ちゃんは~! じゃあ延期するかの~!』


 今の皇帝なら、それくらいの言動をやらかしてくれるという、謎の信頼感が芽生えているが、やはり危険の芽は慎重に、しかし潔く引っこ抜いておきたい。


 明日は筋肉痛。


 それを覚悟して、出来る限り背筋を正す。広がったスカートの裾を軽くつまんで、しずしずと歩み出す。

 別にお姫様気取りじゃあないんですよ。本当にこの速度でしか歩けないんだわ。

 そんなこんなで、普通の靴なら三分もあれば行ける城内の距離を、たっぷり十五分はかけただろうか。パーティ会場である大広間の扉前に辿り着く。


「アーリエルーヤ皇女殿下の、おなりである!!」


 衛兵が高らかに声を張り上げると、大きな扉が開かれる。


 さあ、これからが、アーリエルーヤが『悪役女帝』になる道を全力で回避する道程の、本番だ!

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