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第2章:ヒールじゃなくなったんだからヒールは要らなくない?(2)

「……ッアー……」


 最悪な目覚めだ。

 過去のトラウマてんこ盛りの夢。「わたし」だった頃、何度も見た。

 それは「アーリエルーヤ」になってもわたしを追いかけてくる。


 だけどな。


 それが何じゃいバカヤロー!

 普通面白くないとかダサいとか三十年古いとか面と向かって言わんじゃろ!

 自分の子供を恥さらしとかこき下ろすの毒親の極みじゃろ!

 横目で見てるんじゃねえんだよ誰だって自分の事言われてたら視線が向くに決まってるじゃろ! それをお前らからも見てるじゃろ! てめーらの事棚に上げるんじゃねえよボケナス! モラハラで訴えるぞ!!


 ……とまあ、「向こう」では言えなくて、言う勇気も無くて、病んだ訳だが。


 たぶん、転生したきっかけも、歩道橋の階段から落ちたアレだろうな。痛い思いを覚えてなくて、良かった良かった。


 とにかく今はもう、「向こう」とは関係無いのだ。

 何せわたしはアーリエルーヤ! 絶世の美女(になる予定)の帝国皇女!

 悪役女帝として身を滅ぼすはずだった最初のフラグを全力でへし折った!

 これからは、今後訪れるだろう破滅フラグを、華麗に回避してゆけば良いのだ。

 何せここはわたしの作った世界。わたしよりこの物語を把握している人間はいな


「ハアーイ! おはよう儂の天使アーリエルーヤちゃーん!!」


 バァン! と。

 寝室の扉が勢いよく開かれ、満面の笑みというか、ほとんどにやけた笑みを浮かべた壮年の男性がずかずか入ってくる。


「んまあああ、皇帝陛下! あれほどお止めしたのに、嫁入り前の皇女様の寝所へお入りになるなど!」


「だって、この地上に舞い降りた天使に、最初におはようを告げたいという儂の気持ち、誰も止められないだろうが! ヘメラ、貴様は何年我が愛娘に仕えておるのだ!?」


「お生まれになった時からですから、もうすぐ十二年ですわね」


 ハイテンションの皇帝陛下に対し、アーリエルーヤの乳母は至極落ち着いた口調で返した後、


「まあ、アリエル様が地上に降り立たれた天の御遣いなのは、大いに同意いたしますが」


 と、しれっと付け足した。

 アーリエルーヤに甘い奴、多い。

 というか、皇帝。お前そんなキャラだったのか!

 七歳のあの日以降の、アツい手のひら返しという名の甘やかしと贈り物の数々に、わたしは心底吃驚(びっくり)したぞ! 髪色変えただけで即落ちか!!

 しかもこの金髪、一度脱色をやってから五年経つけど、まったく黒髪に戻らないんだな何故か! 本当に光の精霊(ル・クス)の加護がわたしに宿ってるんじゃないかと勘違いするぞ!?


 ……などと思いつつ、わたしはゆっくりとベッドの上に身を起こし、小首を傾げて笑んでみせる。さらりと髪を肩に流し、それはそれは優雅に。魅了する程に可愛らしく。


「おはようございます、お父様。今日も良いお天気で、お父様の治世の揺るぎ無さを表しているようなお空ですわ」


 たちまち皇帝が目を見開く。じわじわ口元が緩んでゆく。


「ああ~! アーリエルーヤは本当に儂の天使だな~! いやっ、女神! 天神ウラノスが儂の為に遣わしてくれた、最っ高の女神の化身だ!」


 チョロい。皇帝、本当にチョロいぞお前。

 わたしのにこにこ笑顔は、そこらの乙女ゲームの攻略対象よりチョロい父皇帝に対する呆れ半分、親しみ半分である。


 だが。


「しかし、この儂の女神を、そろそろ一人前の淑女にする時が来てしまうとは……。時間の流れは無情だの」


「仕方ありませんわよ、陛下。アリエル様はいずれこのリバスタリエルを背負って立つお方。必要な段取りでございます」


 皇帝がしょんぼり肩を落として呟いた言葉と、ヘメラの慰めに、わたしは傾けた首の角度を深くする。

 何を言うてるんだ、この人達は。


「アーリエルーヤよ」


 ぽかんとしているわたしに、皇帝は両腕を広げて宣った。


「来週はお前の誕生日。十二の歳を祝う宴を盛大に開くと共に、貴族達にお前の姿を正式にお披露目しようぞ!」

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