第7章:物語はわたしが紡ぐ(7)
ははあー……なるほど。
転生したのは、「わたし」だけじゃなかったって事ですか。わたしが「アーリエルーヤ」に入ったら、「わたし」は空っぽになるから、そこにアーリエルーヤが入った訳ですか。
取り替えっこ。わかってしまえば納得もゆく。
「本当に『わたし』なの、その身体? 吃驚したんだけど」
「同じ事を言い返すわよ、その金髪。良く考えたものね」
わたしが涙を拭きつつ立ち上がると、「わたし」の姿をしたアーリエルーヤは腕組みして見下ろしてくる。向こうがヒールのある靴を履いているから、実際の身長以上に目線の高さが違うのだ。
……ヒール、履いてるのかあ。わたしなんてバキ折ったのに。
しかし、「向こう」であの両親とあの環境で、苦労しなかったんだろうか。元『烈光の女帝』なら、それこそ悪魔を喚び出して何もかもを焼き尽くしそうな予感すらするが。
「心配しなくても、良い人生を送っているわよー」
アーリエルーヤが、両手を振って本当に嬉しそうに笑う。なんか、わたしの思考ってことごとく相手に読まれてるな。
「株で儲けて楽をさせたら、両親は何も言ってこないし。学校の授業は『そっち』で受けた勉強より簡単すぎて、万年一位。いじめようとしてくる奴は片っ端から社会的に潰したし、城の連中みたいにおべっか使いじゃない友達もできて、毎日楽しいったら。ああ、今度会社で大きなプロジェクトを任されるわね、腕が鳴るわ」
あ、そうですか。
わたし結構勉強必死だったんだけど。次期皇帝として英才教育を受けたアーリエルーヤの前には、赤子の手を捻るくらいのものだったか。
しかし、いじめは片っ端から社会的抹殺とか、アーリエルーヤらしくて笑ってしまうし、娘に養ってもらったら干渉しなくなった両親、我が親ながらわかりやすすぎるー……。一人で頭を抱えていると。
「貴女も、『そっち』で楽しくやってきたんでしょう?」
アーリエルーヤが顎に手を当て、可愛らしく小首を傾げてみせる。「わたし」が絶対にしなかった仕草だ。多分、この愛らしさで、男女問わずモテてるんだろうな。
「 」
アーリエルーヤが呼ぶ。「わたし」の名前を。
「この名前は、わたくしがもらってゆきます。だから」
とん、と。
きちんと爪にマニキュアを塗った指が、わたしの胸に当たる。
「『アーリエルーヤ』の名前とそれに付随する全部、貴女にあげる。せいぜい東の大陸に名を轟かせる皇帝になる事ね」
そこまで言われちゃあ、退く訳にいかない。
それに、悪役女帝として破滅の道を辿るはずだった「アーリエルーヤ」も幸せになれたんだ。そうわかったら、今更全部元に戻す気は無い。
「やってみせるわよ」
「やってみせるが良いわ。報告を聞く機会は、もう無いだろうけれど」
腰に手を当て胸を張れば、アーリエルーヤもにっこり微笑んで、小さく手を振り、踵を返す。その姿は白に溶けて、やがて見えなくなった。




