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第1章:何事も初めが肝心でしょう(4)

 数日後。

 わたしは皇帝への謁見を申し出た。

 正直、アーリエルーヤはめちゃくちゃ疎まれているから、はね除けられるんじゃないかと思ったんだけど、割とあっさり通った。


「アリエル様、ほんとーうのほんとーうに大丈夫ですの?」


 心配顔で訊いてくるヘメラに、わたしはやんわりと微笑みかける。


「大丈夫よ、ヘメラ。絶対に」


 謁見の為に、皇女らしいドレスに着替える。うん、資料本で読んでいた以上に動きづらいな、これ。一種の拷問では?

 改善の余地を考えながら、リバスタリエル皇城内を歩いて、謁見の間へと辿り着く。

 扉の両脇を守る衛兵が、わたしを見てぎょっとした顔を見せた。

 けど、そこは流石プロの兵士と言うべきか。すぐさま真顔を取り戻して高らかに声を張り上げる。


「リバスタリエル帝国第一皇女、アーリエルーヤ様! 第五十七代皇帝、光吟士グランドル・バル・リバスタリエル陛下を御拝謁!」


 光吟士の守護精霊である光の精霊(ル・クス)が彫刻された、扉が両側に開く。

 わたしは凜と顔を上げ、自信たっぷりに謁見の間へ踏み込む。


 途端。


 謁見の間にいた人々が、ざわめいた。

 騎士達も、家臣団も。側室達も。

 アーリエルーヤ(わたし)を見て、驚きの囁きを交わしている。

 唯一人黙っているのは、玉座に収まる皇帝。彼だけが、沈黙を保って、だけど目は驚きに見開いて、わたしを見ている。


「御機嫌よう、お父様」


 わたしは精一杯の笑みを顔に乗せ、胸に手を当てて頭を下げる。

 その視界の端で流れる髪は、金。


 そう。

 アーリエルーヤの髪は今、黒ではなく、光吟士に相応しい金色に変わっていたのだ。


「……アーリエルーヤ」


 精一杯の平静を装っているけれど、確実に震えている皇帝の声が、鼓膜を叩く。

 訊かれる前に、わたしは先手を打った。


「お喜びください、お父様。わたくしは、光吟士としての力を手に入れました。お父様と同じこの髪が、何よりの証拠です」


 皇帝の目は更に真ん丸くなり、どよめきが増す。


 まあ、早い話、仕込んだんですが!


 着色料がある文化なら、脱色剤もあるじゃろと、医師にヘメラを遣わせて手に入れた薬。

 この世界に、『そんな風に使う』という認識が全く無かったのが幸いだった。


 晴れてアーリエルーヤの漆黒の髪は、きらっきらの黄金へと変化したのである。

 脱色効果を知らない人間から見たら、それこそ奇跡だろう。


「……本当に」


 皇帝が玉座を立ち、よろよろときざはしを降りてくる。


「光吟士の力に目覚めたのか」


「はい」


 神妙に頷けば、壮年男性の逞しい腕が伸びてきて、すっぽりとわたしを包み込む。


「……すまなかった、アーリエルーヤ」


 わたしにしか聞こえない声量で、謝罪が降ってくる。


「お前を、お前の母を疑い続けた、儂を許しておくれ」


「許すも何も」


 わたしはふるふると首を横に振り、七歳の少女にできる限り腕を伸ばして、父親の身体を抱き締め返す。


「わたくしは最初からお父様の娘ですもの。いつかはきっと、お父様を安心させられると信じておりましたわ」


 謁見の間は、今度はしんと静まり返っていた。

 いつもアーリエルーヤを嘲笑していた側室達も、「光吟士の目覚め」に、口を閉ざすしか無くなってしまったのだ。


「アーリエルーヤ、今度共に遠乗りに行こう。そこでゆっくり話し合おうではないか。父娘水入らずでな」


「はい、お父様」


 我が創作物ながら物凄い勢いの手のひら返しだな皇帝! と思うけど、まず第一の破滅フラグは回避できただろう。ありがとうわたしの知識。


 ただこれな。

 副作用でめっちゃ痒いんだ。


 掻きたい! 頭掻きむしりたい!

 かっゆうー!!


 表向きは父娘おやこの感動の絆を見せつけながら、わたしの頭の中では、超音速で「かゆい」が駆け巡っているのであった。

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