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第1章:何事も初めが肝心でしょう(3)

 我が家の煎餅布団とは違う、ふかふかの布団に身を沈めながら、天蓋を見上げて思考を巡らせる。

 アーリエルーヤが悪女と化すのは、父親に嫌われて、顔を焼かれたから。

 なら、それを回避しなくてはならない。そう、全力で!

 だけど、ただ機嫌を取るだけでは、父娘の溝は埋まらない。わたしはそれを良く知っている。

 皇帝がアーリエルーヤを厭う最大の理由を、手で摘まんで、顔の前にかざしてみせる。


 金髪が常だった『光吟士こうぎんし』にあるまじき、漆黒の髪。


 これが原因で、アーリエルーヤの父親は、正妃が不義を為したのではないかと疑い、彼女を後宮の奥深くに閉ざした。

 だけど、その後多くの側室を娶っても、何故か子供は一人も生まれなかった。

 黒髪の鬱陶しい娘だけが育つのを、皇帝は苛々しながら見ていた。

「わたし」は知ってる。だって「わたし」がそう設定したから!


 一刻も早く手を打たなければ、アーリエルーヤ(わたし)の顔は、物語通り焼かれてしまう。

 恨みとかどうとか以前に、そんな熱痛い思いするの、嫌じゃろが!


 だけど、どうすれば良い?

 ごろりと寝返りを打って、膝を抱えると、部屋の扉がノックされた。


「アリエル様、起きられますか? お食事をお持ちしましたわよ」


 そうだ、ヘメラは後で来るって言ってたわな。

 一旦思考を横に置いて、「大丈夫よ、入って」と返せば、扉が開き、ヘメラがカートを押して入ってきた。

 のろのろと起き上がり、寝間着の上からケープを羽織って、小さな卓につく。そうすれば、ヘメラが慣れた手捌きで卓の上に食事を展開してゆく。

 ベーコン、レタス、トマトを挟んだサンドイッチ。まだ湯気を立てるコーンポタージュ。焼き菓子に、林檎の香り豊かな紅茶。


「ありがとう、ヘメラ」

「お礼ならば、食事を用意してくださった料理長になさいませ。アリエル様の好みをよおく把握しておりましてよ」


 うん、知ってる。これぜーんぶ、アーリエルーヤの好物。

 悪役女帝になった彼女が、全く同じ食事をしているシーンを書いた。

 そこでは、焼き菓子に毒が入っていたんだけど、悪魔の加護を得た彼女には効かなくて。


 女帝を暗殺したい派閥に買収された料理長は、拷問で黒幕の名前を吐かされた挙句、その黒幕ともども処刑された。


 ……いやー……。

 我ながら非道いエピソードを書いたものだ。

 こんな美味しい食事を作ってくれる料理長に暗殺の片棒を担がせるなんて、そんな非道い話考えたの誰だ? わたしか!


 一人ツッコミをしながら食事を進め、デザートの焼き菓子に手を伸ばした時。

 ふと、わたしは目を奪われた。


 赤、青、緑。

 色とりどりのマカロン。


 この世界には、着色料が存在するのだ。

 ならば。


「ヘメラ!」


 好物を前に固まったかと思えば、突然声をあげるわたしに吃驚したのだろう。二杯目の紅茶を注いでいた乳母が、「はっ、はい!?」と素っ頓狂な返事をする。


「今からわたくしの言う物が調達できるか、医師に訊いてきて頂戴!」

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