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断章:名も無き独白(3)

 かくして奴隷剣闘士から護衛騎士になった俺の主、ルーイ様は、とても面白い人だった。


 いつでもお守りできるように、俺が部屋の天井裏や壁裏に潜んで、何かあった時に飛び出してゆくと、「ヒョッホーイ!」とか「ハヒャッペ!!」とか、奇妙な悲鳴をあげる。

 皇女様って、もっとこう、「きゃあ」とかそんな控えめな悲鳴を出すものだと思っていたから、毎回新鮮だ。


 月に一回、必ずお茶会に俺を同席させる。

 手作りだという焼き菓子は、今まで味わった事が無いくらい美味くて、夢中でがっつくと、嬉しそうに表情を綻ばせてくれる。その笑顔がもっと見たくて、最初は遠慮していたお茶会が、いつの間にか、待ち遠しい催しになっていた。


 話す事が面白い。

 故郷で『遊び相手』をした女達の話は、美と金と理想の男と、家柄の自慢ばかりだった。

 だけどルーイ様は、ヘメラに刺繍を教わっているが針を思い切り指に刺したとか、庭に来た三毛猫が貴重なオスだったから即座に金になると思ってしまってすまなかったとか、皇帝陛下の惚気のろけが凄くて時々引くわとか、誕生会で靴のヒールを折った結果帝国中の女性の服装を変えてしまった武勇伝とか。とにかく話題が多彩で面白い。

 俺が上手く返しをできないから、きちんと楽しんでいる事が伝わらないのか、時折不安そうな表情をするのが申し訳なくなる。


 俺だけに見せてくれる笑顔が、果てしなく綺麗だ。

 金剛石ダイヤモンドのような銀色の瞳を細め、金髪をさらりと肩に流して、小首を傾げて微笑む姿は、初陣で見た朝日よりも美しい太陽のように見える。


 林檎が好きだとわかった。

 故郷で食べた林檎は、正直なところ、美味いとは言えなかった。だけど、ルーイ様の喜ぶ顔が見たくて、好きだと言った。

 そうしたら、目を真ん丸くした後、俺と同じものが好きで嬉しい、と返してくれた。


 ああ、ルーイ様。自惚れても良いですか。

 俺は貴女にとって、特別なのだと。

 ずっと見つめていても、良いですか。

 顔が赤いのを理由にその頬に触れて、良いですか。

 自我も無かった俺が、貴女を独り占めしたいと願う感情を持ってしまった事を、認めてくれますか。

 貴女なら、全部全部、笑って許してくれると信じています。


 だけど。

 深くない眠りに落ちた時、たまに同じ夢を見る。


「ルーイ様」


 その背に呼びかけると。


「……誰が、そんな馴れ馴れしい呼び方を許した?」


 酷く冷たい声で貴女が言って。黄金の髪が漆黒に染まって。

 振り返る貴女は、太陽のような美しい顔を、禍々しい仮面で覆い隠しているんだ。

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