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断章:名も無き独白(2)

 帝国本国に連れてこられた俺は、幾人かの鬼子と共に、奴隷剣闘士としてコロシアムに放り込まれた。

 武器は刃こぼれした短剣二振り。満足な防具も無いまま、観衆が見守る戦いに駆り出される。

 とはいえ、やる事は一緒だった。目の前に立ちはだかる敵を倒し、生き残るだけ。

 共に囚われた鬼子達は、気がつけばいなくなっていた。だが、幸か不幸か、俺は戦いの場に立てばいつも勝利を得て、その度に観衆の歓声を浴びた。


「お前はここの稼ぎ頭だ。簡単に死んでくれるなよ」


 コロシアムの支配人はそう笑って、勝ちを重ねる程に、装備と飯が良くなっていった。

 人生の自由を持つ権利が無いのは生まれた時から。『無銘』の俺は、何も考えずに、向かってくる相手を屠れば良い。


 そう生きてきたのに。


「お父様! わたくし、彼をわたくしの護衛騎士に召し抱えたく思いますわ」


 たまたま気づいて暗殺者の手から守ったその人は、俺を指差して、皇帝に宣言した。

 何を言われているのかわからなかった。何をすればいいのかわからなかった。

 俺は名前も意志も無い人間。人の命をこの手に抱えるのは重すぎる。

 そんな俺に、その人は言った。


「これからは、自分で考えなさい。あまりにもまずかったら、わたくしが止めますから」


 そして、『無銘』ではない名前をくれた。


「イル」


 イル。

 東方の言葉では複数の意味を持つ。


 要る。

 射る。

 居る。


 俺は、必要とされていますか。

 俺は、貴女の敵を射て良いですか。

 俺は、貴女の傍に居て良いんですか。


 こんな気持ちは初めてで、胸がじんわりと熱くなった。


 更にその人――アーリエルーヤ様は、特別な呼び方を自分で考えろと言った。

 俺の意志で何かを考えるのは、生まれて初めてで、とてつもなく迷ったけれど、決めた。


「……ルーイ」


 アーリエルーヤ様。いえ、ルーイ様。

 貴女が俺を「要る」と言ってくれるなら、俺は貴女を似た名前で呼びましょう。

 貴女の剣になり、盾になって、この命を懸けましょう。

 思考を放棄してきた俺に、生まれて初めて、考えるという事を許してくれた、貴女の為に。

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