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第1章:何事も初めが肝心でしょう(2)

 何故わたしがアーリエルーヤの事を知っているのか? 話はそこから始まる。

 わたしは彼女の事を良く知っている。だけど彼女はわたしの事を全く知らない。

 何故ならば、アーリエルーヤは、わたしが「作った」人物なのだから。


『セイクリッディアの花輪』


 わたしが「書いた」長編ファンタジー小説に出てくる人物である。

 だけど、このアーリエルーヤ。問題がある。そりゃあもう、問題も問題、大問題である。


 悪役なのだ。


 金髪に銀の瞳の『光吟士こうぎんし』の家系である、大帝国リバスタリエルの第一皇女として生まれた彼女は、絶世の美女であったが、しかし、真っ黒な髪を持っていた。

 それによって、父である皇帝に不義の子の疑いをかけられ、疑心暗鬼は増大して、七歳のある日に、父親に顔の半分を焼かれてしまう。

 恨みに駆られた彼女は、悪魔と契約を結んで父を殺害。火傷の残る顔を仮面で隠して皇位についた後は、恐怖支配で民を抑圧し、『烈光れっこうの女帝』として、国内外に悪名を轟かせる。


 そんな暴君を破ったのが、辺境に生まれた『聖女』ニィニナだ。

 聖剣『セイクリッディア』を手にした彼女は、悪の女帝であるアーリエルーヤを激闘の末に下し、彼女と契約を結んでいた悪魔をも倒して、世界に平和を取り戻したのだ。

 めでたし、めでたし、勧善懲悪の物語。


 ……いや、めでたくねーわこれ!


 何で自分が書いた話の登場人物になっているわけ!? しかも主人公じゃなくて悪役! しかもラスボスじゃなくて前座! 最高に盛り上がる前にぺちっと倒されて、ラスボス戦に忘れ去られる事請け合いの立場!


 どうしてわたしがアーリエルーヤになっているのか。それはわからない。

 だけど、今鏡に向かい合っているアーリエルーヤの顔は、既に美貌を兼ね備えながらもまだ幼く、火傷も負っていない。

 つまり、彼女が復讐に堕ちる前の状態なのだ。

 そしてわたしは、彼女がこの後どういう道を辿るか知っている。


 破滅、したくないじゃん?

 悪女として討たれたくないじゃん?


 ならば、わたしが取る道は唯一つ。


「ヘメラ!」


 わたしは乳母の名を呼んだ後、少々大袈裟にふらついてみせる。


「なんだかわたくし、熱があるようだわ。お父様とお食事をご一緒できないのは残念だけど、お忙しい皇帝陛下に万に一つでもご病気を伝染うつしたりしてはことだもの。今日はお休みさせていただきたいの」


 アーリエルーヤならこう言うだろう、という言葉遣いで、父親を案じるような科白を吐く。何せわたしの考えた人物だ。アーリエルーヤ自身以上に、彼女を知っているだろう。

 そして。


「んまああああ! それは大変!」


 ヘメラは予想通り、両頬に手を当てて狼狽えてみせた。

 この乳母が皇女に甘いのも、わたしが「設定」済みだから、よくよく承知している。


「すぐにベッドにお戻りくださいまし! 陛下にはわたくしから、アリエル様のご不調をよーくお伝えしておきますわ!」


 幼い子供の腕力では逃れられない力で、背中をずいずい押されるままに、ベッドに戻る。横たわれば、引き剥がされた時とは打って変わって、丁寧に毛布がかぶせられる。


「それではアリエル様、今はお休みくださいませ。後で食べやすいものをお持ちいたしますわ」


 ヘメラはそう言うと、恭しく一礼して部屋を出ていった。

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