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第3章:君は居る、わたしはルーイ(3)

 ……ウッワー……。


 あぶなっ。声に出なくて良かった。

 とはいえ、突然目を見開いて前のめりになった娘を、皇帝は不思議顔で見下ろしているだろう。見なくてもわかる。


 ナダ、君はめちゃくちゃ綺麗だなオイ。

 薄汚れたみすぼらしい格好で、髪もぼさぼさで、奴隷剣闘士です! って姿をしているのに、顔の造形の美しさは失われていない。すっごい美少年。

 それに、つりがちな赤い目が凄い。

 彼より頭二つ分くらい大きくて、身の丈ほどの大剣を構えてニヤニヤ笑っている、流浪のなんたらはどうでもいい。黙って両手それぞれに片刃の短剣を握って、腰を低め、敵を見据えるその目力。真正面から射抜かれたら、わたしは気絶するぞ。


 あと、あれだ。

 声聞きたーい! めっちゃ聞きたーい!!


「わたし」は『セイクリッディアの花輪』の登場人物に、脳内で理想の声をアテレコして書いていた。脳内CVってやつですな。

 その中でも、ナダの声は「わたし」のイチ推し声優、内村飛雄(ひゆう)なんだ。

 いやーほんと、真面目な役の時と、無邪気な青少年の時の声のギャップが凄くてね。ほんとめっちゃいい。全人類飛雄くんの声を聞いてくれ。


 って。いやいや、ひとり萌え語りしている場合じゃなかった。


 試合開始の銅鑼がひとつ、ごおおん、と、大きく鳴る事で、わたしは改めてナダを見つめた。

 流浪のホニャララが大剣を握ったまま、大股にナダへ歩み寄ってゆく。

 うわー、余裕だなー。それ知ってるぞ。盛大な負けフラグだ。


 ナダは近づいてくる大男から視線を逸らさず、その場から動かない。

 だけど、あと五歩、という距離まで対戦相手が近づいた時。


 すうっ、と。赤い瞳が細められて。

 しゅっ、と。ひとつ気を吐く音がここまで聞こえて。


 ナダが、地を蹴った。


 かと思うと、その小柄な身体が宙を舞い、銀髪が太陽の光に照らし出されて目映く輝き。

 短剣が、振り抜かれた。


「ぐわあああっ!」


 流浪にござる(?)が苦悶の叫びをあげて、大剣を取り落とす。ぽたぽたと、赤い血が地面に吸い込まれてゆく。

 ナダは一撃で相手の手の腱を斬り裂き、確実に戦闘能力を奪っていた。


 わああああっ、と。観客が熱狂に湧く。

 そして、わたしの身体も、芯から熱くなるような感覚に襲われた。

 たしかに、ナダが一撃必殺を旨とする凄腕の戦士だと、「わたし」は書いた。だけど、文字で読むのと、実際に目の当たりにするのでは、こんなにも興奮の度合いが違うのだろうか。

 そう。わたしはナダの戦いぶりに、興奮した。


 欲しい。

 この子がめっちゃ欲しい。アーリエルーヤの懐刀に。


 だけど、彼を召し抱える事は、悪役女帝の階段を二段飛ばしで昇るような危険を伴う。

 あーどうしようどうしよう。破滅はしたくない。だけど、不測の事態に備えて、専属の護衛は欲しい。それは彼以外に考えられない。

 いやっ! 考えろわたし! 少ない脳味噌から捻り出せ、フラグを全力回避して、ナダも手に入れる道を!


 アリーナのナダをガン見しながら、大学受験でもここまでやらなかったわってくらいに頭をフル回転させていると。


 赤い瞳が、いきなりこちらを向いた。


 えっ。

 何じゃ!?


 わたしがどきりと身をすくませている間に。


 ナダが、短剣を構え直したかと思うと、さっきの戦いのように狩人の目つきになって。


 一直線に、わたしの方へ向かってきたのだった。

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